育休中は、家事だけであっという間に日が暮れた

── 育休中、ご自身の気持ちに変化はありましたか?

 

石井さん:
「家事ってこんなに大変なんだ」と改めて感じました。

 

育休を取るにあたって、育休経験者の知人からいろいろと話を聞いていたのですが、みんな口ぐちに「子育てでは父親はたいしたことはできない。だから、奥さんが子育てに専念できるように、それ以外の家事を全部担当する気持ちでいたほうがいい」と言うんです。

 

「たしかにそうだな」と納得して、育休中は「3食作る、掃除、洗濯」を一手に請け負うことにしました。まわりの人たちに教えてもらったり、助けてもらったりしながら、ひたすら動いていました。それでも、本当にほぼ家事だけで1日が終わってしまうんですよね。

 

いわゆる“名前もなき家事”が本当に多いことにも驚きましたが、男性ってそういうところに気づかないと言われていますよね。ゴミ出しだって、男性は家からゴミ捨て場に運ぶことがゴミ出しだと思っているけれど、いつでも捨てられるようにゴミ袋にまとめるまで進めてくれるのが女性だったり…。育休は、そんな事実も自覚させられる日々でした。

子連れ出社を果たした石井食品社長の石井智康さん
育休後、石井社長はお子さんを連れて会議にも出席した

男性が育休を取りやすくする文化が浸透

── 石井さんが育休を取った後、2020年には3か月半の育休を営業の男性社員が実現され、2021年に男性社員、また執行役員のお二人が約1か月ずつ取得されています。2021年には、育休だけではなく、介護休職を女性の執行役員の方が6か月取られたそうですね。

 

石井さん:
育休や介護のために休みを取りたいと、社員たちが手を挙げ始めたことは嬉しいです。管理職側に、働く仲間が長期的に休めるようにサポートしたいという意識が高まっていることも、とても前向きな変化だと思っています。

 

人事の会議などで、「男性育休を取ろうとしている社員がいる」といった話が執行役員から出たりするのですが、その報告の語気やニュアンスを聞いていれば、それに対してみんながどう思っているかって伝わりますね。石井食品では、「1か月も3か月も休むなんて」という話は聞かないし、そういった空気感は感じていないので、いい傾向なのかなと思っています。

 

── 休みを取った方も周りの方も「良いこと」として受け止めているということでしょうか。

 

石井さん:
それはあると思います。役職が上になるほど「自分がいないと仕事が動かない」と思い込んでいる場合がすごくあると思うんです。だから、いざ休んでみたら、意外と若手やサブマネージャーの活躍でカバーされたうえに仕事の可能性が広がった、自分がどれだけ仕事を抱え込んでしまっていたかが分かった…という具合に、自分の仕事の棚卸しをする機会にもなっているようです。

 

PROFILE 石井智康さん

石井食品株式会社 代表取締役社長執行役員。1981年生まれ。2006年6 月にアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(現アクセンチュア) に入社。2014年よりフリーランスとして、アジャイル型受託開発を実践し、ベンチャー企業を中心に新規事業のソフトウェア開発及びチームづくりを行う。2017年、祖父の創立した石井食品株式会社に参画。2018年6月、代表取締役社長執行役員に就任。地域と旬をテーマに農家と連携した食品づくりを進めている。

取材・文/高梨真紀 写真提供/石井食品株式会社