主に定年を迎えた高齢者を対象とした人材派遣会社「株式会社高齢社」が今、高齢者事業モデルの成功例として韓国などの海外メディアからも注目されています。現在922名もいる登録者の平均年齢は71.3歳とのこと。
筆者の父親の年齢を伝えると「68歳ですか。まさに働き盛りですね!」と代表取締役社長の村関不三夫(むらぜきふみお)さんは笑います。創業以来、売上が伸び続けている「株式会社高齢社」の代表取締役社長の村関さんにお話を伺いました。
「高齢者と社会のニーズがマッチ」株式会社高齢社の仕組み
── 株式会社高齢社について、どのような会社か教えてください。
村関さん:
はい。株式会社高齢社とは、主に定年を迎えた高齢者を対象とした人材派遣会社です。
会社を定年まで勤めあげ、退職後は好きなことをしてゆっくり過ごそうと思っていたものの2、3年すると何もすることがなく「毎日が退屈だ」と話す高齢者はとても多いです。
高齢化社会が進むことによる労働力不足を補うため、そして定年を迎えても、気力・体力・知力のある方々に働く場と生きがいを提供したいという考えから、東京ガスのOBである上田研二が2000年1月に創業し今年で22年目となります。
── もともとは東京ガスの関連業務を行う会社として創業されたと伺いましたが、創業の経緯を教えてください。
村関さん:
はい。マンションなどでは、入居時にガス機器の点火確認業務や取り扱いの説明などをガス会社の子会社の社員が行っていました。
その依頼は平日よりも土日などの休日に集中し突然、依頼を受けることも多いんです。社員の休日出勤が増えることによる精神的な負担や、振替休日を取得することによる人手不足、休日出勤手当などが頻繁に発生することなども企業の課題となっていました。
そこで当時、東京ガスの子会社社長だった上田がOBの活用を思いついたということなんです。創業当初から東京ガスとの資本関係はないのですが、このような経緯で設立された会社です。
65歳からが働き盛り「最高齢は82歳」
── そうなのですね。登録社員は高齢者が対象とのことですが、実際に登録されている方の年齢層を教えてください。
村関さん:
はい。現在の登録社員数は922名で、平均年齢は71.3歳です。65歳から75歳が圧倒的なボリュームゾーンになっています。登録社員に定年制はなく、82歳の方も元気に働いていますよ。過去には84歳の方も働いていらっしゃいました。
── 84歳の方も!派遣業務内容には、どのようなものがあるのでしょうか。
村関さん:
高齢社の取り組みが全国に知られるようになってからは東京ガス関連の仕事以外にも職種が広がり続けています。現在は東京ガス関連の仕事が6割、それ以外の、営業業務補助や受付業務、マンションや施設管理業務、事務業務などが4割です。
ユニークなものですと、私たちが「横乗り業務」と呼んでいる運転補助業務という仕事があります。こちらは、家電のサービスマンがお客様のご家庭で説明や点検などを行っている間、登録社員には車の助手席で待機してもらい、必要に応じて車の移動をしてもらうという仕事です。
説明や点検などで車を離れる時は駐車しなくてはいけませんが、都市部には駐車場がない場所が多く、かといって路上駐車はできません。そんなときにこの運転できる人が同乗できる、横乗り業務のニーズがでてきます。
受け入れ企業のメリットとは
── 派遣先の企業の反応はいかがでしょうか。
村関さん:
はい。派遣する登録社員は強い責任感と豊富な社会経験を持っているほか、専門的な知識や技術を持つ方もいますので、企業には即戦力として喜んでいただいています。
また、期間変動に対応できるため「社員の残業や、休日勤務が軽減できた」という感謝の声もいただいています。
繁忙期や月末などの人手が必要な時に、導入教育に多くの時間を割くことなく、戦力となる労働力をリーズナブルに確保できることが企業側の大きなメリットのひとつになっているのだと思います。
働いて元気になることで、現役世代の負担軽減につなげたい
── 創業以来業績が右肩上がりとのことですが、高齢者、そして社会のニーズがマッチした取り組みになっているのですね。この取り組みにどのような可能性を感じていらっしゃいますか。
村関さん:
ありがとうございます。おかげさまで、売り上げが7億を超える年もありました。私たちは、ひとは「元気だから働く」のではなく「働くから元気になる」のだと考えています。
ですので、元気な高齢者が増えるということは、広く見れば医療や介護に関わる福祉コストの削減に繋がると思います。また、消費が活性化し税収も増えるため、現役世代の負担の軽減に繋がると信じています。
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「私も今が働き盛りでして、妻にも昔より今の方がイキイキしていると言われるんですよ」と笑う村関さん。よく笑う村関さんから「働いて元気になる」という言葉の説得力と高齢化社会への光を感じました。
取材・文/渡部直子 写真提供/株式会社高齢社