ドラえもんをモチーフにした紙コップ漫画が24万回以上のリツイートを記録し、2016年のTwitterのリツイート数ランキングNo.1に輝いた、紙工作作家・工作漫画家のしんらしんげさん。最新作をはじめ、数々の素晴らしい作品が誕生したきっかけや制作秘話について、しんらしんげさんに伺いました。
制作の裏側や仕掛けを知って「神コップ!」の声
── しんらしんげさんは、なぜ「紙工作」を作ろうと思ったのですか?
しんらしんげさん:
紙工作は大学生のときに始めました。きっかけは、暇だったからです(笑)。
もともと、Twitterのアカウントは持っていて、日常生活についてつぶやいてはいたのですが、それだけではおもしろくないので、何かできないかなあと。小さい頃から手を動かすことが好きだったので、何か作品を作ろうと思い立ち、裏アカを作って作品をアップし始めました。そのアカウントが今の@shin__gekiです。
最初の頃は、今のような紙工作ではなく、イラスト絵を公開していました。ただ、イラストを公開している方は他にもいっぱいいます。「人と違うことがしたい」という思いもあって、食パンに絵を描いたり、タバコの灰を使って絵を描くなど、他の人がやっていないことを模索していました。
── それが2016年のリツイート数ランキングNo.1の作品に、どのように繋がったのでしょうか?
しんらしんげさん:
その延長線上で、偶然生まれた感じですね。家にたまたま紙コップがあって、ふと、これを使って何かできそうだなと。元々、パラパラ漫画が好きだったので、それと紙コップが頭の中でつながったんだと思います。
作品は、重ねた3つの紙コップを動かすことで仕掛けが作動し、ドアが開いたり、タイムマシンに乗ったりしながら物語が進んでいきます。コップの内側や底面も利用しながら、漫画の世界観を表現しました。
大学生で暇だったので時間に余裕はあったのですが、何度も試行錯誤を重ねて1週間くらいかけてようやく完成しました。
実は、紙コップを重ねて動かしているうちに、せっかく作ったドアが歪んでしまったことがありました。最初は失敗した…と思いましたが、結果的にどこでもドアが開く仕掛けに繋がりました。それ以降、他の紙コップ作品でもこの仕掛けを時々使っています。
── デジタル作品が増えている今、あえて紙工作という点が面白いですね。紙コップのみならず、紙皿やノートなど、どこの家庭にもあるような素材を使っているのは理由があるのでしょうか。
しんらしんげさん:
そうですね。紙コップやノートなどを使うのは、「身近にある見慣れたもの」を意外な形にしたり、想像の斜め上をいく使い方をすることで、「新鮮さ」が生まれます。そこが面白いなと。だから、あえて身の回りにあるものを使うようにしています。
── 紙工作というアナログな作品を作りつつも、デジタルなものも駆使して作品を作られています。2021年に発表した『へんがお』も30万「いいね」がつきました。
しんらしんげさん:
仕掛けノート漫画『へんがお』は、まさにデジタルとアナログの良さを組み合わせた作品と言えるかもしれません。「仕掛けノート漫画」とは、ノートに立体的に描いた絵の一部を切り抜き、切り抜いた部分を紙ハンドルで操作して動かすことで、絵が動いているように見える漫画です。
作品作りにノートを使おうと思ったのは、「トリックアートの手法を使いたい」と思ったからです。
仕掛けノート漫画は絵を直角に曲げている形になっているので、見る角度によって見え方が違います。それを利用して、カメラや絵の角度を計算して、ノートの上には「歪んだ絵」を書いています。正面からカメラで撮影した動画をアップしているのですが、そこで見る分には、違和感なく、「絵が整って」見えます。
── 作品を投稿後にツイートされていた「ノートに書かれた歪んだ絵」をみて驚きました。作品を楽しんだ後、さらに制作の裏側も知ることで、一度に二度楽しめるのもしんらしんげさんの作品の魅力だなと感じます。作品はすべてお一人で考えて作られているのですか?
しんらしんげさん:
仕掛けも絵もストーリーも、すべてひとりで作っています。ストーリーは、最初からある程度のストーリーを決めていることもありますが、作りながら偶然思いつくこともあります。
仕掛けからストーリーを考えることもあります。『へんがお』もそのひとつです。「心温まる家族のストーリー」になっていますが、変顔の仕掛けを作りたくて、そこからどういう話にするかを考えました。
作品もですが、制作の裏側や仕掛けを知って驚く方も多いです。感想で、紙工作の「紙」と神様の「神」をかけて「神工作だ!」「神コップだ!」というコメントをSNS上でいただくことが多くて、それが制作のモチベーションになっています(笑)。