個室トイレで生理用ナプキン(以下、ナプキン)を無料提供するサービス「OiTr(オイテル)」。全国各地の商業施設や公共施設、大学など88施設に1178台(2022年3月16日現在)が設置されています。最近増えてきた自治体や学校での無料配布とは一線を画しており、ナプキンの無料提供をビジネスとして成り立たせています。

 

なぜ、ナプキンを無料提供できているのでしょうか?サービスを展開するオイテル社の飯崎俊彦・専務取締役COO(最高執行責任者)に、その背景や企業が福利厚生として取り入れる際の導入例などを聞きました。

「アートフォーラムあざみ野」(神奈川)の女子トイレに貼られた「OiTr」のロゴマーク

無料ナプキンの原資はデジタルサイネージの広告料

── どのようにして、ナプキンの無料提供をビジネスとして成り立たせているのでしょうか?


飯崎さん:

ディスペンサー(Oitr)のデジタルサイネージで企業広告を流し、企業から広告費を受け取ることにより、無料でナプキンを提供しています。こうしたビジネスでは、機器を施設にリース、レンタルして、なおかつ消耗品代は導入施設に負担してもらうのが一般的です。コピー機はまさにそうですよね。

 

しかし、どれだけ社会的意義があろうとも、トイレットペーパーより単価の高いナプキンの費用を施設に負担してもらうのは簡単ではありません。そもそも、「個室トイレにトイレットペーパー同様にナプキンを常備し、無料で提供する」ということがこの事業の前提でした。

 

1000台を突破したことで、企業や広告代理店からの問い合わせも増えました。動画広告を放映することで、トイレの混雑を助長しないように、動画広告(無音声)は最大2分まで(15秒枠で最大8枠)にしています。OiTrで流す動画広告は女性を明確にターゲティングでき、大学であれば学生にフォーカスできるなど、建物によってはさらにターゲット層を絞ることも可能です。また、OiTrへの広告出稿は「ナプキンの無料提供に貢献する企業」として、企業の社会的価値の向上にもつながっています。

ディスペンサーのデジタルサイネージで企業広告を流すことで収益を得ている

── 「POLA」や「東京建物」のように、企業が福利厚生として取り入れる例も見られます。その際の費用負担はどのようになっているのでしょうか?


飯崎さん:

不特定多数が利用する商業施設や公共施設などでは機器のレンタル代をいただいていません。ただし、企業が従業員のご利用目的で設置導入している場合は、福利厚生サービスとしてレンタル代をいただいています。

 

ナプキンに関してはその他の施設と同様に広告費で賄うので、ナプキン自体は無料で提供しています。企業の場合は従業員の利用に限られているため、レンタル代はいただいています。なお、自社内で他企業の動画広告を放映できないケースもあります。そうした場合には、別のプランを提供させていただいています。

 

企業で働く女性たちは、机の中やポーチにナプキンを常備し、トイレに行くたびに周りを気にしている方が多いと聞きます。OiTrを設置いただくことで、働く女性たちの心理的な負担を減らせると私たちは思っています。当事者が気にする以上、いくら周囲が気にならないと言っても当事者の心理的な負担の軽減につながりません。大切なのは気にならない、心理的負担がかからない環境をつくることです。福利厚生として取り入れたいという相談も徐々に増えています。

「松坂屋 名古屋店」(愛知)の女子トイレの扉に貼られた「OiTr」のロゴマーク。全国各地のショッピングモールや公共施設に設置が広がっている

「生理の貧困」に関係なく使ってほしい

── 「生理の貧困」という言葉が話題になりましたね。ニーズはさらに高まっているのではないでしょうか?

 

飯崎さん:

まず説明させていただきたいのですが、生理の貧困とは、生理用品はもちろん、清潔な水や衛生環境、生物学と生殖に関する教育など、生理に最低限必要なものにアクセスできないことだと私たちはとらえています。しかし、残念ながら日本では生理の貧困を経済的な困窮により、生理用品が買えないという狭義な捉え方をされています。

 

OiTrは、そういった金銭的な貧困を解決するために開発されたサービスではなく、それ以前より開発を進めていました。

 

OiTrは女性たちの心や体の負担を軽減することを目的に開発されたサービスです。ところが、OiTrの実証テストを行なっている時期に、ちょうど生理の貧困が話題になりました。その際に、OiTrの実証テスト利用者アンケートで「必要だったので使わせていただきました。ただ、生理の貧困でない私が使ってよかったのか、と戸惑いを感じました」と寄せられたのです。

 

これは残念でした。OiTrは、生理の貧困(経済的な困窮)を解決するサービスとして開発したわけではありません。月経のある人が強いられるさまざまな負担を軽減し、生きやすい社会を創出できないかという思いから生まれました。トイレットペーパーや除菌シート、ベビーチェアスタンドのように「トイレにあるべきものの一つ(one in the restroom)」として、気兼ねなく使用して欲しいです。

女性が生きやすい社会をトイレから

── 今後、OiTrをさらに展開するにあたって、バージョンアップは予定されていますか?


飯崎さん:

スマートフォンを利用しなくてもOiTrを利用できるようにすることです。企画段階からもスマートフォンを持っていない人、持ち込めない施設があることは認識していました。しかし、ナプキンを必要とする人に行き届く環境をつくるには、第一優先としてナプキンを余分に持ち帰られないようにすることでした。そのためにナプキンの提供において管理が必要でした。

── これからさらに展開したいサービスはありますか?

 

飯崎さん:

現代の女性は昔に比べて出産の回数が減ったことで、生涯の月経回数が約450回(昔の5倍)に増え、月経のある期間が長くなっため、月経困難症や子宮内膜症などの病気が増えてきたと考えられています。OiTrの設置されたトイレが増えることで、これらの病気を防ぐことに役立つインフラとして成長できればと願っています。

 

また、OiTrがスマートフォンがなくても利用できるようになったら、小学校や中学生にトイレで月経や性に関する正しい知識を学べるようなコンテンツをデジタルサイネージで放映したいです。それらの実現のために必要なリソースを持っている企業にOiTrというインフラを活用いただき、少しでも女性が生きやすい社会をトイレから一緒に実現していきたいです。

取材に答えたオイテルCOOの飯崎俊彦さん

取材・文/荘司結有 写真提供/オイテル