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「人より自分の幸せ。それでいい」虐待での心の傷を克服した女性が伝えたいこと

子育て

2021.06.14

山本昌子さん

両親によるネグレクト(育児放棄)で保護された経験をもつ山本昌子さん。自らの経験を通して当事者を支えたいと、居場所づくりや食料支援などを通して多くの人と関わっています。

 

精力的に活動する山本さんに、虐待を受けた子たちとの関わりで日々感じること、周囲の大人に心に留めてほしいことを伺いました。

「自分はダメだから」「クズ人間だから」

現在、全国の児童養護施設で暮らす子どもは27026人といわれています。そのうち、65.6%の17716人が親などからの虐待を受けた経験があるという結果が、20201月に厚生労働省より発表されました(※)

 

これまで多くの虐待を経験した方たちと関わってきた山本さん。一人ひとりと接する中で、心の傷を感じることがあるそうです。

 

「心の中身は目には見えないけれど、『死にたい』『生きている意味がない』と自分の存在を否定するなど、自己肯定感の低さを感じます。私はそういった子たちに対して、その子のいいところを見つけて、言葉で伝えることを大切にしています」

 

たとえば、仕事を短期間で辞めてしまい落ち込んでいる人に対しては、できたことに目を向けるように言葉をかけるそう。

 

「あなたはこれだけの時間、頑張って仕事を続けることができたじゃない。これだけ続けられたことに意味があるんだよ」。そうすると、「初めてほめられた」と喜ぶ子も少なくないのだそうです。

山本昌子さん

また、過去に教育虐待に遭ったという人も多く、そういった人たちも「驚くほどほめられた経験がない」と感じるのだそう。ほめられた実感がないまま成長して、社会人になると、できないことを指摘されることのほうが増えていく。その中で、自己肯定感がますます低くなる傾向にあると言います。

 

「私は活動を通して多くの子とつながっていますが、本当に素敵な子ばかり。『あなたにはこんなにたくさんいいところがあるんだよ』と、素直にほめたくなるほどたくさん長所があるのに、ほめられたことがないって言う…本当に驚きます。『自分はダメだから』『クズ人間だから』と卑下してしまう子も多いんです」

私は“その子が幸せな人生をつくるきっかけ”の1つ

自分の良さをなかなか受け入れられない。できないことに目を向けて自分を責めることが積み重なり、最後には追いつめられてしまう…。

 

山本さんは日々、そういった虐待を受けた人たちの心の痛みを受け止め、「あなたは素敵だよ」と声をかけつづけます。そうして一人ひとりの心に寄り添い、居場所づくりや食料支援、衣類支援などの活動を行っています。

 

「でも、人と関わる時に決めているルールがあります。それは、『私はここまでしかできない』と許容範囲を越えないようにすること。みんなにも伝えています。もちろん自分にできることはしますが、なんでも請け負うことはしません。必ず次の選択肢をいくつか提案して、相手に選んでもらいます」

 

無理をして関わるすべての人を100%の力で守り、自分のつながりだけで目の前の人を全力で助けようとしても限界があるもの。それよりも、その人の人生がより豊かになる人や場所を次々とつなげていったほうがいい、と山本さんは言います。

山本昌子さん

「私は、その子が幸せな人生をつくるきっかけの1つになれればいい。いろいろな価値観をもった人たちと触れ合い、本人が自分で選んだつながりから、自分自身で幸せをつくっていけるように。

 

目の前の子の人生のすべてになってはいけないんです。私もかつて児童養護施設での生活が人生のすべてだと思い込んでいたせいで、そこを離れなければならなくなった時にとても苦しみましたから」

 

一方で、山本さんが支援活動を続けてきたこの6年間の中で、虐待を受けた人との関わり以外で疑問に感じることがあるそう。

 

それは、とても裕福で幸せもたくさん感じられる環境にいるはずなのに、幸せを感じられない人たちが多いこと。幸せを幸せだと感じられない環境やその心のあり方について、「なぜだろう」と疑問に感じ、胸を痛めていると言います。

 

「世間から見れば、かわいそうだと思われがちな境遇の私がこんなにも幸せに満ちあふれているのに、私よりも恵まれた環境にいるはずの人たちが幸せだと感じられないのはなぜなのか…いつも考えます。もったいない、悲しいなって思います」

自分に何ができる?と思うなら「まずは家族を大切にして」

乳児院や児童養護施設で愛情に包まれながら育ち、今では虐待を受けた多くの当事者をサポートしている山本さん。自身の経験をふまえて、世の人たちに「ぜひ自分の家族を大切にしてほしい」と話します。

 

「まず、『ありがとう』や『ごめんね』をちゃんと言えるのはすごく大事なこと。言葉に出して伝えられるといいですね。その積み重ねで、笑顔の時間が増やせたらいいなと思います。私も、自分にとって身近な存在の人を一番大切にしたいと思っていて。だからこそ、まわりの人たちも自分を大切に思ってくれていると思うんです」

山本昌子さん自宅

大切な人を思い、気持ちを言葉にする。もし、虐待を受けた人など誰かの役に立ちたいと思っているとしたら、まずは自分にできることとして「身近な人に目を向けてほしい」と言葉を続けます。

 

「自分の隣にいる人がどれだけ笑顔でいられて、自分も相手に対してどれだけ優しい気持ちで接することができているか、ときどき、思い返すことも大事なのかなと思います。まわりをたくさん笑顔にすることを大事にしてほしいし、そのためには自分自身が幸せな気持ちでいることが大切だと思っています」

 

もし、自分の心が満たされないまま、誰か困っている人を支援するプロジェクトにボランティアで参加したとしても、心を満たすことはできないと、確信をもって言えるそう。そんな状態では、ボランティア活動に参加しても、その人が抱える根本的な問題が解決されるわけではないと言います。

 

たとえば、もし我慢を強いられるような生活を送っていたとして、修復が難しく、子どもの幸せにつながらないのなら、離婚など大きな選択をすることになるかもしれない。その決断をし、自分の幸せを実感できるようになってから人のために動くことを考えてほしい。それはとても意義のあることだと山本さんは話します。

 

「プライベートでも心が満たされている人は、ボランティアの仕事でもプロジェクトのビジョンや仲間たちの思いに共感して、人の役に立てたことを心から喜ぶことができると思うんです。

 

まずは自分がどれだけ幸せなのかを確認してほしい。もしかしたら、自分が思っている以上に幸せなのだと気づくことができるかもしれません。

 

幸せな人が増えること、自分自身が満たされている人が増えることで、日本の闇が少しずつ明るくなっていくことを願っています」

 

Profile 山本昌子さん

1993年生まれ。生後4か月から19歳まで乳児院、児童養護施設、自立援助ホームで育つ。2016年に「ACHAプロジェクト」を設立。代表として、児童養護施設出身の女性たちのために振袖を着て撮影をする支援を行ってきた。現在は居場所・食料・衣料の支援を通し、当事者たちと支えている。同じ児童養護施設出身の男性2人と組んだユニットでYouTube番組「THREE FLAGS ―希望の狼煙―」を定期的に配信。また署名活動「児童虐待は保護されて終わりじゃない ―心の傷に苦しむ子ども・若者に心のケアを―」(https://bit.ly/3ck70nd)を展開中。

取材・文/高梨真紀 撮影/河内 彩
(※)2018年2月1日時点。厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/11923000/000595122.pdfより

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