仕事や子育てにと頑張っている親御さんに向けて、教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生が子育てに役立つ知識をアドバイス。今回は、「生き物嫌い」なお子さんへのサポートについてお話を伺いました。
【Q】動物や昆虫など生き物を受け入れられない娘。理科が心配…
小学2年生の女の子の母です。娘は、生き物が大の苦手。小さいころから犬の散歩をしている人がいると、大回りで避けて通るような子でした。3つ離れた兄は虫が大好きで、カブトムシ、ザリガニ、スズムシなど、いろいろと飼ってきたのですが、娘はそれらを「気持ち悪い」と言います。3年生になったら理科も始まるのに、大丈夫かなと不安です。
生活空間にないものを警戒するのは当然のこと
自然が失われ、都市化が進む今の時代、生き物を苦手だと感じる人が増えているようです。ちなみに私の妻も息子も動物や昆虫が大嫌いです。これは生物多様性やSDGs(持続可能な開発目標)の観点に立つといびつに思えますが、人間も本来動物ですから、生活空間に存在しないものを警戒するのは当然のことです。娘さんの反応も心配する必要はありません。
生き物が苦手な子どもを見ると、「命の大切さがわからないのでは?」「他人の心を気遣えないのでは?」と、とても心配する親御さんがいますが、生き物が苦手な子でも問題なく育ちますので安心してください。
むしろ、都会暮らしで昆虫が苦手な子に対して「虫なんかたいしたことないのに」などと言ったり、嫌いな生き物に無理やり触らせたりする大人のほうが心配です。自分の価値観を迷いなく人に押し付けるというのは、多様性の尊重から一番遠い態度ですからね(笑)そのような言動は、言葉の通じない海外にいきなり連れて行かれて「現地の人とちゃんと話してきなさい」と強制されるのと同じようなことであると、ご理解いただきたいものです。
生き物が好きでこうした強硬策に出てしまう方は、「命に触れることを拒否=まずい育ちをする」と思っているのかもしれません。しかし、そもそも命そのものに触れなくても、命を学ぶ方法はいろいろあります。
ご相談者の娘さんは、「警戒心が強い」とのことなので、きっと考えたり観察したりするのが好きなお子さんなのだと思います。また、言葉を学ぶことが得意だったり、因果関係がはっきりしている算数や科学を好む傾向がありませんか?そういった特性を踏まえてうまくサポートしてあげれば、生き物が嫌いであったとしても「対象を理解すること」はできるようになると思います。
わかる世界が広がれば、多様性を受け入れられる
具体的なサポートの仕方ですが、例えば、図書館や本屋に行って、お子さんにとって情報として理解できる本や図鑑を一緒に探して手渡してあげるのはいかがでしょうか。
昆虫が苦手であっても絵本『はらぺこあおむし』(エリック・カール作)ならセリフがあるので読める、あるいは『ファーブル昆虫記』(ジャン・アンリ・ファーブル)の読み聞かせなら大丈夫だという子は多いです。
図鑑は写真が怖くて開きたくないけど、線が少ないシンプルなイラストなら見ることができるという子もいます。生物の進化の道筋がわかる「系統樹」を見せたり、分類について教えたりしてあげるのも手です。
このように、お子さんが受け止めやすい形で、かつ情報として楽しめるようにして消化吸収させてあげれば、理科の勉強も心配ありません。
ただし、いきなりいろいろな素材を渡すようなショック療法はやめてください。理解したいという気持ちが押しつぶされて、拒絶反応を起こしてしまいます。
お子さんが受け取りやすい形・サイズで情報として触れさせてあげるようにサポートしていくと、「昆虫は嫌いだけど、胸に足が6本ついている生き物なんだよね」と頭でわかることはできるようになります。理解が広がっていくことで怖さが軽減され、年齢が上がるにつれて「触れないけど、見られる」状態になっていく子も多いです。
理解さえできれば、昆虫好きの人を否定するような子にはなりません。つまり、苦手な対象への対応は知性と理性によってカバーできますし、理解が広がれば心もちゃんと養われます。ですから、娘さんはこれからも昆虫嫌いで大丈夫ですよ。
知識を持っていると、多様性を受け入れられるようになります。私の息子も小さな虫を怖がりますが、「嫌いでもいいけど、知識を持とうね」と繰り返し言ってきました。ある対象が苦手、あるいは関心がないからといって知識を身に付けないでいると、共感が持てなくなり、自分が知らないものは無視や排除する思考になってしまうからです。
これからは多様性を認め合う時代です。好きにはなれなくても、頭での理解はできるよう、親がサポートしていきましょう。
PROFILE 小川大介さん
取材・構成/佐藤ちひろ