主に定年を迎えた高齢者を対象とした人材派遣会社「株式会社高齢社」が今、日本国内だけでなく、海外からも注目されています。登録する高齢者の数は922名。平均年齢は71.3歳。創業以来売上が伸び続けている「株式会社高齢社」が、企業、そして高齢者から求められる理由に迫ります。
代表取締役社長の村関不三夫(むらぜきふみお)さんにお話を伺いました。
平均年齢71.3歳、最高齢は84歳「株式会社高齢社」とは
── 株式会社高齢社について、どのような会社か教えてください。
村関さん:
はい。株式会社高齢社とは、主に定年を迎えた高齢者を対象とした人材派遣会社です。登録社員に定年制はなく、平均年齢は現在71.3歳、最高齢は84歳の方になります。
会社を定年まで勤め上げ、退職後は好きなことをしてゆっくり過ごそうと思っていたものの、2、3年すると何もすることがなく「毎日が退屈だ」と話す高齢者はとても多いです。
高齢化社会が進むことによる労働力不足を補うため、そして定年を迎えても、気力・体力・知力のある方々に働く場と生きがいを提供したいという考えから、東京ガスのOBである上田研二が2000年1月に創業し今年で22年目となる会社です。
「出世したい」と考えていた現役時代とは異なるモチベーション
── 平均年齢が71.3歳、最高齢が84歳と、皆さんとてもお元気なんですね。登録社員の方はどのようなモチベーションで働かれているのでしょうか。
村関さん:
そうですね。働く方の意識は「出世したい」と考えていた現役時代とは異なり、年金をもらいながら週3日~4日無理なく働く方が多いです。
働いて少しでも収入を得ることで、生活費である年金や、今ある預貯金を削ることによる不安を解消しているように思います。登録社員からは「安心して孫にちょっとしたプレゼントを購入できる」「趣味を続けることができる」という声をいただいています。
また、社会との繋がることで頼られる喜びや期待される喜び、役に立つ喜びを感じている方も多いですね。
── 働くことで収入だけでなく、心の豊かさも得ているのですね。
村関さん:
はい。私たちは、ひとは「元気だから働く」のではなく「働くから元気になる」のだと考えています。
一人でも多くの高齢者に「きょうよう」と「きょういく」の場を提供したい。「きょうよう」とは、「今日、用があることの嬉しさ」。「きょういく」とは「今日、行くところがある楽しさ」です。
また、会社の経営理念の一つに「働く人を大切にする『社員 ≧ 顧客 ≧ 株主』の人本主義」を掲げているのですが、登録社員の生活に応じて「働く人優先」の勤務体系を整えています。
登録社員の体力的な負担と精神的な負担を軽くするためにも、派遣先では一つの仕事を二人以上で行うワークシェアリング形式をとり、無理なく働ける仕組みになっています。
過去の知識や経験を活かしつつ謙虚な気持ちで自分をリセット
── 在職中に第一線で働かれていた方が、新人として新たな仕事を始めることに葛藤などはないのでしょうか。
村関さん:
そうですね。そのような心の葛藤を防ぐためにも、高齢社では、登録社員の皆さんに働く上での意識として就労時に確認していることがあります。
たとえば「あいさつは自分から。派遣先企業の立場になり、新人社員のつもりで」ということ。経験を活かして前職に派遣される方もいますので「たとえ上長がかつての部下でも、『さん』付けで。現役時代の職位・資格はいわない」ということ。
ほかにも「過去の成功談(自慢話)はいわない」、「派遣先社員には教えていただくという姿勢で」、「過去の肩書で威張らない」などの意識を求めています。
過去の知識や経験を活かしつつも、謙虚な気持ちで自分をリセットして働くという意識が必要なのだと考えています。
── 派遣先の企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
村関さん:
はい。派遣する登録社員は強い責任感と豊富な社会経験を持っているほか、専門的な知識や技術を持つ方もいますので、企業には即戦力として受け入れていただいています。
また、期間変動に対応できるので「社員の残業や、休日勤務が軽減できた」という感謝の声もいただいています。
繁忙期や月末などの人手が必要な時に、導入教育に多くの時間を割くことなく、戦力となる労働力をリーズナブルに確保できることが企業側の大きなメリットの一つだと思います。
「高齢」に対する社会の先入観を払しょくしたい
── 今後の課題について教えてください。
村関さん:
はい。派遣会社ならではの課題としてマッチングの難しさがあるのですが、それと同じくらい「高齢」に対する社会の先入観が大きな課題になっていると感じています。
履歴書で年齢を確認すると「こんなに高齢で大丈夫ですか?」と心配される企業も多いのですが、一度雇用いただくと登録社員の働く姿勢を認めて喜んでいただき、長くおつき合いいただく企業がほとんどです。
派遣先企業の心配事を解消できるよう、研修などをさらに充実させ、先入観を払しょくできるよう努めたいと思います。
また、正社員として働きたい高齢者が少ないことを考えると、社会保険制度や無期雇用転換制度、有給休暇制度、最低賃金制度などが、必ずしも働きたい高齢者のニーズに合っているとは限らないのではないかという課題感を持っています。
…
人生100年時代と言われる中で働き方も多様となっている現在。高齢者の働き方について制度を含めて考えていかなくてはいけないと感じたインタビューでした。
取材・文/渡部直子 写真提供/株式会社高齢社