その道のエキスパートが登場するテレビ番組『マツコの知らない世界』に出演し、「日本茶バリスタ」として日本茶の魅力を伝える倉橋佳彦さん。「何店舗で働いたか覚えていない」というほど飲食店での転職を繰り返していたなかで、日本茶に興味を持ったきっかけや、コロナ禍の今だからこそ提案したいというお茶の時間について伺いました。

経験した飲食店は数えきれず…「日本茶バリスタ」が誕生するまで

──「日本茶バリスタ」としてご活動をしていますが、そもそもこの職業は倉橋さんが考案されたそうですね。

 

倉橋さん:

近い活動をしている方はいらっしゃると思いますが、「日本茶バリスタ」と名乗り始めたのは私です。元々コーヒーのバリスタをしていたので淹れ手(お茶を淹れる人)に注目して日本茶を伝えていきたくて、職業を作りたいと思ったんです。あとは淹れ手を増やしたいと思ったのもあります。

 

──これまでされてきた仕事について教えていただけますか。

 

倉橋さん:

地元の秋田県にある工業高校の建築科を卒業して、すぐに東京で就職しました。最初は施工会社で働いたのですが、食べることも好きですし、手に職をつけたかったので飲食店をいくつも経験しました。

 

カフェやレストラン、ベーグル店、ハンバーガー店、ケーキなどのスイーツも…。次々と興味が湧いてそれに向かって真っ直ぐになってしまう性格なので、10年以上飲食店に携わっていますが、何店舗で働いたか自分でも覚えていないです(笑)。

 

──そのなかでもより惹き込まれたのが、前職のコーヒーのバリスタだったそうですね。

 

倉橋さん:

スイーツが好きで、それに合わせるコーヒーが美味しかったらいいなと思っていた時に店を任せていただき、コーヒーの勉強を始めました。生の豆から焙煎したり、ハンドドリップをしたり、いろいろな専門店を何千軒と回って飲んで学び、すっかりコーヒーにハマってしまいました。

バリスタ時代 豆を挽く倉橋さん

 

──コーヒーに没頭していたわけですが、そこからどうしてお茶に興味を持ち始めたのですか。

 

倉橋さん:

今から6年ほど前のある日、突然ひどい頭痛に見舞われるようになりました。コーヒーが好きすぎて、1日中、朝昼晩と飲んでいたんです。110杯以上だったと思います。仕事でも家でも、喉が渇いたら水のように飲んでいました。

 

そんな生活をしていたら、おそらくカフェインの取りすぎだと思うんですが、体調が優れないのでコーヒーを飲まなくなった…というよりも飲めなくなってしまったんです。

バリスタ時代 コーヒーを淹れる倉橋さん

 

そこから何を飲もうかなと思った時に、なんとなく家にあるペットボトルのお茶を飲んだら、結構好きだなと思って。

 

「なんでお茶はみんなペットボトルのものばかり飲むんだろう。コーヒーは缶コーヒーとハンドドリップで味が違うけど、急須で淹れるとお茶は何が違うのかな」という疑問が湧き始めて、そこから日本茶専門店でお茶を飲んでみたのが第一歩でした。

 

──そこから日本茶の勉強を始めたわけですね。

 

倉橋さん:

それまでお茶のことを全然知らなかったのですが、バリスタの経験があったので最初は淹れ方に興味を持ちました。

 

それと、日本茶の専門店で飲んだ時にすごく五感を刺激されたんです。

 

それまでお茶というと渋みや苦味、青っぽい香りがあるなとしか思ってなかったんですけど、だんだんと体に染みていく感覚があって。こんなに奥行きがあって、香りが豊かで、余韻がある。お茶って本当は、こんなに美味しいんだと思いました。

 

淹れている所作や器、空間や静けさ。お茶の時間を感じたときに、初めて飲んだわけじゃないのに初めてだと思う体験がたくさんありました。それと同時に日本のこともまったく知らないなと改めて考えさせられたんです。

注目度が高まった「マツコの知らない世界」への出演

──日本茶の学びを深めていったことがきっかけで、テレビ番組にもご出演されたそうですね。

 

倉橋さん:

私のInstagramを見た番組スタッフから連絡が来ました。「マツコの知らない世界」の、ほうじ茶スイーツの世界に出演したのですが、スイーツだけではなくお茶のことも話せる方がいいと思ってくれてオファーしてくださったようです。

 

──マツコ・デラックスさんとはどんなやり取りをしたのですか。

 

倉橋さん:

秋田出身ですと言ったら、秋田のことも詳しくて。私の実家は由利本荘市なんですけど、マツコさんは私よりも詳しかったです(笑)。話のネタもたくさん持っていらっしゃいますし、誰とでも話せるってすごいことだと思います。番組冒頭で私が離婚したという話をしたら、そのネタをずっと引っ張り続けていましたね。

 

収録の際はマツコさんとのリハーサルはなく、会わないように移動してスタジオ入りするんですが、本番で初めてお会いするのでリアルな番組になるんだと思います。とても楽しかったです。

 

常に話しやすくしてくださいましたし、食べている姿もとても美味しそうでした。

──番組では何を紹介したのですか。

 

倉橋さん:

おすすめのほうじ茶のモンブランや、ほうじ茶とゴルゴンゾーラのジェラートを一緒に出しました。どれもとても美味しいと言ってくれました。ジェラートはゴルゴンゾーラの風味が濃いのですが、一緒に食べることでほうじ茶の香りも引き立って楽しめるという面白さを伝えたかったんです。

 

番組が終わったあと、Instagramのフォロワーも急激に増えまして、ずっと携帯が鳴りっぱなしでした。活動を知ってもらえる良いきっかけとなりました。

お茶を淹れることで自分が整っていく

──倉橋さんは、このご時世だからこそお茶の時間を大切にしてほしいと思っていらっしゃるそうですね。

 

倉橋さん:

コロナ禍で外に出にくかったり、人と会う機会が減ってきたりしているのもあるので、そうであるならば自分と向き合う時間を作るのもいいと思っています。お茶を淹れているときはそのことに集中するので、気分転換にもなりますし、ふと忘れていたことに気づくこともできます。

頭がモヤモヤする時に、お茶を淹れて飲むことに集中すると、なんでこういう考えになって、こういう行動をしたんだろうと振り返りながら、自分自身と向き合えるんです。余裕が生まれると、誰かに淹れてあげようという優しい気持ちにもなれます。

 

飲むだけではない、お茶を通して体験する感覚を日常のひとつにしていきたいですね。自宅でもそれをできるので、お茶の時間をぜひ生活の中に取り入れてほしいと思っています。

 

PROFILE 倉橋佳彦さん

秋田県出身。今月都内にオープンする日本茶とプラントミルクティーの専門カフェ「And Tei」オーナー。10年以上様々なジャンルの飲食店で働き、現在は日本茶バリスタとして日本茶メニューの開発やワークショップ、イベントなど様々な試みでお茶の楽しみ方を追求し伝え続けている。

取材・文/内橋明日香 写真提供/倉橋佳彦