コロナ禍で新しい働き方として定着してきたリモートワーク。子育て中や、転勤族のパートナーと結婚した場合でも、住む場所に関係なく働けるという面で、働き方の可能性を一気に広げました。
スマホひとつで自分に合った漢方薬を相談・注文できる『あんしん漢方』。サービスを提供しているMSGでは、職種に関わらず全員リモートワークというスタイルを取り入れることで、住む場所によってキャリアを諦めていた人の雇用を確保しています。
イギリス人男性との結婚を機にロンドンに移住し、5歳の男の子を育てながら同社で薬剤師として働くディヴァル理乃さんに、今の働き方に至った経緯を伺いました。
薬剤師のキャリアより語学留学を優先した20代
── そもそも、薬剤師を目指したきっかけはなんでしたか?
理乃さん:
もともと理系が得意だったのですが、解剖や血を見るのが苦手で。漠然と薬剤師になりたいと思い、薬学部に進学しました。大学卒業後は大学院に進学して、薬の構造について研究していました。
大学院在学中に、薬剤師の仕事って何だろうって突き詰めて考えたことがあって。そのときに「患者さんの役に立つことがいちばん大事」だと思い至りました。研究を続けていると、その役目からはかけ離れてしまう気がしたんです。それで、大学院を中退して調剤薬局に勤めました。
── 実際に調剤薬局で働き始めて、どう感じましたか。
理乃さん:
最初に勤務したのは総合病院の目の前の薬局で、とにかく忙しかったですね。当時は、先々のキャリアについて考えるというよりは、まずは店長を目指そうと漠然と考えていたように思います。ただ、他にやりたいことがあって、27歳のときに退職しました。
── どんな理由で退職されたのでしょうか。
理乃さん:
英語を学ぶためにロンドン留学を決めました。いつか海外で学びたいとずっと考えていて。30代になると動きにくくなるだろうから、20代のうちに行きたいと思っていたんです。薬剤師の仕事をひと通りこなせるようになったので、気持ち的にもひと区切りついていました。
── ロンドンでは、ワーキングホリデーなどを利用したのですか?
理乃さん:
いいえ。学生として、現地の英語学校に入りました。いずれは日本で英語を使った薬剤師の仕事がしたい、という目標があったんです。今思えば、学ぶこと自体が好きだったのかもしれません。もしもやりたい仕事が見つかれば、海外で働くことも選択肢に入れていました。
国際結婚を機にロンドンに移住した意外な事情
── 留学中は、現地ではアルバイトなども経験しましたか?
理乃さん:
薬剤師を募集している日系のクリニックを見つけ、現地で働き始めました。働いている人も患者さんもほぼ日本人で、仕事はしやすかったですね。ただ、立場としては「病院薬剤師」でしたが、海外の薬剤師の資格がないので、注射薬や点滴薬の処方はできなくて。調剤や服薬指導をしていました。
── 働いていて困ったことはありましたか?
理乃さん:
海外では、薬の一般名は同じでも商品名がすべて変わるし、メーカーも違うんです。当然、説明書も服薬指導、添付文章は全部英語なので、最初は苦労しましたね。また日英で異なる小児用ワクチンのスケジュール管理も大変でした。
そのクリニックでは1年弱働いていたのですが、ビザの関係で一度帰国しました。
── 一度帰国されたのち、ロンドンにまた戻られたわけですね?
理乃さん:
留学していたときに今の夫と出会い、帰国後も遠距離恋愛を続けていたんです。その後、結婚することになり、私がロンドンに住むことを決めました。
── 住み慣れた日本を離れることに不安はなかったですか?
理乃さん:
夫は日本語が全然話せないので、私が行くしかないなと(笑)。夫は銀行勤務で、日本に来たとしても銀行には外国人のポジションなんてまずありません。だから私が現地で働こうと思いました。
── 結婚してロンドンに移住されてからも、薬剤師の仕事を再開されたのですか?
理乃さん:
アートにも興味があったので、結婚後しばらくはヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で、ボランティア活動をしていました。その後、学生時代に働いていた日系のクリニックで、また病院薬剤師として3〜4年働きました。
育児の難しさに直面し…働き方を変える必要に迫られた
── 対面の調剤薬局から、オンライン処方の『あんしん漢方』の薬剤師に転職したきっかけは?
理乃さん:
子どもが生まれたあと、薬局での仕事はいったん辞めました。よく夜中に起きる子だったので、育児と仕事の両立が難しくて…。コロナ禍ということもあって、家でできて、時間の制限がない仕事を探していたんです。
── MSGのことは、どのようにして知ったのですか?
理乃さん:
ネットで調べていて偶然見つけ、1年前から働き始めました。MSGは完全リモートワークで働く時間が選べるため、子どもが突然体調を崩しても会社に迷惑を掛けないですむのが魅力でした。
── 就職のための面談もオンラインだったそうですが、やってみていかがでしたか?
理乃さん:
子どもを抱えての就活だったので、最終まですべてオンラインでのやりとりで済んで助かりました。その反面、自宅の環境の調整が難しい部分もありました。面接時は夫に子どもをみてもらい、迷惑をかけないように気をつけていましたね。
── 今は、仕事より育児中心の生活でしょうか?
理乃さん:
そうですね。今は子どもの教育に関わることに重点を置いています。ロンドンの学校のシステムでは、子どもの勉強を親がサポートする時間を確保する必要があって。フルタイムで働きながら時間を作るのはかなり難しいんです。だから、好きな時間に働くのが理想でした。
それに以前、子どもがケガをして病院に連れて行ってから出社したのですが、大幅に遅刻してしまって…。こういうアクシデントがあると、定時出社だと対応が難しいと痛感しました。
── どのようなスケジュールで1日を過ごしていますか?
理乃さん:
朝7時に起床して、子どもの学校の準備をします。息子を学校に送り出した9時から14時くらいまで、お昼休憩を挟んで仕事をしています。15時にはまた迎えに出なければならないので、働いているのは1日4時間ほどです。
──『あんしん漢方』の仕事で難しかったことはありますか?
理乃さん:
漢方の知識はなかったので、MSGから頂いた資料で猛勉強しました。普段は自分の時間があまりないので、まとまった時間が取れる週末や日中に勉強していましたね。漢方って、知れば知るほど本当に奥が深いなと思います。
『あんしん漢方』では、漢方医学のビッグデータと国内の医療チームの知識や症例をデータ化したAIを活用したうえで体質判定と漢方薬の提案を行っているので、患者さんと直接関わる薬剤師としても安心して業務を進められています。
── 完全リモートワークの良い部分はどのようなところですか?
理乃さん:
なんと言っても通勤がないところですね。バタバタと子どもを送り出したあと、パジャマのままで働いたりもできますし。時間がフレキシブルに使えるし、調剤薬局勤務の薬剤師のように「絶対その場所にいないといけない」という制限がないのもありがたいです。
── MSGは社員が職種に関わらずリモートワークを行っています。この取り組みについてどう感じていますか?
理乃さん:
子育て世代は、子どもの生活環境や教育に支障が出ない範囲で働きたいと思っている人も少なくありません。このような取り組みが広がれば、子育て世代の女性の社会復帰をさらに後押しできるのではないでしょうか。
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コロナ禍が長引き、リモートワークが定着しつつある昨今でも、働き方の制限に悩む人もいるでしょう。住む場所が変わっても自分にとってやりがいのある仕事が続けられ、資格や能力を活かせるMSGの制度は、まさにこれからの働き方の可能性を広げる一例と言えそうです。
取材・文/池守りぜね 画像提供/ディヴァル理乃