結婚や出産によって、ライフスタイルの変化が伴う場合も少なくありません。パートナーの仕事の都合で、転勤や海外移住が決まった場合は、それまでの仕事を続けられなくなることも…。

 

オンラインで自分に合った漢方薬の提案を受けられる『あんしん漢方』を運営するMSG株式会社では、コロナ禍以前から完全リモートワークの体制が取られています。この制度により、ライフイベントによるキャリア断絶を余儀なくされた人の雇用を守ることができ、マンパワーを効率よく活用できているそう。

 

どこに住んでいても変わらず働けるMSGの制度と自身のキャリアアップについて、同社で薬剤師として勤務する木村英子さんにお話を聞きました。

結婚によってキャリアが突然断絶

── 最初に薬剤師として働いた職場はどのような環境だったのですか?

 

木村さん:

4年制大学の薬学部を卒業したあとは、厚生労働省の感染症対策をしている検疫所で正社員として働きました。そこで研究したい分野が定まったので、2年間大学院に進学したんです。修士課程を卒業したあと、医学情報系の会社に再就職しました。患者さん向けの添付文書などを作成する業務を行っていました。

 

── 薬剤師の資格を取得してからも、スキルアップを続けていたのですね。調剤薬局以外の就職先もあるというのも意外でした。

 

木村さん:

そうなんです。その後、レジデントという働きながら学生として学べる制度を利用して、病院の薬剤師として働きました。将来的に感染症専門の薬剤師の資格を取るという目標があったので。

MSG木村英子さんとお子さん
木村さんと3人のお子さんたち。現在はワンオペのため、無理なく週2勤務を続けている

── 順調にキャリアを重ねてこられたように思いますが、病院の仕事を退職されたのはなぜでしょうか。

 

木村さん:

結婚が大きかったです。夫が数年後に海外に行くのが決まっていたので。そもそも病院は激務で、産休を取っても補充の人員が入らないことが多いんです。正社員への誘いもあったのですが、周囲のスタッフに迷惑をかけるのが嫌で退職しました。当時働いていた病院では、結婚や出産を経て復職した人がほとんどおらず、前例がなかったこともあります。

異国での言葉の壁…帰国後も育児優先で焦る日々

── その後はインドのデリーに家族で4年間住まれたそうですね。インドでは休職されていたのですか?

 

木村さん:

薬剤師の資格は日本国内でしか通用しないためインドでは働けず、休職していました。薬のアップデートは早いため、取り残されるのではないかという不安をずっと抱えていました。

 

── 滞在中も就活は続けていたのですか?

 

木村さん:

はい。ただ思い悩んでいても仕方ないと思っていたので、インドの医療系NGOに見学へ行ったり、アーユルヴェーダを学んだりして、何か今後のヒントになることはないかと現地で模索していました。ただ、インドの医療系NGOはヒンドゥー語の壁が大きく結局、断念しました。

 

── 帰国してからは、どのように就活を始めましたか?

 

木村さん:

子どもがいたので、就活と保活を同時進行することになり大変でした。どうしても譲れない条件として、残業がない職場を探しました。どうにか調剤薬局で働き始めたのですが、今度は引っ越しのために辞めることになってしまって。

木村英子さんの在宅勤務の様子
お子さんを見ながら業務をすることも

── どうしても働く環境が安定しづらいということはありますよね。

 

木村さん:

そうなんです。それでインターネットで探して行き着いたのが、MSGでした。20199月に応募して、同年の11月に入社しました。現在は、8歳、5歳、0歳の育児をしながら、『あんしん漢方』の薬剤師として週2回、それぞれ2時間ほど働いています。

 

実は帰国して最初に応募した調剤薬局の面接の際、やむを得ず子どもを連れて行ったんです。そのときはうまく面談が進まず、結局不採用になってしまって…。MSGの面接はすべてリモートで行えたのも助かりました。すべてオンラインという試みは画期的だったので、薬剤師の友人にも驚かれました。

育児最優先で実現した「リモート薬剤師」

── MSGでの働き方で、一番メリットに感じるのはどのような点でしょうか。

 

木村さん:

MSGではコロナ前から完全リモート体制だったので、オフィスでの打ち合わせなどはいっさいありません。夏には夫の赴任先のペルーに家族で移住する予定ですが、MSGの仕事はオンライン環境があればリモートでできるため、ペルーでも続けたいと考えています。

 

── 『あんしん漢方』は、これまでの調剤薬局での処方とどのように違いますか?

