SNS投稿をきっかけに、累計発行部数100万部超の大人気シリーズまで育った漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』(全7巻)。作者の松本ひで吉さんが描く、行動は容赦ないけれど憎めない猫さまと、絵に描いたように愛らしい犬くんとの毎日は、累計1000万いいね&300万リツイート達成し、アニメ化もされました。

 

現在も、動物たちとの漫画を通して多くの人を癒やす松本さんに、動物たちの漫画のこと、また動物たちに教えてもらった大切なことについてお聞きしました。

就職もしたけれど…性に合わず漫画を描き続けるように

── 漫画家になったきっかけを教えてください。

 

松本さん:

子どものころから絵をかくのが好きで、漫画をよく描いていました。就職もしてみたのですが、結局性に合わず漫画を描き続けて今に至ります。

 

── どんなことから犬くんや猫さま、トカゲちゃんのことを漫画に描くようになったのですか?

 

松本さん:

あるとき、Twitterに自分の犬猫の話を描いてみたんです。そうしたら、思いのほかたくさん反響をもらいまして、すっかり気をよくしてずっと描かせていただいています。

松本ひで吉さんの漫画
我が物顔の猫さまに為す術もない松本さん

心身ともにボロボロな状態を救ってくれた

── 今でもクスッと笑える動物たちとのエピソードがあれば教えてください。

 

松本さん:

犬と猫のキャラクターが正反対なのでとても面白いです。

 

犬はグイグイくるんですけど、猫は奥ゆかしく一歩下がるタイプ。犬を膝の上で甘やかしている時、自分も遊んでほしい猫がやってきてじっと待っていたのですが、なかなか場所を譲ってくれない犬に業を煮やし、犬を踏んで膝に上がってきました。普段クールぶってるのにキャラをかなぐり捨ててきた猫に笑いました。

 

ほんとうに仲の良いきょうだいだったので毎日癒やしの時間をもらえました。

松本ひで吉さんの漫画
犬くんはとにかくポジティブないい奴

── これまで猫さんや犬くん、トカゲちゃんがいてくれてよかった、助けられたと思うことはありますか?

 

松本さん:

以前、過労と体調を崩したのが重なって体が動かなくなったことがありました。しばらくの間、それまでずっと続けていた仕事場を撤収して実家にひきあげることにしたんです。

 

ワーカホリックなので休むことに罪悪感さえ覚えるのですが、うちの犬と猫は私が横になれば大喜びで一緒に寝たがって寄ってくる。自分が休むことをこんなに喜んでくれる存在があることにとても安堵してすっかり怠け者になれました。

 

また犬は私のことが大好きだったので、毎日が大肯定祭りです。一時期は見失っていた自己肯定感もめきめき回復しました。彼との友情は私の宝物です。

コロナで自由を奪われ「とりあえず結婚しとくか」

── 昨年末、夫さんとご結婚されたそうですね(おめでとうございます!)パートナーとの結婚に踏み切られた理由はどんなことだったのでしょうか。夫さんも無類の猫好きで、松本さんが実家で飼われている猫さんや犬くんへの思いにも理解がある方なのだなと感じています。

 

松本さん: 

結婚に踏み切った理由はコロナだったので…。

 

コロナによっていろんなことを制限され、人生は自由だと思っていたのが突然自由がなくなることもあるんだなと痛感し、できることはできるうちにやっとくかと、とりあえず結婚してみました。

 

夫は、他者にも期待せずにただ生きているだけ、という感じのところがいいです。おたがい猫好きなので、動物にとんでもない甘え声をだして話しかけても引かれないところもありがたいですね。

松本ひで吉さんの漫画
もともと猫好きなパートナーだが、もしかしてトカゲもいける…?

いっしょに過ごせる「今」がありがたい

── 結婚してから実家で飼われている猫さんと過ごす時間が以前よりは減ったと思いますが、行動や気持ちの面でとくに変わったことはありますか?

 

松本さん:

犬猫もつれてきて一緒に暮らしたかったのですが、彼らの幸せは実家での今の生活を続けることだろうと思い、断腸の思いで離れて暮らしています。彼らのいない生活は時間を持てあましぎみで、やたら観葉植物の世話ばかりしています。

 

── 今年5月、犬くんが亡くなったとの投稿があり、ファンとしても非常に悲しく残念に思っています。松本さんは取り乱すことなく穏やかな印象でした。犬くんとの別れの前にどのように気持ちを整理されていたのでしょうか。

 

松本さん:

いずれ来る別れに心がさざめいても、そのぶん今一緒にいられるありがたみを感じられるなら、その気持ちもそう悪いものでもないんじゃないかなと思います。

 

私の場合は介護をする期間があったので、自然な流れのなかで旅立ったという実感が手放す気持ちにしてくれました。

 

Amazonなどで介護グッズのレビューをみると、そこにいろんな人の愛が詰まっていることがわかります。

 

この世にこれだけの数、愛されている犬や猫がいるんだと思うと、妙に心が強くなる感じがします。別れが唐突だったなら、もう少し時間がかかったかもしれませんね。

 

── 今後、夫さんとの生活で、新たな動物を飼われる予定はありますか? 

 

松本さん:

夫が実家の猫を連れてきたいそうです。

 

 

思わず吹き出したり、温かい気持ちになったり、ほろりときたり…松本さんの漫画は疲れた心に沁みる癒やし効果が絶大。これからご主人や新たな動物が家族に加わったとしたらどんな毎日が描かれるのか、とても楽しみです。

 

PROFILE 松本ひで吉さん

2008年、『ほんとにあった!霊媒先生』で第1回少年ライバルコミック大賞に入選、漫画家デビュー。2011年には第35回講談社漫画賞(児童部門)を受賞。Twitterへの投稿がきっかけで書籍化された『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』は累計発行部数100万部突破し、アニメ化も。現在も日々の暮らしやペットたちのことをTwitterに綴っている。

取材・文/高梨真紀