2020年度、小学校では新学習指導要領が全面実施となり、英語は「外国語」という教科になって内容が大きく変わりました。ところが今、この変更が混乱を引き起こしているようです。我が子の英語問題で悩む親御さんの質問に、教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介先生が答えます。

Q】英語がわからないと辛いという子の嘆き

小学5年生の娘をもつ母です。先日、子どもが「学校の英語がわからないし、聞き取れないくて辛い」と泣いて訴えてきました。34年生に比べて、英語の内容が格段に難しくなったようです。5年生の英語の教科書を見ていみたら「I want to go to Kyoto.」「It’s in the box.」など、私が中学1年生で習ったような内容で正直びっくりしました。文法も習っていないのに、特に説明もなく英語の授業が進んでいるようです。すっかり英語に苦手意識を持ってしまっているのですが、今後どのように導いたら良いでしょうか?

中学入学前に「英語が嫌い」の問題点

 実は今、新たに始まった小学校の英語教育は、大きな問題になっています。

 

英語教育に携わる多くの方が困っていて、高校受験が主体の塾関係者も「中学の入学段階ですでに英語アレルギーになっていて、つまずいている子が多い」と口を揃えて言います。英語に抵抗感を持った状態なのに、小学校である程度は履修済みとして続きの内容を進めようとするので、中学校でもっと英語が嫌いになり、わからなくなってしまう子がものすごく増えています。

 

これまで中学1年生で習っていた内容を小学校で学ぶことになったので、無理もありません。

 

英単語数も小学校56年生のうちに600700語を習得することが目標とされています。ご相談者様が「難しくなった」と感じるのも当然です。

 

しかし、問題は勉強量だけではありません。

 

「小学生と中学生では脳の成長のタイミングが大きく異なる」ということを考慮しない設計になっているのです。

 

人の脳は、小学4年生以降、ようやく抽象的な論理や理屈が少しずつ理解できるようになっていきます。だから英語も、文法理解での学習法は小学校高学年段階ではまだハードルが高く、中学生になったぐらいでようやく文法を受け入れられるようになるわけです。

 

受け入れられるといっても、13歳の段階では、少なくとも23割の子は文法の体系理解をするのが難しい。並行して単語や例文を覚えるなかで、徐々にわかるようになり、学年が上がるにつれて学習が成立するようになっていきます。

英語の授業

つまり、日本の学校教育でこれまで採用してきた文法や暗記を重視するスタイルの英語学習法は、中学生だからかろうじてできた方法なのです。小学生にこれまでの中学1年生の英語の内容を教えるのであれば、体験やストーリーの理解といった、より感覚的な形に変えて「今わかる、今できる」ものにしてあげなければいけません。

 

現状、こうした成長段階に合わせた教え方が考慮されておらず、これまでの中学の英語をそのまま小学生に押しつけているだけというのが大半の公立小学校での実態です。

 

国家的な課題として英語を強化するのはよいのですが、これは完全に設計ミス。あまりに子どものことをわかっていません。

 

小学校の先生たちも、英語を教える素地がないまま教えなければならないため大変です。先生たちも国の設計ミスの被害者と言ってよいでしょう。とはいえ英語も「教科」に入りましたから、授業を進めなければなりません。どうしても単元を終えることを優先しがちとなり、結果として暗記やテストに重点が置かれるようになります。

 

こんな状態なので、ご家庭で独自に英語の素地を育ててもらえているお子さんは別にして、大多数の子どもが、英語に苦手意識を持っていることでしょう。ご相談者様のお子さんのできが悪いわけではありません。多くのご家庭が同じ問題に直面していると認識していただければと思います。

「あなたは悪くない」と寄り添い、一緒に音読を

 このままでは「日本の子どもたちの英語力は、今後10年で大変なことになる」とも言われており、英語を話せないだけではなく、読むことすらできない子が増えるのではと懸念が高まっています。

 

いずれ文部科学省も今の英語教育を修正せざるをえなくなると思いますが、当分は抜本的な改善は見込めません。今の小学生は、設計ミスの被害者です。かといって、学校にも期待できません。小学校の先生自体が困っているというだけでなく、多くの自治体で小中の連携に課題があり、小学校での学習は身についている前提で授業を始める中学校の先生が多いからです。

 

そのため、お子さんの英語の悩みについては家庭や塾で立て直しをするしか方法はありません。では、家庭では何ができるでしょうか。

 

まずは寄り添うところから始めてあげましょう。

 

「ちゃんと聞けばできるでしょう」「先生が教えてくれたでしょう?」と本人の習い方の問題と捉えずに、「みんなが困っているよね」「無理だよね」と苦しみを共有してあげてください。とにかく、まずは感情面を整えることを意識して、「あなたは悪くないよ」と安心させてあげましょう。

 

そして、英語の教科書を開いて一緒に音読をしてみてください。英語が苦手になっている子は、教科書をちゃんと読んでいない場合が多いのです。怠けているということではなく、「自分は読めない」と思い込んでしまっているために、距離を置いてしまうのですね。

 

現在、英語を早くから勉強している子もいるので、クラスの中で「わかる子」と「わからないままスタートした子」で差が開いてしまっています。

 

子どもは、自分がわからないものを隣の子がわかっていると、それを能力の問題だと錯覚して苦手意識を抱きます。そこをほぐしてあげるためにも、一緒に音読することをお薦めします。

 

言語は触れることが大事なので、何回も口に出してなじませてあげましょう。

 

例えば「I want to go to Kyoto.」なら「want to~は『~したい』だから『行きたい』ということだね」とシンプルに意味を教えてあげて、「go to Tokyo」など行き先をいろいろ変えて繰り返してみる。「It’s in the box.」なら、おそらく教科書にはイラストが載っているので、それを一緒に見ながら場面の理解を促してあげる。

 

単語についても、イラストを活用して映像が思い浮かぶことを大事にしてください。

 

例えば、「cat」を見た瞬間、つんつんした猫のイメージが浮かべば、「catty(意地悪な、優しくない)」のニュアンスもつかみやすいですよね。できれば例文も一緒に読んであげましょう。英語の辞書も、イラストが豊富な小学生向けのものを選んであげてください。

 

そんなふうに、示されている内容と英語を、イメージがわくよう紐づけてあげるお手伝いをするのが望ましいです。

 

英語の童謡を聴いたり、海外の幼児向けテレビ番組などを一緒に楽しんだりするのもいいかなと思います。慌てて英語ドリルを買ったり英語教室に駆けこんだりする必要はありません。

 

親御さんはどうか「困っているのはうちの子だけだ」と抱え込まないでください。今は英語で悩むのは当然の状況。それを前提にお子さんをサポートしてあげてほしいと思います。

PROFILE 小川大介さん

小川大介先生
教育家・見守る子育て研究所所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