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「災害時には、心穏やかにはできないもの」コロナ禍で自分と周りを守る生き方

女性の健康

2021.06.28

コロナ禍の今、「なんだか気持ちが落ち着かない」という方は多いのではないでしょうか。2020年には、女性の自殺者数も増えています。

 

南山大学社会倫理研究所の准教授で、日本自殺予防センター事務局長でもある森山花鈴さんに、こんな今、「私たちが心穏やかに過ごす方法」を伺いました。

悩む女性

 本記事は「うつ」「自殺」などに関する描写が出てきます。ご体調によっては、ご自身の心身に影響を与える可能性がありますので、閲覧する際はご注意ください。

コロナ禍の今は「災害時」であることを知る

── 警察庁が発表した2020年の自殺者数は前年比912人増(4.5%増)の2万1081人と、11年ぶりに増加に転じました。男性は1万4055人と11年連続で減少した一方、女性は7026人と2年ぶりに増加に転じています。なぜだと考えられるでしょうか。

 

森山さん:

新型コロナウイルスの感染拡大の影響については今後分析されてくると思いますので、データからはまだ多くを言えませんが、警察庁の統計によると、自殺の原因・動機の中では「健康問題」が増えています。そして「不詳」も増えています。はっきりとした原因はまだわかっていません。

 

昨年は「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺者数はあまり増えていませんが、日本は経済的な問題も自殺者数に影響すると言われていますので、このままでは今後、経済・生活問題を理由とした自殺が増えてくるのではと懸念しています。そのため、経済的な支援については引き続き重要であると思います。

 

一方で、メディアによる報道が自殺を誘引する「ウェルテル効果」が起きた可能性もあります。昨年は著名人の自殺があり、その要因もあるのではないかとする分析も出ています(いのち支える自殺対策推進センター「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)」2020年10月21日)。

 

実は、WHOは、自殺報道について自殺予防のためのガイドラインも示しています。昨年の著名人の自殺が起きた際には、相談窓口の掲載等、このガイドラインに沿った形での報道もなされましたが、報道に携わる方には、ぜひご一読いただけると有り難いです(WHO「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」)。

 

また、新型コロナウイルスの感染拡大についても、事実を伝えることはとても重要ですが、不安を煽るような報道ではなく、感染から回復された方のお話なども増えるといいなと思います。

 

── 新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化は影響していると思われますか?

 

森山さん:

もともと、環境の変化は、心身に大きなストレスを与えます。ストレス負荷がかかり続けると、脳にも負荷がかかり、脳の病気である「精神疾患」を発症する場合もあります。自殺される方のうち、9割以上はその行為の直前に精神疾患に罹患していたと言われています。

 

今、新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちは皆、何らかの環境の変化を経験し、ストレスを受けています。それらのストレスが溜まり、周りからのサポートも受けられず、うつ状態に陥り、精神疾患を発症した方や、精神疾患が悪化した方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

新型コロナウイルスの感染拡大は目に見えにくいものですが、実は今は「災害時」と同じ状況です。今は、災害時と同じなのに、「今まで通り、例年通り頑張らなきゃ」と、知らず知らずのうちに思われている方は多いのではないでしょうか。

 

自然災害も大変なことですが、自然災害の場合には、視覚的にも周りも今が災害時であることを認識しやすいかと思います。けれども、新型コロナウイルスの場合は、災害状態であることを自分自身も周りも認識しづらい。

 

一見、何の影響もなく普通に働いているように見えても、感染対策でずっとつけなければならないマスクや手洗いうがいも、それだけで今までと違う行動となり、ストレスになりますし、業務でも感染予防の対応が加わっている。

 

その部分だけを見てみても、私たちは皆、ストレス負荷がかかっています。それ以外にも、仕事やプライベートで様々な変化があったはずです。それなのに、目に見えづらいがゆえに、「これまで通りの日常を過ごさなきゃいけない」と無理している方が増えていると思います。

 

── そうですね。見えない災害といまだに戦っているのですから、無理をしている人は少なくないですよね。社会人の場合、勤務形態もリモートワークに変わっていますが、こうした変化からも生きにくさは生まれていると思いますか?

 

森山さん:  

リモートワークでの問題点は、コミュニケーションの取りづらさにもあります。気心の知れた仲であれば、リモートワークでもあまり問題はないのかもしれませんが、元々コミュニケーションを取りづらい相手だと、対面会議に比べてオンライン会議等では細かいニュアンスを伝えられないと思う方も多いかもしれません。もちろん、直接対面しなくて済むメリットもありますが…。

 

もしかしたら、職場では、気軽に愚痴等も言うことができなくなってしまっている方もいらっしゃるかもしれません。ストレス発散には、ちょっとした雑談も実は重要なのですが、リモートワークになると、このあたりが難しくなります。

 

そして、友人や家族とも対面で会えなくなってしまった、という方も多いと思います。こういう時は、対面で会うのは難しくても、電話やメールをして、こまめに連絡を取ることも大切です。

 

また、リモートワークで働き方が変わったり、休校で子どもの対応に追われたりする方もいらっしゃると思います。こうした負荷がかかっていても、「みんなが頑張っているんだから、私も頑張らなきゃいけない」と無意識に思っている人がいると思います。けれど、頑張り続けるのには限界があります。自分は大丈夫だと思っている方も、自分の体調には気をつける必要があります。

