わが子からネガティブな発言を聞くと、前向きな子に育ってほしいと願っている人ほど悩んでしまうのではないでしょうか。否定的な言葉ばかり口にする子には、どのように声がけをしたらよいのでしょう。教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介先生に伺いました。
【Q】ネガティブなことばかり言うわが子
小学1年の娘の父です。何を言っても娘から返ってくる返事がネガティブです。例えば、「毎日がつまらない」「何をしたらいいかわからない」「世界でいちばんかわいくない」という否定の言葉をしょっちゅう言っています。
「勉強しよう」と声がけをすると「あ〜あ、つまらない」ときます。「楽しいことがいっぱいあるよ」「やることはいっぱいあるから一緒にやろう」「パパにとってはあなたは世界でいちばんかわいいよ」とポジティブな言葉を言い続けているのですが、効果はありません。どのように声がけをしたら良いでしょうか?
情報の裏にある「メイキング」を意識させて
近年、ネガティブなことを言う子は増えていると感じます。おそらくSNSや動画などの影響でしょう。幼少期から流れ込んでくる大量の情報によって知識レベルが上がった結果、いろんなことに慎重になってしまう子が多くなっていると感じます。
でも、慎重になり過ぎて何もできなくなってしまっている子は、頭のいい子という一面を持っています。自分なりの期待やうまくやりたい願望が生まれた時に、先を読む思考が動かせてしまうから、「やってみて面白くなかったらいやだな」「うまくいかなかったらいやだな」と思ってしまうんですね。
ご相談者様のお子さんも頭がよいのだと思います。「毎日がつまらない」「世界でいちばんかわいくない」と言っているところをみると、「自分に光があたることが幸せ」といった前提があり、キラキラした状態でないと意味がないと思ってしまっているのかもしれません。
おそらくその裏には「何かになりたい」「褒めてほしい」という強い気持ちがあります。だから親御さんは、「現状で満足しなさい」と押さえつけるのではなく、まずはお子さんにとってのキラキラやときめきが何なのかを知り、それを「素敵だね」と認めてあげてほしいですね。
仮に、お子さんがオーディション番組を見て、実際にアイドルになった女の子に憧れているとします。それがわかったら、そのアイドルの出演番組を一緒に観たり、どんなところが好きなのかなどを聞いたりして、お子さんがどこに心が動いているのか、お子さん自身は何をしたいのかなどを探ってみてください。
お子さんがそのアイドルの真似をしてみたいなら、テイストが似たお洋服を一緒に買いに行ってあげるなど、ちょっとした日々の楽しさを味わわせてあげてみてはいかがでしょうか。
あるいは、そのアイドルがこれまでたどってきた道や発言などを調べてみるのもいいですね。憧れの人がどのような足跡を歩んできて今の姿に至ったのかを知り、人生観に触れるなかで、お子さんは「プロセス」というものを意識することができるようになると思います。
「プロセス」というのは例えば、憧れのアイドルも最初から輝いていたわけではないこと、今のかわいさはメイクや見せ方などのアングルを研究し尽くした結果であること、幼少期からバックダンサーとしての下積みを積んできたから今の活躍がある、といったことです。
もちろんアイドルの話はあくまでたとえ話で、お子さんが関心を示している話題がなんでもあっても「プロセス」という視点は当てはまるはずです。そして、プロセスの概念を知り、理解できるようになった子は、ものごとの結果とは100か0かという表面的で短絡的なものではなく、適切な行動の積み重ねの先にあるということも分かってきます。すると、「上手くいくかどうかは分からないけれど、やってみないと始まらないよね。自分もちょっとがんばってみようかな」という感覚も抱けるようになっていくのです。
現代は消費される情報が多すぎます。今回のご相談者様のお子さんに限らず、今の子どもたちはキラキラした完成形や面白いネタにあふれるなかで「何もない自分」を意識しやすい環境にあります(実は多くの大人もそうですね)。
あらゆる情報にはメイキングがあるので、もしお子さんが動画やSNSなどの表面的な情報に影響されているようであれば、親御さんはぜひその舞台裏を教えてあげてほしいと思います。
寄り添う過程で親の捉え方も変わる
お子さんの心が動いている世界を共有しながら掘り下げていくと、親御さんもその過程でお子さんの鋭い観察力に驚かされるかもしれませんし、これまでのネガティブな発言も先を考える力ゆえのものだったと気づかされるかもしれません。
寄り添っているうちにお子さんの見え方や捉え方が変わってきたら、ぜひ「そんなふうに考えるあなたはすごいね」とお子さんの観察力や考えを褒めてあげてください。
勉強する前から「つまらない」と言うのも、きっと以前つまらないと思うことがあったのでしょう。記憶力がいいのです。この問題についても、お子さんの関心に寄り添っていけば、どのあたりがつまらなかったのか、読み解けると思いますよ。
何事も「つまらない」と思ってしまうお子さんは、もしかすると日々習い事などタスクが多く、「人は常に意味のある時間を過ごすべきだ」というインプットが背景にある可能性も考えられます。がんばりすぎているようであれば、今一度スケジュールを見直してもいいかもしれません。
また、一人っ子のご家庭に多いのですが、親御さんが何事も先回りしてしまうためお子さんはただ与えられた行動指示を実行するだけで、「自分が行動しているという実感」を得られない日々を過ごしているケースも近年目立ってきています。
この場合、自分という存在が希薄な状態になっている、つまり自己肯定感が著しく低い状態に陥っていますから、口から出る言葉はネガティブなものになりやすいです。適度な距離感を大切にしながら見守ることも意識していただきたいなと思います。
PROFILE 小川大介さん
取材・構成/佐藤ちひろ