「もっと責任のある仕事をして成長したい」
── 制度を導入してから半年以上たって退職者ゼロは特筆すべきですね。そもそも、なぜ「地域社員制度」を始めたのでしょうか。
植村さん:
もともと各地域では、アルバイトやパートのクルーに各店舗で長く働き続けていただいており、ビジネスに貢献していただいています。マクドナルドは地域のお客さまに長く愛される店舗運営を行っていますので、より店舗運営に貢献できる人材をもっと増やしていきたいという思いは常にありました。
「地域社員制度」への応募は現状、7~8割を主婦の方が占めています。地域にある店舗では、その地域のことをよく知り、お客様との関係性を丁寧に築いている主婦の方がたくさんいますが、「私はパートだから」とキャリアの面では諦めている人が多かったんです。
そんな方々の「アルバイトだけど、もっと責任のある仕事で活躍したい」「もっと成長したい」「もっと会社に貢献したい」という声に応える形で「地域社員制度」が始まりました。
── 役職として、転勤を伴わないマネージャークラスまでというのも、アルバイトやパートの方たちの声が活かされているのですか?
植村さん:
はい。制度をつくる際にヒアリングをしたところ、「今よりもっと仕事をしたいけれど、大きな責任のある仕事は自信がない」という意見が多かったんです。総合職社員になると、昇進や自己の成長が必然的に求められるので、ご自身の勤務時間や能力で無理のない範囲での責任ある仕事を…と希望される方がたくさんいらっしゃいました。
仕事を頑張りたい人にも、育児を優先したい人にも働きやすさを感じてほしい
── 「アルバイトの域を超えて活躍したいけれど総合職社員は難しい」という方たちに向けて、アルバイトと総合職社員の間になるポジションとして「地域社員制度」がつくられたのですね。どんな方から応募が多いですか?
植村さん:
お子さんがある程度成長して自分の時間が増えたという方、教育費がかかるから収入を増やしたいという方などがいらっしゃいます。今の業務内容をベースに地域社員になれることからも前向きな方が多い印象です。導入前のヒアリングでは、「地域社員を勧められたら入社したいですか?」という質問には、8割の方が「はい」と答えていました。
── メリットが大きそうですが、デメリットとしてはどんなことが考えられますか?
植村さん:
たとえば、地域社員の勤務時間は1か月につき160時間(月日数30日の場合)なのですが、アルバイトやパート時代にその時間に満たなかった人は、どうやって勤務時間を増やすかで試行錯誤した方もいるようです。朝のうちに家事を済ませたり、時短家電を購入したり、家族に協力してもらったりと、家事の面で工夫されているようでした。
── なかには、チャレンジしたいけれど家族から理解を得られなくて悩んでいる人もいるかもしれませんね。
植村さん:
そうですよね。個人的な意見ですが、頑張りたい人は諦めないで頑張っていただきたいですし、今は家庭を優先したいという方は可能な範囲で勤務されればよいと思います。私たちはそういった方々が自由に働けるように多様な選択肢をつくっていきたいです。
外食産業の働き方をもっと柔軟にしたい
── 今後は「地域社員制度」をどんなふうに展開したいですか?
植村さん:
現在はアルバイトやパートのマネージャークラスからの登用になっていますが、近い将来、一般応募も可能にすることを検討しています。店舗をマネジメントする仕事は少し先になるかもしれませんが、興味がある方や隙間時間がある方は、まずはアルバイトから始めていただき、意欲がある方は地域社員を目指せるようにしていきたいと考えています。
地域社員から総合職社員になれるようにも対応していますし、どんどんキャリアアップしたいという意欲的な方はもちろん大歓迎です。今はまだお子さんが小さいから1日2時間くらいから働いてみたいという方も、様子をみながらゆくゆくは地域社員として活躍するなど無理のない形で活躍してほしいですね。
また、「地域社員制度」は多様な働き方のひとつにすぎません。私たちのようなレストランビジネスはテレワークや働き方の選択肢が少ないという印象がありますが、さまざまなデジタル化や業務内容をシンプルにし、従業員の声を聴きながら、新しい多様な働き方をもっと推進したいと考えています。
取材・文/高梨真紀 画像提供/日本マクドナルド