長年の夢だった産婦人科医を目指すいっぽうで、東京五輪の舞台を逃すもアスリートとして自身の可能性を追求する女性がいます。医師と陸上の二足のワラジで奮闘する広田有紀さんに、両立の原動力について話を聞きました。

 

広田さんがリハビリ続きのときに書いた夢日記
広田さんがリハビリ続きのときに書いた夢日記

決めたことはやり遂げないと気が済まない

── そもそもどういう経緯で、陸上と医療のかけもちを始めたのでしょうか?

 

広田さん:
最初から陸上と勉強をかけもちするつもりで大学に進学したわけではないんです。医大生になったのは、お医者さんを将来の夢として掲げていたので。

 

陸上は高校在学中に国体で優勝したことが陸上部員の耳に入って、勧誘されて入った感じで…。

 

医師になるためには、医大生6年の最後に国家試験に合格し、研修医として病院で2年間実務経験を積むことが必要です。

 

ですが、今の私は、大学を卒業し国家試験に合格したのに研修医を延期している状態でして。医師を目指して医学部を志していた過去の自分からすると、今、そこまでして陸上に集中しているのが、信じられないですね。

 

── 最初はそこまで陸上に本腰入れるつもりじゃなかったのですね。医療と陸上、2つの夢を追いかけるのは、かなりハードルが高いと思うのですがいかがですか?

 

広田さん:
在学中は、医師国家試験合格と東京オリンピック出場を目指していました。集中するタイミングを決めて、どちらもやり切った感じに近いです。

 

国家試験前の冬は勉強だけに集中。大事な陸上の大会が迫っているときは陸上に集中していました。

 

厳密には「同時並行」ではないんですが、決めたことはやり遂げないと気が済まなくて!

 

── 一直線にやりたいことをやり切る姿に憧れます!

 

広田さん:
いえいえ、そんなことないです。大学入って最初の2年間は、タイムが伸びず苦しんでいましたし、勉強もしっくりこなかったんです。

 

24時間しかない時間をどうやって使えばいいかわからなくて、モヤモヤした時期がありました。

 

それで一度、陸上を頑張ってみようと思ったんです。結果が出せないなら諦めるくらいの覚悟で集中して取り組もうと。

 

── 具体的に何をしたんですか?

 

広田さん:
今までは決められたメニューをこなしていただけでした。どうやったら速くなるか、フォームや練習法を考えながら走るようになったらタイムが伸びるようになってきて。

 

秋田大学には指導者がいなかったので、東北大や仙台大学など定期的に合宿に参加して、技術面やトレーニング方法を学びました。

 

── 自分から積極的に動いて、工夫して走りこんだらタイムが伸びたのですね。

 

広田さん:
もともと走るのは好きだったけど、じつは運動神経はそれほどよくないんですよね。陸上以外の運動は全然できなくて。

 

スピードだけでなく持久力も試される800mは、ペース配分が大事です。

 

実際、レース展開も選手によって違い、それぞれの特徴をいかしながらさまざまな戦略が立てられる競技。私には、そういう点で800mが合っていたんです。