外出先や職場で急に生理が来て、焦った経験はありませんか?とりあえずトイレットペーパーを挟んでナプキン代わりにし、近くのコンビニまで走る...といった経験は誰しもあるのでは。
「トイレットペーパーと同じように、生理用品が無料で当たり前に使える世の中を実現したい」。個室トイレにナプキンを常備し、無料で提供するサービス「OiTr(オイテル)」は、そんな思いから開発されました。全国各地の商業施設や学校、公共施設に約1000台が設置され、最近は社員への福利厚生として取り入れる企業も徐々に増えています。
サービスを開発した「オイテル」の飯崎俊彦・専務取締役COO(最高執行責任者)に、OiTrの開発秘話や仕組みについて伺いました。
「トイレットペーパーは常備されているのに、なぜ生理用品は常備されていないの?」
── OiTrは、どのようにして企画されたサービスなのでしょうか?
飯崎さん:代表の小村大一と社会的意義あることをしたいという思いで意気投合したのがはじまりでした。
よりよい社会をつくるために、いま抱えている多くの社会課題を解決していかなければなりません。これまで社会を牽引してきた国や行政だけで解決することは難しいと感じています。つくられた社会で生きていくのではなく、そこに生きている個人がみんなで理想の社会をつくっていくべきだと考えました。
それを実現するために、同じ価値観を持った仲間が集まり「あなたによくて、社会にいいこと」をビジョンに掲げ、“社会課題をビジネスで解決する”をミッションに起業しました。本当のより良い社会、サステナブルな社会にしていくには、これまでの固定概念にとらわれず、新しいモノサシで考えることが重要でした。それが「ビジネスで解決する」ということだったのです。
──「社会課題を解決したい」という思いから始まったのですね。どうして生理に注目したのでしょうか?
飯崎さん:少子高齢化、社会保障費の拡大、母子家庭の貧困問題など、アプローチすべき社会課題を考えた時に、最終的にたどり着いたのがジェンダーギャップ(男女格差)でした。女性たちが生きやすい社会になってきたと思い込んでいたのですが、まったくそうではありませんでした。むしろライフスタイルの変化により、さらに様々な負担を抱えることになっていることがわかりました。
その一つが、女性特有の健康課題に伴う負担です。女性の身体に生まれたゆえに、初経から閉経まで40年近く生理の身体的・精神的負担を抱えて生きている。
それは表面的には男性に分からず、いつもどこかで我慢して生きていかなければいけないのだと思いました。これらの課題は女性だけの課題ではなく社会課題としてとらえ、私たちは少しでも彼女たちに寄り添い、抱えている負担の一つでも軽減できたらいと思ったのです。
私たちにできることはないかと調べていたら「フェムテック」という市場を知りました。女性の健康課題をテクノロジーで解決するというものです。素晴らしいと思いましたね。ただ、女性自らの経験から生まれた市場でもあるので、この市場に男性である私たちが参入するにはあまりにも壁があると感じていました。
いろいろと模索するなかで「トイレにはトイレットペーパーは常備されているのに、なぜ生理用品が常備されていないのか?」という女性の声に出会いました。これなら女性の身体について深く知らなくても、トイレに無料でナプキンが使える環境が整えば、身体的・精神的な負担が軽減できる。これだと思いました。
専用アプリをダウンロード→25日周期でナプキン7枚を使用可能
── OiTrはどのようにして利用できるのでしょうか?
飯崎さん:OiTrが設置されている個室トイレ内には、専用アプリ(無料)をダウンロードできるQRコードが貼ってあります。初めてサービスを使用する際は、ユーザー登録は不要。ダウンロードするだけでナプキンを一枚取り出せます。ただし、2枚目以降はユーザー登録が必要です。
アプリを起動し取り出しボタンをタップし、ディスペンサーの「OiTrマーク」にスマートフォンを近づけると、ナプキンを一枚無料で受け取ることができます。ディスペンサーに触れることなくナプキンを取り出せるため、衛生面でも安心して使うことができるでしょう。
── 1日あたりの枚数制限などはありますか?
飯崎さん:ナプキンの使用には時間制限があり、1枚取り出した後、2時間が経過するとさらにもう一枚使える仕組みになっています。生理用品メーカーや産婦人科医が2〜3時間おきに交換することを推奨しているため、2時間と決めました。
また、ユーザー登録を完了しますと、一人につき25日間で7枚まで無料で使用できるようになります。正常な生理周期は25日〜38日といわれているため、その最短の25日と決めました。25日間で使用した枚数がリセットされ、26日目にまた7枚から使用できるようになります。7枚を使い切らなかったとしても、繰越されることはありません。
例えば、25日間で3枚使った場合は、その分が補充されるといった具合です。OiTrはあくまで緊急対応のためのサービス。こうしたシステムにより闇雲に持ち去られる問題を防ぎ、本当に必要な人の手に届くような仕組みを作っています。
累計1000台突破 目指すはOiTrが「当たり前」になる社会
── どんな施設に設置されていますか?
飯崎さん:関東を中心に北海道から九州まで、17都道府県の商業施設やオフィス、大学、市役所などの公共施設に導入されています。設置されている施設は、当社のホームページから確認できます。今年2月には、サービス本格稼働から約半年間で累計導入1000台を突破しました。また、「POLA」と「東京建物」の2社は福利厚生として導入しており、最近は他の企業からの設置のご相談も増えています。
── 将来的な目標台数はいかがでしょうか?
飯崎さん:目標ですか?全国にどれだけトイレがあるのかわかりません(笑)。
現状ではOiTrが設置されていることに驚く人が多いと思います。でも、トイレットペーパーが置いてあることにびっくりする人はいませんよね。OiTrが付いていることが当たり前になる世の中になることを願っています。目標台数は永遠に増えていけばいいですね。
取材・文/荘司結有 写真提供/オイテル