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起業家向けにシェアオフィスやバーチャルオフィスの事業を展開する株式会社ナレッジソサエティでは、週休3日から週休4.5日まで、自由に休日を選択できる「週休X日制」を行っています。

 

5年ほど前から模索していたというこの働き方で、会社の危機といえる状況も救ったと言います。代表取締役の久田敦史さんに詳しく伺いました。

株式会社ナレッジソサエティ代表取締役の久田敦史さん
株式会社ナレッジソサエティ代表取締役の久田敦史さん

起業したい人に「安定した生活」を供給したい

── 「週休X日制」は、週休3日、3.5日、4日、4.5日など「X」の日数を自分で設定できるそうですね。特徴とこの制度を始めたきっかけを教えてください。

 

久田さん:
2017年頃に大手企業が週休3日制を始めたというニュースが出始め、「それならうちは週休4日制にしよう」と考えたのがきっかけです。

 

週休4日制は、3日働いた後、4日休むという働き方ですが、起業化支援のビジネスを行っているなかで、スタッフに対しても起業を推奨してきました。

 

ただ、実際に起業するとなると、すぐに安定的な収益を得られるわけではなく、一定期間は無収入になることが避けられません。そのリスクから1歩踏み出せない人も多いので、金額はそれほど大きくなくても一定の収入を得て、社会保険などにも加入できる社員としての地位を確保しながら、休日にあたる4日分の時間を自分のビジネスにあててほしいという狙いもありました。

 

── 起業家支援として始めた制度だったのですね。

 

久田さん:
いざ制度を始めてみると、起業を考えている人からの応募が増え、結果的に非常に優秀な人材が集まってくれました。「自分で事業を行おうとしている人がスタッフとして起業家をサポートするオフィス」というブランドにつながる、という効果もありました。

 

現在は週30時間労働で社会保険に加入できることを踏まえて、自身の働き方に応じて比率を変えて休日を選んでもらっています。2021年からは「週休X日制」と制度名を変えて、選択肢を広げました。例えば、週3日勤務×1日9.5時間、週4日勤務×1日7.5時間、週5日勤務×1日6時間…という具合です。

 

給与は、時給×労働時間数をベースに、その人の週、または月あたりの時間数によって平等になるように決めています。

 

これまで、この制度を利用した6~7名が起業家として卒業していきました。

「自分で事業を始めたい」女性が増える傾向に

── 現在「週休X日制」を利用しているのはどんな方々でしょうか?

 

久田さん:
正社員、アルバイトを含めて12名のスタッフがいて、そのうち7名が女性です。子どもに手がかからなくなって自分の時間が増えてきたという人や子どもを保育園に預けられるようになったという人もいます。

 

── 実際、勤務日にはどんな仕事を?

 

久田さん:
当社は、起業家の方にナレッジソサエティにオフィス環境や住所を貸し出しているため、起業家の方々の郵便物がたくさん届くんですよ。

 

とくに午前11時から午後4時までの間に、郵便物の仕分けが集中して起きるので、子育て中の女性に仕分けの業務をお願いしています。

 

お子さんを朝送り出した後、午後に帰宅するまでの時間帯でできますし、子育てなどで仕事のブランクがあって社会復帰に戸惑っているという方にも向いている作業だと思います。

ナレッジソサエティの社内で作業を行うスタッフ
郵便物の仕分けをしている様子

そうやってビジネスの仕組みを知ってもらいながら、フルタイムで働く選択肢も勧めるなど、働くことのハードルを下げながらキャリアアップを進めてもらっています。

 

── 制度を設計する際、課題になったことはありましたか?

 

久田さん:
特になかったと思います。ただ、会社が人事の制度や働きやすい仕組みをつくっても、働く人たちに使われないと会社の自己満足で終わってしまうこともあるので、制度はなるべくみんなでつくりたいと思っています。

 

実際、「シフト外のスタッフと顔を合わせる機会をつくりたい」という声があり、ランチ会の食事代を全額会社が負担するなどの取り組みも実施しました。社員に気軽に意見をもらって、働きやすさをますます高めていきたいですね。

離職率の高さを働きやすさの追求で改善

── 「週休X日制」を取り入れて良かったと思う変化はありますか?

 

久田さん:
予想外でしたが、「週休X日制」によって優秀な人材からの応募が増えて、採用活動での苦労がなくなりました。

 

それに、ライフイベントで状況が変わったという人も働き方を変えて働き続けてくれるようになったんです。「代表、話があるのですが」と言われるといつもビクッとするのですが(笑)、辞めたいというのではなく「働き方を変えてこれからも頑張りたい」という相談が増えてホッとしています。

 

── 以前は離職率が高いといった課題があったのでしょうか。

 

久田さん:
そうなんです。とくに2014年から3年ほどは離職率が高く、苦しい時期でした。

 

新しい人が入るたびに毎回業務をレクチャーしますが、内容が多岐に渡るため、なかなか覚えてもらえない。とくに最初はミスが頻発し、注意をせざるを得ない。ミスと注意を繰り返すうち、当事者が限界を感じて退職してしまう…といった悪循環がしばらく続きました。

 

週休4日制を導入して以降、長く働きやすい環境づくりに力を入れてきたこともあり、状況は徐々に改善されてきました。

 

この「週休X日制」をきっかけに、働く人を増やしたいという思いがあります。そのためには、お子さんの発熱で気兼ねなく休める環境が必要です。休みを取ることへの罪悪感や引け目が軽減されるようにできたらと思っています。

代表自身も3歳児の父親「みんなが休みやすい環境にしたい」

── 私も以前は、子どもの急な病気で仕事を休むことで、まわりにどう思われるかすごく気にしていました。

 

久田さん:
私自身にも3歳の子どもがいて、急な発熱など似たような状況をよく経験していて。スタッフが気兼ねなく休んでくれると自分も休みやすい、という実情もあります(笑)。

 

結局長く働いてもらえたほうが、会社としても助かるんですよね。誰かが退職すると、またゼロから採用して、仕事を覚えてもらって…を繰り返さなければならない。その労力が必要なくなるのはやっぱり大きいです。