「子どもに愛情を伝える」以外は頼っていい
── 何を頼ってよいのかと判断に悩むとき、その線引きをどう考えればいいですか?
吉田さん:
保護者のいちばんの役割は、子どもへの愛情を伝えることです。それ以外のことは、いざとなったら人に頼っていいと私は思います。母親は、自分を後回しにして最善を尽くそうとしがち。子どもに何をしてあげるかを優先し、愛情を示しているか、関心を示しているかを忘れがちです。
だからこそ、「これは誰かと一緒にやったら楽だな」「友人が同じ状況になっていたら助けたいな」くらいの感覚で、他者の力を借りるほうが良いと思います。困り果てるまでがんばってしまうと、人に頼るエネルギーも枯渇し、ますます面倒になってしまいますから。
ただ、私自身もいざ頼るときにはやはり少し躊躇してしまいます。でも、「もし、自分が頼ってもらったらうれしいな」ということを思い出して、勇気を出して相談してみるようにしているんです。
── 人に助けを求めるのが苦手な人のために、上手な頼り方を教えてもらえますか?
吉田さん:
上手に頼るために、依頼や相談を相手が受け止めやすくなる「KSK」というステップを紹介します。
(1)敬意(K)
「あなただから相談したい」という相手への尊敬の気持ちを示す。相手の名を呼びながら、「Aさんなら知っていそうだと思って」「Aさんならわかるかな、と思って」と相手への敬意に加え、「今、話しかけてもいいですか?」と相手の都合にも配慮するとよい。このとき、相手に悪いなという気持ちがあったとしても、相手に伝えるべきは「ありがとう」という嘘偽りのない感謝の気持ち。「すみません」「ごめんなさい」と謝罪の言葉を多用すると、相手も恐縮してしまう。
(2)存在承認(S)
「お時間をとってくださって助かります」「聞いていただけて心強いです」など、相手が耳を傾けてくれることそのものを承認し、相手の「役に立たなければ」といった心のハードルを下げる。すると、相手が「話を聴くだけでもいいんだな」と相談を受け止めやすくなる。その後、何を相談したいのかを簡潔に伝える。
(3)感謝(K)
「相談に乗っていただき、気が楽になりました」など、具体的な自分の気持ちや変化を添えつつ、可能な限りの感謝を伝える。相手が解決策を知らなかったとしても、「聞いてくれてありがとう」という気持ちで。
パートナーには「感謝して」頼る
── ストレートに好意や信頼を示すのは、最初は気恥ずかしくなりそうです。とくにパートナーにこうした言い方ができるかどうか…。
吉田さん:
相手をおだてたり、過度にほめたたえたりする必要はありません。ありがたかったことに対して、素直に「ありがとう」と言うだけでいいのです。
「いまさら、感謝を言葉にするなんて」と感じるかもしれませんが、夫婦という近い関係だからこそ感謝の言葉が響くんですよ。人は誰しも、がんばりを認められたい、感謝されたいという気持ちを持っているものですから。
── 家事、育児をパートナーと分担したいとき、具体的にはどんな頼り方がありますか?
吉田さん:
ひとつは、感謝される気持ちよさを体感してもらって、相手の家事・育児を習慣化していくパターン。たとえば、シンクにお皿が山積みで、相手にそれを洗ってほしいなら、それには絶対、手を出さず、相手が見るに見かねて動きだすのを我慢して待つ。もしパートナーが洗い始めたら、すかさず「ありがとう!そのお鍋、使いたかったんだ!」と喜びを伝えるのです。
相手が得意なことをお願いして、どこが助かったかを具体的にほめるのも効果的です。たとえば洗濯物干しなら、「ジーンズや大きなタオルって重いから、あなたがやってくれて本当にありがたい」など、自分がどう感じたかという“アイメッセージ(I message)”で感謝を伝えましょう。
── パートナーに分担してもらう以外のパターンは?
吉田さん:
手が回らない分を、家電やファミリーサポート、ヘルパーさんなどにアウトソーシングするのも良い方法だと思います。
パートナーにアウトソーシングを相談する際は、事前に家事、育児のタスクをリストアップして、自分とパートナーの仕事量の比率を可視化しておくのがおすすめです。それを提示しながら「これとこれはアウトソーシングしたい。そうでなければ、あなたにはこれをやってほしい」と相談すると相手の納得度も違います。
パートナーの家事、育児能力を伸ばせれば、お互いの苦労を共有でき、助け合っているという絆が深まります。人生100年時代、男女それぞれが生活力をつけるのも大切だと思います。