
特集「
今さら聞けないお正月マナー」第4回目は、昔懐かし「日本の伝統的な遊び」についてです。スマホやゲームで遊ぶ子どもが増えましたが、伝統的な日本の遊びの背景には、親が子を想う“愛”が込められています。和文研究家の三浦康子先生に伺った、奥深い日本の遊びを10種類ご紹介します。
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お年玉は元日にあげるのがベスト!? 今さら聞けないお正月マナーQ:凧あげは戦いに使われていた?

今では遊びとして親しまれている凧あげですが、昔はまったく違う目的で使われていました。
もともと凧あげは中国から伝わったもので、古来中国では凧は占いや戦いの道具のひとつだったのです。日本には平安時代に貴族の遊戯として入りましたが、戦国時代には敵陣までの距離を測ったり、遠方へ放火する兵器としても活用されていたそうです。
江戸時代に入ると、男の子の誕生を祝い、凧あげをして成長を祈るようになり、庶民の遊びとして広まっていきました。高くあがるほど願い事が神様に届きやすく、子どもが元気に育つといわれています。
最近では“カイト”と呼ばれる洋風凧が主流ですが、お正月は竹と和紙で作られた和凧をあげてみませんか?
Q:羽根つきで打ち損じた時に墨で顔を塗るのは
遊びをおもしろくするための工夫だった?

昔は羽根つきをして打ち損じると顔に墨で◯や×などと書いていました。TVやアニメなどで目にしたことがある人もいるかもしれませんが、これは遊びをおもしろくするためではなく、魔除けのおまじないだったのです。
もともと羽根つきも室町時代に中国から伝わったもの。それが日本では厄祓いできると信じられるようになり、江戸時代には年末になると邪気を祓うための羽子板を贈る風習が生まれました。
羽根の先端にはムクロジの実が使われていますが、ムクロジは漢字で「無患子」と書き、子どもが患わないという魔除けに通じるものとされていたのです。女の子の初正月に羽子板を贈る風習も生まれました。
さらに羽根のとぶ様子がトンボに似ていることから、蚊の天敵であるトンボに見立て、子どもの病気の原因となる蚊に刺されないよう、正月に羽根つきをしていたといわれています。羽根つきは1年の厄をはね、子どもの健やかな成長を願うものとして親しまれてきたのです。
ちなみに羽子板は観賞用と実技用の2種類ありますので、実際に遊ぶときは実技用で思う存分楽しんでください。
Q:「いろはかるた」の内容は全国共通?

いろはかるたは、子どもが遊びながら字やことわざを覚えられるようにと江戸時代に考案されたものです。内容は江戸、京都、大阪、上方、尾張など地域によって異なっています。
下記は左から、江戸/京都/大阪の「い・ろ・は・に・ほ・へ・と」の内容です。(*時代の考え方によって内容が一部差し替えられているものもあります)
・「い」…犬も歩けば棒に当たる〜/一寸先は闇/一を聞いて十を知る ・「ろ」…論より証拠/論語読みの論語知らず/論語読みの論語知らず、六十の三つ子 ・「は」…花より団子/針の穴から天のぞく/花より団子 ・「に」…憎まれっ子世にはばかる/二階から目薬/憎まれっ子頭堅し、憎まれっ子神直し ・「ほ」…骨折り損のくたびれ儲け/仏の顔も三度/惚れたが因果 ・「へ」…屁をひって尻すぼめる/下手の長談義/下手の長談義 ・「と」…年寄りの冷や水/豆腐に鎹/遠くの一家より近くの隣
楽しみながら遊ぶだけで子どもの教育にもなるなんて、一石二鳥ですね。
お正月に遊ぶかるたには「百人一首かるた」もあります。これは平安時代につくられた百人の和歌を藤原定家がまとめたもので、上の句を読んで下の句をとります。宮中の遊びだったものが江戸時代に庶民に広まりました。
Q:福笑いはパパやママの顔で作って遊んでいい?

福笑いは目隠しをして、輪郭を書いた紙の上に目・鼻・口・耳などのパーツを置いて顔を完成させ、出来上がった顔を笑って楽しむゲームです。明治時代からお正月の遊びとして定着しています。お多福やおかめなどの絵が有名ですが、「笑う門には福来たる」と縁起がいいことから、お正月にふさわしい遊びとなりました。
「面白い顔を作って笑わせた人が勝ち」「より正確な顔を作った人が勝ち」などと家族のルールで楽しんでもOKです。家族の似顔絵で福笑いを作って遊ぶのもおすすめです。「ママの顔を美人に作った人が勝ち!」なんてルール、いかがでしょう?
Q:すごろくは嫁入り道具だった?

すごろく(双六)は、「盤双六」と「絵双六」があります。 盤双六は、将棋盤のような双六盤でサイコロに従って多数の駒を動かすゲームで、1対1で対戦します。日本書紀に記載されているほど歴史は古く、江戸時代には嫁入り道具にもなっていましたが、現在ではほとんど姿を消してしまいました…。
絵双六は、いわゆる現代でも親しまれているすごろくのことで、サイコロを振って出た目の数だけ進むシンプルなルールのもと、何人でも参加できるものです。ルーツは「浄土双六」で、これは極楽浄土への道筋をあらわしたものでした。
江戸時代には東海道五十三次を進む「道中双六」や「出世双六」などが人気となり、お正月などに親しまれるようになったといわれています。
すごろくの勝敗は運次第。新年の運試しにもなり、お正月の家族団欒にはぴったりの遊びです。
Q:昔のめんこは粘土で作った人の顔を叩きつける遊びだった?

