井森美幸
子どもの頃に高校野球で一番印象に残っているのは「荒木大輔さんでした」と話す井森さん

「この年齢になると叱ってくれる人がいないんです」と、話す井森美幸さん。今年で芸能活動37年目を迎えた彼女が、つねに自分自身を見つめ直せるのが「高校野球観戦」と公言。人生観さえ一変させた“高校野球”への愛について、井森さんが語り尽くします!(全3回中の1回)

甲子園で鳥肌ものの名試合を観戦して“高校野球沼”に

── 趣味が「野球観戦」という井森さんが、「高校野球」を好きになったきっかけは?

 

井森さん:私の子どもの頃は、テレビで野球中継を観るのが日常の当たり前の光景だったんです。

 

夕食をとりながらプロ野球を観る環境は、うちだけじゃなくて周りのみんなもそうだったと思います。

 

生活の中に、野球が入り込んでいたんですよね。高校野球も夏になると、朝からずっと家のテレビで流れていました。

 

15歳の終わりに上京してからは、寮で自分の部屋にテレビを置けないルールがあったので、一時期、野球を観ることから離れていたんです。

 

ただ、ひとり暮らしをしてからはプロ野球や高校野球をテレビで観るようになりました。

 

なかでも、「熱闘甲子園」が好きで、負けたチームにもスポットがあたるところに心が揺さぶられたというか…。それがどっぷり高校野球にハマるきっかけだったかもしれません。

 

── 試合に出ているチームの分だけ、ドラマがありますよね。

 

井森さん:そうなんです。私たちが中継で観ていたのは、主に試合での選手の姿ですけど、その裏側やこれまでの過程も見せてもらえたことで、興味がより湧きました。

 

「いつか甲子園で観戦したい」と思いながらなかなか行く機会がなかったんですが、2013年にいとこがよく観に行っていたことを知って、一緒に行ったんです。それから、毎年、行くようになりました(笑)。

 

── 高校野球にハマるきっかけとなった、2013年はどんな年だったんですか?

 

井森さん:この夏の甲子園は、地元・群馬の前橋育英が初出場して初優勝した年だったんです。現・埼玉西武ライオンズの髙橋光成選手が2年生エースでした。

 

私は、準々決勝の試合を観に行ったんです。その試合、前橋育英は常総学院に9回裏まで負けていたんですが、2アウトランナーなしから、同点に追いついたんですよ。

 

私は「この状況だったら、何となくもう終わりかな」と思って観ていました。でも、そこから同点に追いついて…。結果、逆転勝ちしたんですよね。

 

試合が終わって、「あの瞬間、グラウンドで諦めたのは私だけかもしれない」とも思いました。

 

球場にいると、テレビでは伝わらない温度を感じるんです。初観戦したときに、「観客も一緒に試合をつくっている」と感じました。

 

あの熱気のなかで、奇跡を目の当たりにしたときに、これはやっぱり、毎年観に行く価値があると思ったんですよね。

 

今は、春も夏も甲子園に観に行っています。もう、本当にいいんですよ!大人になったからこそ見える高校野球の良さみたいなものがあるんですよね。

仕事に「慣れちゃいけない」と思わせてくれた球児のプレー

── 大人になって井森さんが感じた高校野球の良さとは?

 

井森さん:球児たちの、あのひたむきさを見たときに、「私に今、足りないものってこれじゃないかな」と気づかされたんです。

 

大人になってキャリアを重ねていくと、「もうここまでやったらいいか」みたいな、見えないルールを自分のなかで決めて諦めてしまうことってあると思うんです。

 

でも、それがグラウンドにはないんですよね。いくら点差が開いていても、諦めないで全員で力を合わせて、集中力を上げていく…。

 

その一体感って、自分のなかでは忘れていたものだったんです。

 

球児たちの姿を見たときに、私は「これまでの人生で、こんなにふうにやれていた自分がいたのかな?」「これほど没頭して、みんなと力を合わせて、泣いたり笑ったりしてきた人生だったかな」と自問自答しました。

 

仕事や学生時代を振り返っても、もしかしたらなかったかもしれないなと思って…。

 

そうして、球児たちから刺激を受けて、どこか人生がリセットされたような気持ちになりました。

 

彼らの姿から、仕事に向かう自分の姿勢も改めて教えてもらえた気がします。

 

だから、私が毎年、高校野球を観に行くのは、そこで自分自身をもう1回見つめ直すものになっているんです。

 

この1年、自分がどれだけできていたか、熱量を忘れないでできたか。毎年、自分の生き方の答え合わせに行っている感じ。

 

でもいつも反省ばかり。「あぁ、できてなかったなぁ」って(苦笑)。

高校野球のなかに人生のヒントがあった

── 高校野球が、ご自身の生き方を映し出す“鏡”になっているんですね。

 

井森さん:そうなんです。球児たちを見ていると、本当に学ぶことばかりですね。私にとっての人生の先輩って、球児なんじゃないかなと思うぐらい。

 

みんな、たくさんの厳しい練習もこなしています。私なんて、それに比べたら何にもやってない気がして。そんな反省と戒めもかねて行っています(笑)。

 

私は高校野球のおかげで、仕事に対しての気づきを見つけることができました。

 

すべて高校野球が人生にリンクしているような気がします。自分に足りないものや気持ちを補ってもらえるのも原動力の一つですね。

 

この年齢になると、なかなか𠮟ってくれる人も少なくなってきます。しかも、どちらかといえば、誰かに教える立場にもなってきて…。

 

そうしたなかで「これでいいのかな」「この方向で正しいのかな」と不安にもなることもあります。自分の物差しでしか測れなくなってきているんじゃないか、と感じることも。

 

そんななか、ひたむきな球児の姿をみていると、不安に対する自分なりの答えが準備できる。人生で迷ったときのヒントが、高校野球にありました。

 

PROFILE 井森美幸さん

1968年群馬生まれ。ホリプロキャラバングランプリを経て、1985年4月21日デビュー。以来、バラエティを中心に活躍を続ける傍ら、ふるさとの群馬をPRする「ぐんま大使」も務める。趣味の野球観戦が高じて、高校野球にも精通。

取材・文/小松加奈 撮影/富本真之 ヘアメイク/伊東久水 スタイリング/平野真智子 衣装協力/novice(ノーヴィス)、BELLE MARIEE