「他人の声が気になりすぎて傷つく…」このような悩みは、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン:Highly Sensitive Person/非常に感受性が強く敏感な気質)の人に多いとされています。

 

産業医・精神科医として活躍する井上智介先生に、他人とのコミュニケーションで傷つきやすい人の特徴と対策を聞きました。

判断基準が他人になっていませんか

相手やその場の空気を読んだり、周囲のことを最優先に考えたりすることは、思いやりのある素晴らしい行動だと思います。

 

ですが、その一方で、神経質に考えすぎてしまうと、ときにはつらくなってしまうこともありますよね。

 

その胸の奥あるのは、

 

・何かしらの劣等感がある


・自分になかなか自信が持てない


・周りの人に嫌われたくない

 

といった思いではないでしょうか。

 

これらに心当たりがある場合は、物事の判断基準が「他人」に置かれています。

 

つまり、自分ではなく、他人に判断基準を委ねてしまっているが故に、相手の態度に傷ついてしまうのです。

 

自分が後回しになっているこの状況を改善するには、判断基準を自分に置くことが大切です。自分の人生は、誰のためでもない、あなたのもの。そのことをまずは意識してみましょう。

他人ではなく「自分」に評価軸を置く方法

真面目な人ほど、一日の終わりに「今日できなかったこと」を振り返ったり、「明日やらなくてはいけないこと」を延々と考えたりする傾向があります。

 

そこで試してほしいのが、今日一日を「自分軸」で振り返り、出来たことに目を向けて、自分をほめることです。

振り返り日記で自分をほめる

ノートでも手帳でも、スマホのメモでも構いません。今日一日のなかで自分が頑張ったところや、ほめることができるところを書いてみましょう。

他人を評価軸にして生きてきた人は、どうしても、他人から見た自分のダメな部分や、たりていない部分に目が行きがちです。

 

はじめのうちは、ポジティブな行動を書き出すことが難しいかもしれません。もし、「自分をほめるようなことがない」という場合は、あなたがいつも当たり前にしている行動をほめてみましょう。

 

・今日も朝から起きて、時間通りに会社に行けた。えらい!


・食器をためずに洗うことができた。すごい!


・読みかけの本をすすめられた。よかった!


・今日もしっかり湯船につかれた。ナイス!

 

いっけん、当たり前のことのように思えるかもしれませんが、毎日頑張っているあなた自身のことは、十分にほめていいのです。

 

さらに、少し上級編ではありますが、視点を変えてみると、上手くいかなかったことでも、自分をほめるポイントに変えることができます。

 

・ダイエット中なのに、ケーキを食べてしまった→自分の欲求に素直に従えた!やった!


・上司に間違いを指摘された→知らなかったことを知ることができた。とてもありがたい!

 

このように、捉え方を少し変えるだけで、自分のなかでダメだと思っていたことも、ほめるべき対象になります。

 

最初はひとつでも構いません。最終的には一日3つを目標に、少しずつでいいので自分をほめていきましょう。

自分をほめることで、人をほめることもうまくなる

評価軸を自分に置き、自分をほめてあげることができるようになると、他人の良い点にも気づきやすくなります。

 

そうすると、ほめることがうまくなるばかりか、自分だけでなく相手のポジティブな面にも目を向けることができます。

 

たとえば、子育ての場面では、つい子どものできていない部分に目が行き、叱ってばかりいるという人は多いのではないでしょうか。

 

自分をほめることが習慣になっていると、子どもの欠点ではなく、良い部分を積極的に探すことができるはずです。

 

言葉に出してほめるようにすると、子どもの自己肯定感を育てることもできるのです。

傷つきやすい自分もそのまま受け入れて

評価軸を他人から自分に変えていければ、周囲を気にしてばかりの状況を手放すことができるでしょう。

 

とはいえ、傷つきやすい自分を無理にすべて変えようとする必要はありません。

 

相手の気持ちに敏感に気づくことができるのは、相手の心に寄り添えるやさしい人という側面もあります。傷つきやすい繊細な部分は、裏を返すとあなたの良さにもなるのですから。

 

ただ、そんな自分に疲れ過ぎてしんどくならないためには、ときには気持ちを切り替えたり、積極的に自分をほめたりすることも必要です。

 

自分の感情を大切にしながら、ポジティブにつきあっていってもらえたらと思います。

 

PROFILE 井上智介

井上智介先生プロフィール
大阪を中心に精神科医・産業医として活動。産業医としては社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員に、カウンセリング要素を取り入れた対話重視のケアを行う。精神科医としてはうつ病、適応障害などの疾患の治療に加え、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも対応する。

取材・構成/水谷映美