中学受験塾に通い始め、「学校の勉強は意味がない」と言い出す子がいます。そんな子には、いったいどんな声がけをしたらよいのでしょうか。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生にお話を伺いました。

Q】学校の勉強の意味がよく分からない子への対応

中学受験塾に通っている息子。「学校の勉強が簡単すぎてやる意味が見いだせない」と言い出しました。宿題もやっつけですし、授業もつまらないな、と思いつつ受けているようです。「学校の勉強は塾の復習だと思って取り組もう」と話したのですが、果たしてこの答えでよかったのか。学校の勉強に疑問を持っている子にどのように声掛けするのがいいでしょうか。

国も「正解主義」からの脱却を模索している

このようなお悩みを耳にするとまず心配になるのが、お子さんの塾での学習の仕方です。もしかすると、答えを出すことや知識を覚えることを第一の目的にしている可能性があるため、まずは正解主義に陥ってないか点検してあげてほしいなと思います。

 

なぜなら、最近では中学受験でも知識だけではなく、「思考力」が問われるからです。何が問題になっているかを読み解き、自分が持つどの知識が使えるかを照らし合わせながら回答する出題が増えているのです。

 

背景には、国レベルでの問題意識があります。

 

明治以来の日本型学校教育は、海外と異なり「知・徳・体」の3要素を育てる全人教育で成功しました。一方で、平等に一定水準の学力を育てる教育が長く続いた結果、正解主義が蔓延し、偏差値至上主義のような価値観も生まれてしまったのです。

 

今、国もこの問題を反省し、正解主義や同調圧力からの脱却を模索しています。これを受けて中学受験も変わりつつありますが、テストを繰り返して偏差値で子どもの学力を評価するモデルが確立している塾現場では、まだまだ正解主義の価値観のみで運営されているところが多数派です。人生経験が限られ、学びを楽しむ感覚がまだ育まれていない小学生が、正解を早く多く出した子がよしとされる環境に置かれると、「答えが出たらそれでいい」というスタンスが刷り込まれてしまうのは想像に難くありません。

学校は子どもの「知・徳・体」を育む場所

もし、ご相談者のお子さんが正解主義に傾いているようであれば、日本の学校が何を目指しているのか、つまり、「知・徳・体を扱う社会」であることを前提に対応してあげることが大事です。

 

お子さんが塾で知識をカバーできているなら、「学校は友達と楽しく過ごし、いろんな人の気持ちを理解する場である」と捉えればいいと思います。勉強がわからない子を助けてあげるなど、知識の生かし方や学校生活の楽しみ方を一緒に考えてあげればいい。そんな視点を親御さんに持っていただきたいなと思います。

学校がつまらない

しかし、困ったことに学校にも、「先生の言ったとおりに解きなさい」「教えていない解法は使ってはいけません」といった正解主義で押さえつけてくる先生がいます。

 

学校の担任の先生がそのようなタイプであった場合は、お子さんが学校を意味がないと思っても仕方ありません。正解主義である限り、学校の先生は塾の先生には勝てませんから。

 

そんな時は、「でも、学校は本来できることや魅力がたくさんある場所なんだよ。だから、あなたが納得できる環境に身を置くために、行きたい学校を受験しようね」と寄り添ってあげてください。今の担任の先生の価値観が「学校」というものの全てを表しているのではない、という視点を伝えるということです。

 

本来、学校は先生や友達など人との出会いによって多くのことを学ぶことのできる場所です。小学生の段階で学校に意味がないと勘違いさせないことは大事です。先生が原因で学校が苦痛になっている場合は、それが特定の環境や状況であると理解させてあげましょう。

学校の勉強を軽視すると「中学校で成績不振」に

実は、小学校で塾の勉強を重視して学校を軽視してきた結果、中学に入って成績不振に陥るケースがとても多いのです。学校の勉強を軽視するあまり、「自分で学ぶ力」が育っていないのです。名門中学校ほど「正解を自分で見つけなさい」「問題意識を持つことが重要で答えが何かはその先にある」といった方針なので、正解主義の子はどうしていいのかわからない。それで、また塾に行くんですよね。

 

親が正解主義だと子どもは簡単に学校不要論に傾きますので、受験家庭は注意した方がいいと思います。知識の本質的なところを丁寧に学ぶ価値を小学校で理解した子は、中学でもしっかり学べます。そういった長期の視点で学習を捉えていくことが重要だと思います。

 

そのためにも親御さんには、学校制度や学びについて、ある程度知識を持つことをおすすめします。日本が目指す姿については、20211月に中央教育審議会で取りまとめられた「『令和の日本型教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」に詳しく書かれています。

 

すべてを読む必要はありませんが、「概要」だけでも、ぜひこの機会に読んでおかれるとよいと思います。

 

PROFILE 小川大介さん

小川大介先生
教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ
参考/「『令和の日本型教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」(概要) https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_1-4.pdf