企業のDX(デジタルトランスフォーメーション/進化したIT技術を浸透させることで業務をより良いものへ変革させるという概念)推進のため、ERPを軸としたソリューションを提供するワークスアプリケーションズ・グループ。
2004年から実に18年もの間、育児休業を通常より長い3歳まで取得できるなど、着実に手厚い子育て支援制度「ワークス・ミルククラブ」を整えてきました。なぜ実現したのか、その理由や導入後の効果について、株式会社ワークスアプリケーションズ グループ人事統括本部の平山俊大さんと杉山理恵さんにお聞きしました。
子どもの小学校卒業まで時短勤務を選択できる
── 子育て支援制度「ワークス・ミルククラブ」については2020年に一度取材させていただいていますが、18年前から続いているというのは素晴らしいですね。あらためて特徴を教えてください。
杉山さん:
妊娠が判明した時点から出産後に子どもが小学校を卒業するまでの12年間、段階的に子育てと仕事の両立支援をサポートする制度です。
具体的には、「職場復帰特別ボーナスの支給」「妊娠判明時から取得可能な産前産後休業」「子どもが3歳の誕生日を迎えた最初の4月末まで延長可能な育児休業」「子どもが小学校を卒業するまで選択できる短時間勤務制」「子どもの病気やケガの看護が必要な場合の特別休暇」などがあります。
── 「妊娠判明時から取得可能な産前産後休業」「子どもが3歳の誕生日を迎えた最初の4月末まで延長可能な育児休業」「子どもが小学校を卒業するまで選択できる短時間勤務制」など、一般に比べてとても柔軟ですね。なぜこんなに充実した制度がつくられたのでしょうか。
平山さん:
「ワークス・ミルククラブ」が制度化されたのは2004年ですが、その時代は、1985年に制定された「男女雇用機会均等法」、1991年制定の「育児休業法」など、女性が働くことに関して法律が整備され始めた頃でした。
ただ、まだ「女性に育児を頼り、女性は家庭へ」という世論のままで、一般的に労働環境も整っていませんでした。
そのため、社内の有志が集まって「子育てを通して子どもと向き合える制度をつくりたい」と議論を重ねたんです。目指したのは、子育てをする社員にとって”力を発揮するために本当に必要な”制度です。時間をかけて社員の声を集めながら、細かく内容や運用方法を設計していきました。
当事者の女子社員自身が遠慮して頓挫
── 制度づくりで課題になったことはありますか?
平山さん:
実を言うと、最初に提出された制度案は、一度却下されています。当初、マイノリティである産休・育休を取得する社員に手厚い制度を作ることに対して、制度企画に有志で参加した女性社員たち自身が遠慮してしまったのです。
ただ、その後、経営陣から「産休・育休を取得した社員が100%復帰し、活躍できる制度をつくろう」と後押しされて、再度、半年以上かけて議論を重ねました。その間、さまざまな会社の育児支援体制を参考にして、社員に求められる支援制度とはどういうことかという問いを立てて、追求していきました。
「ワークス・ミルククラブ」は早期の職場復帰支援、長期の休業支援といった各々のライフスタイルやビジョンを尊重する選択肢を用意しています。体調を崩しやすい妊娠判明時に利用できる休業や職場復帰に家族の理解を得る理由となる職場復帰特別ボーナス、育休の延長や小学校卒業まで利用できる時短制度など、段階的に必要となる支援を導入しています。
現在、女性社員の産休取得率、育休取得率とも100%です。みんなそれぞれのポジションで活躍しています。
── 実際に制度を活用している方の声を聞かせてください。
杉山さん:
「サポート体制が整っているおかげで安心して復職できた」「育休を延長できるうえ、子どもが小学校を卒業するまで時短勤務で働くことができるのはとても助かっている」などと言ってもらえています。
女性への手厚い制度は本当に働く女性のためになっている?
── 今後、「ワークス・ミルククラブ」をはじめ、子育てと仕事の両立を支える環境づくりにについて何か課題があれば教えてください。
平山さん:
福利厚生全体に関する課題ですが、以前に比べ育児をする男性が増えているなかで、「女性に対する手厚い制度が、果たして本当に女性の働くことを支援しているのか?」という葛藤があります。
特に、テレワーク主体の働き方になり、保育園の送迎や通院など、男女でシェアできることが、手厚い支援があるためにその役割が女性に任されやすくなっているという話も聞きます。子育ての現状に合わせて、男性社員向けの育児休暇制度を含め、過去に整備した制度を再度拡充する必要性を感じています。
男性がより育児をしやすい環境になれば、子育てしながら働く女性の働きやすさもより向上するはずです。ワークスアプリケーションズ・グループでは、男性の育休取得率は23.7%と、厚生労働省が2020年に行った調査結果の12.7%を上回っています。
ただ、数値のみを追い求めるのではなく、本質的に仕事と育児の両立ができ、仕事に力を発揮できる会社になるようにこれからも制度を整えていきたいと考えています。
また、コロナ禍をきっかけに、もともと行っていたフルフレックス勤務に加えて、テレワーク原則の働き方に変更しました。出社する必要があればオフィスに出社できることが前提ですが、日本全国どこに住んでも構いません。子育てのサポートを受けるために、親元に近い場所に引越しをする社員もいるんですよ。
当社のミッションのひとつに、「クリティカルワーカー(課題解決する力がある人材)に活躍の場を提供する」というものがあります。これは人事制度を整備するうえで一番重要な軸になっています。今後も、社員が力を発揮できるために必要なのはどんな環境なのか?という視点で制度や働きやすさを実現していきたいです。
取材・文/高梨真紀 画像提供/ワークスアプリケーションズ