 

木村さん:

オンラインでのコミュニケーションのなかで、患者さんの症状を聞き、その方に合う漢方薬を提案するのですが、このやりとりはドラッグストアの接客と似ていますね。顔は見えませんが、丁寧にやりとりできるところがいいと思います。さまざまな不調に対応する漢方薬の相談から注文、決済、配送までをスマホひとつで完結できるので、コロナ禍という状況もあり利用する方が増えているんですよ。

木村英子さんの在宅ワークスペースの様子
子どもたちを寝かしつけた後はワークスペースで集中して業務を

── オンライン処方で、苦労した点はありますか?

 

木村さん:

患者さんに服薬指導をする際は、表情やニュアンスなど、会話のなかで直にわかる部分が見えないことに最初は戸惑いました。想像力が必要な部分があるので、その点は大変だと思います。

 

── 勤務時間はどのように管理されているのでしょうか。

 

木村さん:

基本的に出来高制で、“指定のタスクを完了させたら報酬が支払われる”というイメージです。それ以外に、メールチェックや会議は稼働した時間で支払われます。タイムカードがないので、個人が申請した時間がそのまま時給に換算されて、承認されています。

 

── 日報などを記載する必要は?

 

木村さん:

やるべきタスクがクリアされていれば、報告は必要ありません。仕事の途中で赤ちゃんを寝かしつけてからまた業務に戻ってもいいので、心にゆとりができました。

自分で働き方を決められることがやる気アップにつながる

── 現在、平日はどのようなスケジュールで過ごしていますか。

 

木村さん:

6時半頃に起きて、9時に幼稚園へ送迎。午前中は洗濯や掃除などの家事と第3子のお世話が中心です。午後は上の子を幼稚園に迎えに行った後、日によっては子どもの習い事や、勉強をみてから寝かしつけをしています。

 

── 育児が中心だと、自分の時間が取りづらいですよね。

 

木村さん:

21時に子どもの寝かしつけた後、2224時までを仕事に当てています。今は週2〜3日というスケジュールですが、落ち着いたら9時半からの午前中も仕事に当てたいですね。

 

── 夏にはペルーへ引っ越されるそうですが、MSGの仕事はいつごろから再開される予定ですか。

 

木村さん:

引っ越しが落ち着いて1、2か月ほどしたら、仕事量を抑えながら復職したいと思っています。理想は週4回です。

 

── 働き方は自分で選べるのですか?

 

木村さん:

MSGのディレクターと面談して、自分の状況を説明します。自分が抜けても、他のスタッフで回せるようにメモに引き継ぎを行います。患者さんに提案された漢方薬の履歴もわかるようになっています。

 

── 代わりがいなかった病院勤務時代とはだいぶ違いますね。


木村さん:

そうですね。周囲の理解があることは本当にありがたいですし、誰かが休むときに、ほかのメンバーがカバーできる体制は安心して働けますね。

 

── 転勤などで海外移住した場合も、国内と同じような働き方ができるMSGの取り組みについて、どう感じていますか?

 

木村さん:

今までは、夫の転勤に合わせて退職するという選択が当たり前だと思っていました。でも完全リモート勤務のため辞める必要がなく、キャリアを継続できるのはありがたいと感じています。薬剤師は働いていないスパンが開いてしまうと、そのぶん自分で勉強してアップデートしていかないといけない。だから仕事を継続できることはすごくメリットとして大きいんです。

 

それに、時差も気にせず空いている時間で働けるのは、とても画期的ですね。

 

── 子育て中だと、時間にとらわれない働き方はとくに魅力ですよね。

 

木村さん:

そうですね。仕事と家事・育児を頑張って両立させていた頃は、余裕がなくて子どもに「早くして」と口調が荒くなることもありました。今の働き方ができるおかげで、日々ゆとりをもって暮らせるし、自分だけ社会から置いていかれたような気持ちにならずに済むので、大きな一歩だと思っています。

 

 

かつては夫の仕事に合わせ、妻が仕キャリアアップを諦めるといったケースはよくあることでしたが、すでに時代錯誤と言えるところまで来ているかもしれません。MSGのような場所や時間にとらわれない働き方は、今後ますますふえていくことが期待されます。

取材・文/池守りぜね 画像提供/木村英子