「イシイのおべんとクン ミートボール」をはじめロングセラー商品を数多く育てる石井食品株式会社では、2018年、代表取締役社長執行役員に石井智康(いしい・ともやす)さんが就任。それ以降、新たな組織基盤づくりを進め、多くの関心を集めました。
ソフトエンジニアとして活躍後、家業を継いだ創業家3代目社長の石井さんがまず着手したのは、情報共有のオンライン化をはじめとしたアナログ体質からの変革でした。1945年の創業時から受け継がれる良さも活かしながら進めた組織づくりについてお聞きしました。
「家業の世話になりたくなかった」
── 石井さんは大学卒業後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(現アクセンチュア)でソフトウェアエンジニアとしてキャリアを築いた後、フリーランスとしても活躍されました。仕事が順調だったなか、家業である石井食品への参画を決めたときの気持ちを教えてください。
石井さん:
理由のひとつとして、フリーランスのエンジニアとして自分で稼ぐ自信をもてたことが大きいです。大学卒業後、就職活動で石井食品を選ばなかったのは、家系への大きなコンプレックスからでした。「家業に世話にならなければ自分は生きていけないんじゃないか」と、漠然とした不安を持ち続けていて。
だからこそ、新卒で働き始めるときから、家業の世話にならなくても稼げるように、食べていけるようになりたいと意識していました。おかげさまで、フリーランスになってからもいろいろな方のお世話になって、すごく楽しく仕事ができました。「フリーランスでしばらく稼いでいける」と自信がついて、初めて家業で働くという選択をフラットに考えられるようになりました。
会社の強みと弱みは現場で働く社員がよく知っている
── ご自身のスキルや経験で稼げる自信ができたことが、家業での新しい可能性につながったのですね。2017年に参画後、2018年に代表取締役社長執行役員に就任されて組織基盤づくりを始められましたが、特に重視した点を教えてください。
石井さん:
石井食品らしいチームマネジメントの実現です。
これは、私自身のソフトエンジニアとしてのキャリアが大きく影響しています。IT業界って個人スキルが重要なように思われがちですが、実際は天才プログラマーが一人でつくるよりも、信頼し合った10人がチーム力を高めてつくったほうが良いプロダクトを実現する可能性が高いんです。個人の能力差に比べて、チームの能力差のほうが比べものにならないくらい大きいという研究もあります。
だから、IT業界では、メンバーが一人ひとり力を発揮できるチームづくりが重要視されています。石井食品でも、まずチーム力を高めるために何をするべきかを焦点に進めていきました。
── 具体的にどんな取り組みを進めたのでしょうか。
石井さん:
まず、ほぼすべての部署を回ってチーム別に石井食品の強みと弱みだと思うことを出し合いました。付箋紙を使って、働く人が感じていることから石井食品の良さや課題を可視化しました。そこでまず課題としてわかったのが、情報共有が全然できていないこと。属人化がどの部署でも起こっていて、チーム力向上の壁になっていました。
属人化を解消させるために、Googleのプラットフォームを入れるなど情報共有のオンライン化を進め、1人が持つ情報をみんなで分け合う基盤を整えました。また、チームで業務の振り返りをする習慣をつくって定期的に課題を洗い出しながら、メンバーのスキルを分散させる体制をつくっていきました。
── いつ頃までその取り組みは続けられたのでしょうか。
石井さん:
属人化に終わりはないので、就任してから今もずっと続けています。もちろん、部署によっては属人化をなくすのが難しい場合もありますが、ひとつ、属人化を解消する方法としては、長期休暇を取ることで促されると考えていて、代表就任後から2週間の長期休暇を推奨しています。
有給休暇と長期休暇の取得率で、どれだけ属人化が解消されたかがひとつの目安として見て取れると思っています。現在、長期休暇の取得率は約60%です。休暇の取り方も分散型を希望する社員がいることを想定すると取得率100%は高い壁だとは思いますが、80%くらいまでは上げられると思っています。