相談することは恥ずかしいことではない

── 非正規雇用の女性が仕事を失ったり、家族のことで悩んでしまったりするケースもあるかと思います。そのような環境の中でどのように気持ちを整えていけば良いでしょうか。

 

森山さん:  

大変な状況にあり、悩んでいる中で、無理に自分自身の力だけで気持ちを整えようとする必要はありません。仕事を失うと、経済的に困窮するのはもちろん、それにより家族関係などの人間関係も変わり、精神的に追い詰められてしまう方も多いかと思います。

 

制度的な支援策がある場合もありますし、相談することは決して恥ずかしいことではないので、悩んだ場合には、身近な人や行政の窓口に相談していただければと思います。

 

精神的な面での相談先としては、各都道府県、政令指定都市に精神保健福祉センターがあります。新型コロナウイルスに関する精神保健関係の相談を受け付けているところも多いので、こちらにぜひ相談して欲しいと思います。民間団体で開設している、悩んでいる人の相談窓口もあります。

 

── 悩んでいる当事者は、どうやって自分の異変に気づき、対応をとったらいいのでしょうか。

 

森山さん: 

「いつもと体調が違う」と感じた場合には、お休みを早めに取ったり、身近な人やお医者さんに相談したりするように心がけていただければと思います。たとえば、「眠れない」とか、「食欲がない」といったことが2週間以上続いているような場合です。

 

健康な人も、この災害時では体調不良になりうるので、「自分は大丈夫」だと思っていたとしても、時にはブレーキをかけて疲れすぎないようにすることが大切です。本当は、倒れてしまう1歩前、いや、2歩くらい前に、と思います。頑張り続けることには限界もあると知ってほしいです。

 

医療従事者の方や行政の方など、支援者側にいる方も、コロナで「支援者は頑張らなきゃいけない」と本当に身を粉にして尽力されている方が多くいらっしゃいます。周りの人にも「支援者支援」の重要性を知っていただきたいですし、支援者の方も頑張り続けるのには限界があります。個人での対応には限界もありますし、本人が無理なく仕事ができる体制を組織には用意してほしいです。

 

── 当事者の異変を察知するために、周囲はどのような配慮をしていったらいいでしょうか。

 

森山さん: 

本人が自分の体調の変化に気づくことも重要ですが、本当は周りの人が本人の変化に気づき、声をかけていくことが大切です。

 

本人は、自分自身では自分の体調に気づけなかったりすることもあります。それに、悩んでいる本人は余裕がなくて声をあげにくいという場合もありますので、周りの人の「気づき」が重要になります。

 

もし、周りの人が眠れてなかったり、食欲がなかったり、様子がいつもと違うようなときには、専門家への相談を勧めたり、無理をしないよう配慮することが必要です。

 

自殺対策には、「ゲートキーパー」という言葉があるのですが、このゲートキーパーとは、相手の異変に気づき、話をしっかりと聞いて、必要な支援につなげ、見守ることが出来る人のことです。

 

家族同士だと距離感が近すぎたり、逆に家族だからこそ気づけなかったりする場合もあるので、家族だけでなく、できるだけ多くの方にこのゲートキーパーの意識をもっていただけたら、と思います。

 

異変は人によって様々です。「いつもと何か違う」と気づいたら、そっとしておくのではなく、声をかけてほしいと思います。そして、まずはいったん、無条件無批判に話を聞いてください。この「話を聞く」というのも、意外と難しいですが、できるだけじっくりと話を聞くことを意識していただけたらと思います。

 

その上で、必要があれば支援につなげ、支援につながったら、つなげっぱなしにするのではなく、その後も見守っていただけたらと思います。

災害時に無理をする必要はない

── 私たちが意識して、心を穏やかに保って暮らしていくために助言がありましたら、お願いします。

 

森山さん: 

心が苦しいのに、無理に自分自身の力で心を穏やかにしようとする必要はないと思うんです。心がざわついてしまったり、不安に思って落ち着けなかったりするのは、この災害時では仕方がないことでもあります。「死にたい」と思う感情も、それ自体は悪いものではありません。

 

今は災害時です。災害状態の中でまで、自分に厳しくしすぎる必要はないですし、今の自分を自分自身が認めてあげることができると違ってくると思います。

災害時には、可能な範囲で淡々と日常のペースを維持していくことも、心の健康のためには重要だと言われています。でも、いつもと違ってストレスもかかります。ですので、しんどかったら早めに休んだり、苦しかったら我慢せず、相談したりしていただきたいです。

 

悩み・困りごとがあるときは…

まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

 

ゲートキーパーについて

ゲートキーパーとは|厚生労働省  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/gatekeeper_index.html

 

PROFILE 森山花鈴さん

茨城県生まれ。2004年筑波大学第一学群社会学類政治学専攻卒業。その後、内閣府自殺対策推進室勤務などを経て、2014年筑波大学大学院人文社会科学研究科現代文化・公共政策専攻シビルソサイエティー分野博士後期課程修了、博士(政治学)。現在、南山大学社会倫理研究所第一種研究所員、南山大学法学部准教授。

取材・文/天野佳代子

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