選挙特番で経験した切り込む勇気とやりがい
── 特に報道では、相手が答えにくいことを聞かないといけない場面が、多くありそうです。
片渕さん:
7月の選挙特番『池上彰の参院選ライブ』では、池上さんと一緒に沖縄で行われていた連合(日本労働組合総連合会)の平和集会を訪れ、芳野友子会長に取材しました。
国民民主党と立憲民主党の支持団体である連合が、自民党とも近づいているという報道があって、会員のなかにはその動きに懐疑的な人もいます。芳野会長には「その姿勢に、どういう意図があるのか?」ということに、答えてもらいたい。
とてもセンシティブな話題で、答えてくれない可能性もあるし、聞けないまま終わるかもしれない質問です。
序盤は、「なぜ、このタイミングに沖縄で、平和集会を行っているのか?」といった答えやすい質問から入りました。そして、もうそろそろインタビューも終わり…というタイミングに、「ちょっともうひとつ、個人的に気になることがあるんですけど!」と切り込みました。
── 番組を拝見していました。連合にとって、組織の状況に大きな影響を与える可能性もある、話だったと思います。あの質問、よく答えていただけましたよね?
片渕さん:
ドキドキしましたし、ここまできて相手を怒らせてしまうかも…と不安もありながら、勇気を出して質問をぶつけた感じです。
スタッフの方々からは「聞いてくれて良かった」と、池上さんも「このインタビューがあるから成立するね」と言ってくださって…。私自身も「答えてもらえて、良かった!」と思いましたね。
報道の仕事をしていても、トップにここまで厳しい質問を切り込む機会はなかなか少ないです。ピリピリした空気感のなか、勇気を出しましたし、やりがいを感じました。
── 芳野会長も答えながら、表情が厳しくて、ドキドキしたのもうなずけます。
片渕さん:
嬉しかった反面、オンエアを観て「躊躇しているのが、出ちゃってるな。もっと歯切れよく質問できないと、ダメだな…」と、反省もしましたけどね(笑)。
── 質問の順番を工夫するといった、技術的に対応できる面を教えてもらいましたが、他にも人から話を聞くために、大事にしていることがあるそうですね。
片渕さん:
聞くだけではなく、伝える場面でも大切なのですが、話しやすい、聞きやすい、雰囲気をつくることです。
伝える上でポイントに挙げた、声のトーンや間の取り方、抑揚などは、場の空気──カッチリしたものになるか、楽しい感じになるかの雰囲気に影響すると思います。
聞く場面でも、相手がリラックスして話しやすいか、委縮してしまって話せないか──。どちらになるかは、雰囲気が左右するところがありますよね。
「伝える」「聞く」といったスキルを発揮するのに、リアクションとか、相槌の打ち方とか、目線とかを含めて、トータルで雰囲気をどうつくるかも、大切な要素です。
── ご一緒している方で、そうした雰囲気づくりが上手だと感じる人はいますか?
片渕さん:
憧れの先輩として挙げた、大江麻理子キャスター。キリッとしながら、柔らかいところが素敵だと感じています。
── どこか場を緩める感じは、すごくいい雰囲気になりますね。
片渕さん:
鑑定団だと、今田耕司さんがスタジオに入ると、空気がパッと明るくなります。お宝を鑑定してもらうため、一般の方が緊張しながら出演されることの多い番組です。それだけに、リラックスできる雰囲気づくりが大切だと感じます。
『出没!アド街ック天国』では、レギュラー陣に加え、紹介する街にゆかりのあるゲストなど、出演者が多いです。この現場では、司会で宣伝部長の井ノ原快彦さんが、楽しく、みんながのびのび振舞える雰囲気をつくってくださっています。
PROFILE 片渕茜さん
佐賀県生まれ。2016年アナウンサーとしてテレビ東京に入社。多くの番組を担当し、「出没!アド街ック天国」で井ノ原快彦宣伝部長に振られる佐賀弁トークや、Instagramの「佐賀弁お天気」も話題になっている。
取材・文/鍬田美穂 写真提供/テレビ東京