コメントでようやく完成した『愛する日々』

── 今まで作った作品のなかで、特に思い入れのあるものはありますか?

 

しんらしんげさん:

今まで紙工作で100作品以上作っているので、どれも思い入れがあって選べないのですが(笑)、あえていうなら、今年の5月に発表した『愛する日々』という同性愛をテーマにした仕掛けノート漫画でしょうか。

最新作『愛する日々』
最新作『愛する日々』

この作品は実は2年ほど前に作った作品のリメイクです。鉛筆をくるくる回すことでスライドショーが展開する作品です。当時はバズることはなかったのですが、今回、ノートに変更して公開したところ、68万以上の「いいね」をいただきました。仕掛けノート漫画にしたことで、内容がより伝わりやすくなったと思います。

鉛筆をくるくる回すフィルム漫画
鉛筆をくるくる回すフィルム漫画

── 他に変更した点はありますか?

 

しんらしんげさん:

以前と異なり、今回は一人称視点の叙述トリックを採用しました。見ていただくとわかるのですが、ストーリーは人間の固定観念の裏をかくような内容で、最後に「あっ」と驚く展開になっています。一人称にすることで、主人公がどのような人か最後の方までわからないので、ラストまで楽しめるようになったと思います。

『愛する日々』制作途中
『愛する日々』制作途中

── 「思い入れがある作品」に挙げたのは、反響が大きかったことが理由でしょうか?

 

しんらしんげさん:

それもそうなのですが、読者からのコメントを読んで、ハッとさせられたことがいちばん大きいです。私自身はストーリーにもそこまで深い想いはなく、この作品を通して社会に対して伝えたいメッセージがあったわけではありませんでした。

 

そんななか、作品を見た方々が、自分では意識していなかったさまざまな視点や見解をコメントしてくださっていました。例えば「 『"彼氏""彼女"いる?』じゃなくて『"恋人"がいる?』って質問できる世の中になれたら幸せだろうね。 」といったコメントです。それを読むなかで自分なりに気づきがたくさんあって、自分のなかでようやくこの作品が完成したような気がしたんです。

細かな仕掛けを加えていく
細かな仕掛けを加えていく

── 次々とユニークな作品を生み出しているしんらしんげさんですが、今後はどのような作品にチャレンジしていきたいですか?

 

しんらしんげさん:

仕掛けだけではなく、ストーリーについて褒めて頂けることもあって、とても嬉しいなと感じています。基本的に、今は「セリフを語る」というよりも「セリフがない」なかでストーリーを展開する作品が主ですが、今後はさらに長いストーリーや、少しセリフのある絵本のような作品も作ってみたいと思っています。

しんらしんげ/愛する日々【仕掛けノート漫画】love days

PROFILE しんらしんげさん

工作漫画家。紙工作作家。作品はインスタやTikTok、作品の作り方は「Yahoo!Japanクリエーターズ」に投稿。書籍『紙コップとわりばしと段ボールで作る 動くぺーパークラフト 単行本 –』(KADOKAWA)が発売中。

取材・文/酒井明子