松本薫さんの助言で産後サポートチームの力を借りつつ復帰

── 産後の練習では、体調など出産前と違いましたか?

 

金城さん:
やっぱり10か月近く離れていたぶん、体力が落ちないわけないですよね。出産前とは身体の違いは感じますけど、それは想像していたこと。たとえ体力が落ちていても「レスリングがやりたい」と自分で決意して、レスリングに戻ってきている。産後ってこれまで経験したことがないことなので、自分のことなんだけどちょっと他人事というか、一歩引いて見ている感じはありますね。

 

── 産後の練習で、いちばん気をつけていることは何ですか?

 

金城さん:
練習内容も、以前からしたら考えられないほど少ない量から始めています。私は今年28歳になるのですが、今は18歳や19歳ですごく強い子もたくさんいる。だから無理をしないで、まずはケガをしないことを最優先にしています。妊娠前の状態に戻そうとしても、絶対無理ですから。新しいスタイルを確立していかなきゃいけないなと思いながらやっています。

 

金城さんのお子さんを囲んで微笑む土性沙羅選手と妹の友香子さん
今年8月の合宿での1枚。金城さんのお子さんを抱くのは土性沙羅選手。右は妹の友香子さん

── 産後、どのように体調を気づかっていますか?

 

金城さん:
国立スポーツ科学センターという施設があって、その産後サポートチームにお世話になっています。同郷の(柔道の)松本薫さんに「こういうサポートのシステムがあるよ」と教えてもらって。

 

ここでは産後の身体を調べるためにMRIやレントゲンを撮ったり、全部チェックしてくれます。「今、ここが痛いんです」と伝えたら、その痛みをなくすためのストレッチを教えてくださったり。今は家に帰ると育児をしなければならないので、今までみたいに練習時間を使えない分、ギュッと凝縮したトレーニング方法を教えてもらえて、すごく助かっています。

新生児のときはレスリングがやりたいとは思えなかった

── 現在は、どのようなスケジュールで練習しているのですか?

 

金城さん:
試合前になると毎週末、遠征に出るので家にいないことが多いんです。夫が教員をしていて、普段は福井県に住んでいるのですが、試合のときは私が子どもを連れて家を出て、名古屋にいる妹の友香子と一緒に金沢で練習しています。

 

毎日練習しているわけではなくて、育児の合間を縫って、いけるときに練習している感じです。代表の合宿は東京であったのですが、上京する前に石川の実家に子どもを預けて、翌日から合宿に入るために移動しました。

 

── 家族に支えられながら育児と選手活動を両立されているんですね。

 

金城さん:
新生児のときは本当に寝てくれなくて、正直レスリングをやりたいとは全然思えなかったんです。それよりも寝ていたい!って(笑)。

 

これでは選手に復帰するのは無理かも…って思っていたんですけれど、実家や家族の協力を得ながらやっています。最近はなんとかまとまって寝てくれるようになってきたので、ちょっと自分の気持ちの余裕も出てきましたね。「レスリングがやりたい」とやっと考えられるようになりました。

 

PROFILE 金城(旧姓・川井)梨紗子さん

​石川県出身。レスリング選手として、2016年リオデジャネイロオリンピック63kg級、2021年東京オリンピック57kg級にて優勝。プライベートでは、昨年結婚、出産し現在は女児のママ。
 

取材・文/池守りぜね 写真提供/金城梨紗子