最近、よく見聞きする「多様性」という言葉。企業では「ダイバーシティ推進」として取り組みが広がっています。この大きなテーマへの取り組みをLGBT(※1)の視点から企業側に働きかけ、向き合っているのが、認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんです。今年6月末には、ウエディング業界の大手、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの社外取締役に就任。かねてからLGBTへの関心を事業にも活かしてきたテイクアンドギヴ・ニーズとともにどんな変化を社会に起こそうとしているのか、村木さんと、テイクアンドギヴ・ニーズ広報の木本由有さんに聞きました。

テイクアンドギヴ・ニーズの社外取締役に就任した村木真紀さん
テイクアンドギヴ・ニーズの社外取締役に就任した村木真紀さん

友人の結婚式ではいつも疎外感を抱いていた

── テイクアンドギヴ・ニーズの社外取締役に就任が決まったときはどんな気持ちでしたか?

 

村木さん:
テイクアンドギヴ・ニーズは、私が2013年に虹色ダイバーシティを設立してから、2014年に婚礼業界で初めて研修を受けてくださっています。それから長いおつき合いのなかで、LGBTの課題にとても熱心に取り組んでいることはよく知っていました。

 

── 10年近いおつき合いがあったんですね。

 

村木さん:
そうなんです。私は「女らしくない」女の子として育って、子どもの頃から、「自分は結婚しない。結婚式は自分には関係ない」と決めつけていました。だから、20代になり友人の結婚式に呼ばれるようになると、疎外感が強くて。「友人を祝いたいけれど、自分の人生に結婚は関係ないもの」という複雑な思いで出席していました。

 

でも、パートナーシップ(※2)登録をした同性カップルのお披露目パーティに参加したり、海外で結婚した友人が婚姻の平等(同性婚)を求める訴訟を起こしたりするうちに、「結婚もいいな」と思えるようになって、自分にも当事者意識が生まれていったんです。

 

結婚をビジネスにした企業のコンサルタントとして外部から関わることはあっても、内側から関わる経験はなかったこともあり、今回の社外取締役のお声がけはとても興味深く、「ぜひ」とお受けしました。

自分自身が働きづらさを感じ続けて

── 日本の企業の職場環境についてどんなところに働きづらさを感じますか?

 

村木さん:
LGBTの存在を意識していない職場が多いと感じます。同性カップルを対象にした福利厚生が整った企業はまだ少なく、上司が悪気なくハラスメントと感じられるような言動をする職場も目立ちます。

 

特に、トランスジェンダーの方は、カミングアウトして内定が取り消されたり、職場で深刻なハラスメントを受けるケースが目立ち、うつ状態になってしまう人もいます。

 

事業者にパワーハラスメント防止を義務づける「パワハラ防止法」が2020年6月に施行され、LGBTに対する侮辱的な言動もパワハラの対象に入るとされましたが、実際、ちゃんと取り組めている企業はまだ少ないと感じています。LGBTにとって働きやすい環境になっているとは言えないのが現状です。

 

── 一方で、LGBTへの取り組みを熱心に進める企業も徐々に増えているように感じます。

 

村木さん:
それは確かにそうですね。ただ、虹色ダイバーシティで継続している働くLGBTへのアンケート調査では、2020年においても研修や差別禁止ポリシーなど、何らかの施策に取り組んでいる職場はまだ3割程度。私たちのインターネットでの任意のアンケート調査に応じてくれる意識の高い人たちの職場であることを差し引くと、やはりまだまだです。主に大手企業の、ごく一部が取り組んでいるという印象です。パワハラ防止については企業の義務になったはずですが、特に中小企業では徹底できていません。

 

さらに同性パートナーへの福利厚生まで整えている企業は、10%ほどにとどまっています。

 

ただ、中小企業に関しては、施策を定めなくても、トップ層の裁量で柔軟に変化を起こせる場合もあるので、やる気になれば行動までは早いと思います。

 

── 企業がLGBTの取り組みを進める際、何が課題になっていると思いますか?

 

村木さん:
大手企業や先進企業が課題に感じているのは、制度は整えても、職場の雰囲気が追いつかない。よって、施策を使うメリットより、カミングアウトのリスクのほうが大きくて、せっかく制度を作っても利用者がいない、という状況です。カミングアウトしても大丈夫という雰囲気が現場にあるか。東京の本社だけではなく、地方の支社や工場にまで浸透させることが次のステップだと思います。