想像すると恐ろしいですが、本当です。
めんこのルーツは、粘土で人の顔(面)をかたどった江戸時代の「泥面子」にあります。直径2センチ、厚さ5ミリという小さい円形のもので、割れるまで打ちつけたり、おはじきのようにぶつけたりして遊ぶものでした。魔除けの意味もあったといわれています。
明治時代になると、鉛でできためんこが登場し、大正時代に紙のめんこが主流になります。丸い「丸めん」と長方形の「角めん」があり、相撲力士や野球選手、漫画のキャラクターなどが印刷されたことで、男子の心を見事にキャッチしました。
[めんこの遊び方]
床に置いた相手のめんこめがけて自分のめんこを打ちつけ、風圧や衝撃で相手のめんこを動かすというのが基本です。
・「起こし」…相手のめんこを裏返したらそれをもらう ・「はたき」…地面に書いた円の中にめんこを置いて、相手のめんこを円の外に出したらそれをもらう ・「落とし」…箱や台の上に置いた相手のめんこを落としたらそれをもらう
Q:こままわしは日本独自の遊び?

こままわしの「こま」は、なんと古代エジプトの遺跡から出土しており、4000年も昔から遊ばれていたと考えられています。日本には奈良時代に朝鮮半島の高麗から伝わったとされており、「こま」という名前は高麗が「こま」と呼ばれていたことに由来。貴族の遊戯だったものが江戸時代に庶民の遊びとして広まりました。
漢字では「独楽」と書き、こまがひとりで立って回る様子から、「子どもが早く独り立ちできますように」という願いを込めて回すのがこままわし。「世の中がうまく回りますように」という意味もあります。
こまには、指で回すだけのものと、紐を巻きつけて回すものがあります。紐を巻きつけるタイプのこまは巻き方などコツがいります。上手な巻き方を教えてあげられると「パパすごーい!」なんて子どもから尊敬されるかもしれませんね。
Q:昔はけん玉で失敗するとお酒を飲まないといけなかった?

冗談のように思えますが、本当です。
けん玉は、シルクロードを通じて江戸時代に入ってきましたが、その頃は子どもの遊びではなく、大人の遊びだったようです。江戸時代の百科事典「嬉遊笑覧」には、「失敗したらお酒を飲む」という記述があります。当時は鹿の角に穴をあけた玉を結びつけたシンプルな形のものでした。
現在のような形になったのは大正時代で、玉を太陽(日)に、浅い皿を三日月に見たてて「日月ボール」と呼ばれていました。皿がついて遊びの幅が広がったことで昭和初期に大ブームとなり、子どもの遊びとして定着しました。
けん玉にはたくさんの技があります。大会なども開催されており、技を磨いて級・段認定に挑戦することもできます。
Q:だるま落としはゲートボールのルーツ?

だるま落としとゲートボールは関係ありません(笑)!
だるま落としは上のだるまが落ちないように下に積み重ねた段を小槌で叩いていくゲーム。最後までバランスを保つのが難しいため、バランスを見ながらどの方向から叩くか、叩く力も加減しながら行います。
だるまは禅宗の祖・達磨大使をモチーフにしており、転んでも起き上がることから、お正月にだるまに願をかけながら片目を入れて飾り、願いが叶ったらもう一方の目を入れるというもの。だるま落としのだるまは転んでも起き上がらないため、転ばない(落とさない)ようにする、というわけです。
Q:お手玉は昔は骨でやっていた?

骨といっても羊の骨です。お手玉は古代ギリシャで羊の骨を使った拾い技(よせ玉)がルーツといわれているのです。日本には奈良時代に中国から伝わった「石名取玉(いしなとりだま)」という16個セットの水晶玉が法隆寺に残っており、聖徳太子がお手玉遊びをしていたと考えられています。
平安時代になると石を使った「石なご」遊びが一般に広がり、江戸時代になると袋の中に小豆、粟、ひえ、大豆などを入れたお手玉になりました。
お手玉遊びは手先を使うため、脳を刺激して集中力が増すといわれています。そのため、子どもの脳を活性化するだけでなく、ボケ防止としても現在注目されています。
お手玉には実はあまり知られていない遊び方がいろいろあります。お正月におばあちゃんに教えてもらったり、以下を参考に楽しんでみてください。
2個のお手玉を使う遊び方
(上手にできるようになったらお手玉の数を増やしてみましょう)
・左右1個ずつ持ち、同時に投げ上げてキャッチ。慣れてきたら、手の甲で受け止め、そのままそのまま甲ではね上げてキャッチしてみましょう。これを連続して行います。 ・左右1個ずつ持ち、同時に投げ上げて、落下するまでに手を叩いてからキャッチ。手を叩く回数を増やしていくと難易度が上がります。 ・右手は手の平に、左手は手の甲にお手玉を置いて投げ上げ、右手は手の甲で、左手は手のひらで受け止める。これらを同時に行います。
複数のお手玉を使った「拾い技」の遊び方
・親玉を上に投げ上げ、落下するまでに床にまいたお手玉を寄せ集めます。最初は1つ拾って親玉も一緒にキャッチ。徐々に拾う数を増やしていき、失敗したら次の人と交代します。
たくさん懐かしい遊びをご紹介しました。ぜひお子さんと遊んでみてください。次回は2019年の主な歳時記についてご紹介します。
監修プロフィール/三浦康子(みうらやすこ)
和文化研究家、ライフコーディネーター。古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、WEB、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても知られている。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』ほか多数。http://wa-bunka.com/
取材・文/田川志乃 イラスト/クリハラタカシ