4月22日に星野リゾートが大阪・新今宮駅前に開業する宿泊施設「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」。このスタッフのユニフォームを、篠原ともえさんがデザインしています。コンペから参加し、1か月間、アイデアを練りに練って挑んだという篠原さん。篠原さんが以前からライフワークとして取り組んできた、余り布を極力出さない“作り方のSDGs”も意識されたそうです。
プレゼン資料には1か月全力投球
── OMO7大阪のユニフォームデザインは、コンペから参加されたそうですね。
篠原さん:そうなんです。あまりコンペは積極的ではないのですが、徹底的に資料を作成し、プレゼンしたものを選んでいただいた形になります。
ユニフォームのデザインは初めてだったんですけど、ずっとやってみたかったんです。これはチャンスだと思い、1か月間この仕事に注力するためにスケジュールを空けました。そもそもうちの会社は、私と夫、デザイナーとマネージャーの4人の小さな会社なのですが、役割を分担し進めたんです。
初めにホテルやユニフォームについてリサーチすることに時間を掛けました。
それから夫にプレゼンして、アイデアをブラッシュアップしてというのを何度も何度もくり返して。
最後の1週間でばっと20枚以上の資料を作り、実際のプレゼンで提案したのがこのユニフォームだったんです。
── そうして出来上がった今回のユニフォームですが、デザインの特徴を教えてください。
篠原さん:星野リゾートさんのOMO7大阪は、マイクロツーリズムを提唱されています。街を活性化するために観光ガイドを積極的にされていて、ホテルの方が地域のディープな場所をガイドしてくれるサービスがあるんです。
私が今回デザインしたのは、そのガイドもされるスタッフのユニフォームなんですが、他のホテルでもなかなかないサービスでしたので、そのコンセプトをビジュアル化すればいいんじゃないか、と思いついたんです。
「自分だけの街のお気に入りを見つける」というコンセプトを立てて、自分のお気に入りをピンドットで作っていく。
ユニフォームを地図に見立てて、自分のお気に入りの場所にピンを置いておくイメージで、それをドット柄と掛け合わせて、デザインに落とし込んでいったんですよね。だからいろんな形のピンドットがあるんです。
── かわいいです!
篠原さん:嬉しい。ものすごく頑張ったから。かわいいでしょう?自分も着たいって思えるようなデザインにするって大事だなと思っています。
震えるくらい嬉しかったのは「篠原ともえだから」ではなかったから
── 生地選びから注力されたと聞いています。
篠原さん:そうですね。家庭洗濯にも対応できるようメンテナンス性を重視し、スポーツウェアに使用されるような素材を取り入れました。あまり奇抜にせず、男女兼用で年齢や着る人を選ばないデザインを目指しました。
── バッジには文字が書かれていますが、何と書いてあるんでしょうか?
篠原さん:ここにはホテルの住所が記されています。星野リゾートさんがホテルを中心に、街全体をリゾートとして捉えてほしいという考え方があって。なので、バッジのアイコンには住所を中心に、お気に入りの場所が増えていくイメージで制作しています。
こういうコンセプト作りからまず始めて、それをデザインで可視化するというやり方を提案させてもらったんですよね。
選んでもらえるか不安な時に、周囲の人から「篠原さんは有名な方だからきっと選ばれるよ」と言われたこともあったんです。でもそうじゃなくて、とてもシビアに内容で選んでくださったんですよ。それが本当に嬉しくて。
星野リゾートさんのスタッフだけでなく、星野代表はもちろん、ホテルの空間を担う、建築家の東利恵さんや長谷川浩己さんなどからもフィードバックをいただき、いち会社の提案としてプレゼンを見てくださったそうです。
トレンドに左右されないシンプルな色使いを評価いただき、特にデザインのストーリー性でみなさんこれだ!と決めてくれたという話を聞いて。それがもう、震えるぐらい嬉しくて。
「篠原ともえ」という名前よりも、会社の名前で出してもらえたことも嬉しかったです。みんなで時間のかぎり頑張ったから、採用のご連絡を受けた時は、全員で抱き合って喜びました。
デザインをしていたのは、ちょうど1年ぐらい前、コロナ禍まっただ中でした。自分もどうなるかわからないし、会社もどうなるかわからないときで。だからこそ、この仕事は絶対やりたいと思っていたんです。
余り布を減らす“作り方のSDGs”
── 難しかったところはどこでしょうか?
篠原さん:耐久性ですね。ユニフォームは長く着るものなので、傷んでしまうとまた作り直さないといけなくなってしまう。それでは持続可能なものにはならない、とリサーチを重ねました。
ボタンやその他のパーツも自分で生産者を調べて電話したんです。「もしもし、デザイナーの篠原ともえと申します」って。
嬉しかったのは、そうやって電話した方々が、私をいちデザイナーとして扱ってくれたこと。私自身すごく社会を知ることができたんですよね。その方々とは今もいいお付き合いをさせていただいています。
今回、工場の方ともタッグを組んでやらせてもらいました。布に対してパターンを置くと、どうしても余りが出てしまうんですよね。そこで、工場さんと話し合い、できるだけ余りを出さない裁断を目指して、パターンを置く位置をパズルのように組み合わせました。
── サステナブルな視点で、ということですよね?
篠原さん:そうですね。“作り方のSDGs”というものを、今回は徹底しました。
伸縮性の高い素材を使っているため、サイズ展開を男女合わせて4サイズと減らすことができました。さらに、幅広い体型の人が着用しやすいよう、オーバーサイズのデザインしたんです。
今回のデザインでは、自分の手でパーツや生地を選んで、予算を考えて、発注してという、コンセプトづくりから生産管理まで全て一貫して取り組ませていただいたのが初めての経験でしたので、学びが多かったですね。
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PROFILE 篠原ともえさん
文化女子大学短期大学部服装学科ファッションクリエイティブコース・デザイン専攻卒。1995年歌手デビュー。映画、ドラマ、舞台など歌手やタレント活動を経て、衣装デザイナーとしても活躍。2020年、夫でアートディレクターの池澤樹氏とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。2022年4月開業の宿泊施設「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」ではホテルユニフォームのデザイン・製作監修を担当している。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美