昨年、18年間半勤めたテレビ朝日を退職し、経験ゼロの旅行業界へ飛び込んだ大木優紀さん。妊娠や出産、子育てなどの理由で思うように働けずに悩む女性が多くいるなか、年齢にとらわれず勇気のある転職を決めました。
アナウンサー時代に2度の産休・育休を経て、40代からの異業種への転職。子育てをしながら「母親としても、一人の人間としても人生を楽しみたい」と話す大木さんの考えとは…?
産休・育休で仕事がリセットされても…
── テレビ朝日の局アナ時代は、情報番組からバラエティ番組まで幅広く活躍され、その間に妊娠・出産も経験されましたね。
大木さん:35歳までに2人産んだので、産休と育休を2回とりました。休むたびに担当番組は手放さなければならず、キャリアが中断する感じはありましたね。
ありがたいことに、復帰後もレギュラー番組はいただけたんです。でも、自分のなかでリセットボタンを押されてしまった感覚があったので、ゼロから「自分ができること」を少しずつ模索しながら関わりました。
そうするうちに「私はこういうのは得意だな」とか「どうしてもこれはうまくできないな」とか自分の得手・不得手が見えてきて。いま振り返れば、本当の意味で仕事のやりがいを見つける、いい時期だったと思います。
── 産休・育休を経て気づいたことはありますか?
大木さん:子どもができる前は、漠然と「出産したらもう仕事はいいや」って感じるかなと思っていました。
でも実際に出産してみて、子どもってこんなに愛おしいんだ!という衝撃的な喜びを実感する一方で、大木優紀という一人の人間として、いままで頑張ってきた自分自身の人生もあきらめたくないと思うようになって。
「受験頑張らなきゃ」「就職して仕事頑張らなきゃ」って、一生懸命に積み重ねてきた私の過去もある。母親になった私も今までの私も、両方大事にしたい。だから、自分らしくいるために、母親業も仕事もどうにか両立して頑張りたいと思ったんです。
転職して知った、フレキシブルな働き方
── 今年1月から「令和トラベル」に入社されましたが、家事や育児に変化はありますか?
大木さん:アナウンサーという仕事は、番組のクールごとに生活リズムがガラッと変わります。夕方のニュース番組を担当していると子どもが帰ってくる時間帯は家にいられなかったり、朝の番組担当だと真夜中に起きなきゃいけなかったり…。
ですから、生活リズムが変わるたびに家事や育児も流れが変わるんです。仕方のないことですが、やはり慣れるまでは夫婦それぞれに負担がふえていたような気がします。
この会社に入って視野が広がったのが、完全フレキシブルな働き方。責任を持って自分の仕事をこなせば、どこで働こうが、いつ休みを取ろうが自由なんですね。
いまは基本的に自宅でリモートワークで、オフィスに来るのは週1~2回。自分の生活を自分でマネジメントできるようになり、家庭との両立はしやすくなったと思います。
── 家庭では、夫婦の家事・育児分担はどうですか?
大木さん:うーん…私は自分6割、夫4割だと思っていますけど、向こうも自分6割、妻4割と思っていそう(笑)。
どのご家庭もそうだと思いますが、コロナの影響で2020年は家にいる時間が長くて。子どもたちの休校や休園が続き、何とも言えない特別な時間を家族で過ごした1年でした。
でもそのおかげで、家事分担のルーティンがカチッと決まったような気がします。自然に各自の担当が決まって、夫婦間でいちいち「これやってよ」とか「なんでやらないの?」という衝突はなくなりました。
「働きながら子ども連れ海外」を実現したい
── 働き方を変えたことで、子どもと過ごす時間も以前より増えそうですね。
大木さん:社内では「Focus(フォーカス)」という施策も進めています。希望者は1か月間働く時間をグッと減らして(最大4分の1まで)、その分給与も減るけれど、自分の取り組みたいことにフォーカスできるようにしようという試みです。
私が提案した施策なのですが、晴れて今年4月から採用されることになって。今夏にこの制度を利用して、思いきって子どもを連れてニューヨークに行きたいと思っています。
── 思いきった試みですね!なぜその施策を思いついたのでしょうか?
大木さん:小学校の夏休みって限られていますよね。私の幼少期も夏休みは特別な時間でした。でも、自分が親になってみると、働きながらでは、一緒にいられる時間があまりなくて。
転職したことで働き方のフレキシブルさが大きく変わったので、せっかくなら子どもとの思い出づくりをしたいと考えたんです。現地のサマーキャンプに参加するなどして、親子で特別な夏休みを過ごしたいと計画しています。
── それは素敵ですね。子育て世代の社員を想定して提案したのですか?
大木さん:目的は人それぞれで、家族の介護のためや、資格をとるため、短期留学などに使ってもいいと思います。年に2回まで、1か月単位で申請できる予定です。
前職でも感じていたのが「いま休みがほしいけれど、会社を辞めたくはない」「キャリアが途絶えるのはイヤだけれど、いまは休みたい」ということ。きっと誰しも、そんな時期がありますよね。
令和トラベルでは、東京と地方の2拠点で働いている人や、オーストラリアはじめ、海外から参加しているメンバーもいます。そういう働き方を見て、「仕事のために何かを犠牲にしなければならない」という考えがなくなりました。
仕事は仕事で頑張りたいし、仕事のために何かをあきらめる必要はない。両方を欲張ってもいいと思えるようになりました。
<前編>40代で転職した元アナ・大木優紀「慣れずに落ち込むも2度目の人生は楽しい」
PROFILE 大木優紀さん
1980年東京都生まれ。2003年テレビ朝日アナウンス部に入社。「くりぃむナントカ」「GET SPORTS」「スーパーJチャンネル」など報道からバラエティ番組まで幅広く活躍する人気アナウンサーに。2021年12月に同社を退職し、2022年1月令和トラベルに入社した。2010年に一般男性と結婚し、現在は小学生の長女・長男と4人暮らし。
取材・文/大野麻里 撮影/野口祐一