“潜在化した助産師”を起こして社会課題を解決したい
── なぜ、助産師は潜在化しているのでしょうか?
岸畑さん:
現在、助産師の勤務先の9割を病院が占めていますが、出生数の減少に伴い、産院はここ10年で20%ほど減っていて、働く場所がどんどん少なくなっています。日本では助産師になれるのは女性のみということもあり、子育てや介護で臨床現場を一度離れてしまうと、そのあいだに制度が変わったり、子育てしながらの夜勤が難しくなったりと、いろいろな事情でそのまま離職してしまう人がとても多いんです。
なかには独立して助産院を開業する助産師もいます。ただ、十分な経営スキルを身につけていないことで廃業に追い込まれるなど、助産師の仕事だけで生計を保つことが難しい場合もあります。
助産師は看護師の国家資格を持ち、保健師の国家資格を保有する人も多いことから、女性の健康やメンタルヘルス、妊娠、出産、子育てなど幅広い専門性を持った仕事だと思っています。いろいろな事情で助産師のスキルを生かせずに眠っている人たちを起こしていけば、命にまつわる社会課題の解決につながるのではないかと思っています。
── 潜在助産師を起こすためにどんな事業を展開しているのでしょうか?
岸畑さん:
幅広い専門性を磨くとともに、病院の外に出ても働けるように、ビジネスやマーケティングを学ぶ機会を提供しています。今夏始めた「License says」というサービスでは、助産師のスキルを高めるカリキュラムを行うともに、起業や開業をサポートする取り組みも始めていきます。
また、株式会社赤ちゃん本舗と協同で妊娠や出産、子育てについて学べるサイトを立ち上げるなど、大手企業と連携事業を行うなかで、助産師が潜在能力を生かして活躍できる場面を作っています。
その結果として、自立した助産師が増え、病院外でも活躍できるようになれば、その先にあるさまざまな社会課題を解決できると思っています。
かつて助産師は地域で「産婆さん」と呼ばれ、出産の手助けだけでなく、妊娠中のケアや子育ての相談、子どもへの性教育などを担う社会的な存在でした。私たちは「助産師を地域に戻したい」という思いのもと、まずは顧問助産師サービスを通じて企業コミュニティに助産師を送り、次の段階では地域に密着した助産師も増やしていきたいと考えています。
── 地域で活躍する助産師を増やすための事業もあるのでしょうか?
岸畑さん:
昨年度は信州大学と協同して、長野県在住の育休中の家族を対象にした、助産師のオンラインサービスを展開しました。
ゆくゆくは全国各地のコミュニティにいる助産師が、企業で働く人もサポートするし、地域の子育てを応援するような環境を作りたい。
それぞれのコミュニティに合わせて、柔軟に対応できるような“助産師集団”を作る実証実験もしていきたいと思っています。