食べ残し

食べられる食品を、さまざまな理由で捨ててしまう「食品ロス」。今、国際的に問題になっているテーマです。

 

「もったいない」のはわかるけど、そこまで大問題なの…!? 食品ロスの削減に取り組むジャーナリストの井出留美さんにお話を聞きました。「日本の取り組みはまだまだ」というその理由とは…。

食品ロスのせいで学校が建てられない?

── そもそも、食品ロスとは何でしょう。

 

井出さん:

食べられるのに捨てられてしまう食品のことです。各家庭や飲食店の食べ残しのほか、店の売れ残り、工場での製造過程で捨てられるもの、運ぶ過程で捨てられるものも含みます。

 

── 最近、持続可能でよりよい世界を目指す国際的な目標、SDGs(Sustainable Development Goals)が話題になっています。食品ロスの削減は、そのSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲットのひとつにもなっていますね。食べ物を捨てることが道徳的によくないことはわかるのですが、なぜ、食品ロスが国際的に取り上げられるほどの問題になっているのでしょうか。

 

井出さん:

三つの観点からご説明します。一つは経済面、二つ目に環境面、三つ目が社会の面です。

 

まず経済面の問題は、廃棄される食品そのものだけではなく、そこにかけられた人件費や輸送費などすべてがムダになってしまうことです。

 

世界全体では年間2.6兆ドル、日本円にして280兆円分に相当します。

 

二つ目。環境面の問題は、食品ロスが温室効果ガスの排出につながっていることです。

 

温室効果ガスは人間の営みにより増えすぎ、それにより地球の温暖化は加速しているといわれています。

 

温室効果ガスの代表的なものは、二酸化炭素です。二酸化炭素は化石燃料の燃焼などにより発生するため、飛行機の排出する温室効果ガスに注目する声もよく聞きます。でも、世界資源研究所のデータによると、実は温室効果ガス全体における飛行機の排出量は1.4%にすぎません。

 

一方、廃棄された食料を燃やしたり、埋めたりすることで排出される温室効果ガスは、全体の8%。自動車が出す温室効果ガス量は10%ですから、それに匹敵します。しかも、生産、加工、輸送及び消費に関わる一連の食料システムで見れば全体の30%を超えています。

 

温暖化対策には食料システムが大きなウェイトを占めており、中でも食品ロスを減らすことは重要なのです。

 

三つ目の社会に与えるインパクトについてもお話しましょう。

 

チャールズ・ボリコさんという元FAO(国際連合食糧農業機関)駐日連絡事務所長は「世界で食品ロスによる経済的損失が2.6兆ドル。これを世界経済に注入していたら、あとどれくらいの学生が奨学金を得られていたのか。どれくらいの道路が建設できたか、学校が、病院が建てられたか」とおっしゃっていました。

 

食品ロスは多くの人から医療や福祉、教育のチャンスを奪っているというわけです。

MOTTAINAI精神はどこに…世界ワースト6位 日本の現状

── 日本で食品ロスはどのくらい発生しているのですか。

 

井出さん:

農林水産省と環境省によると、令和元年の食品ロスは570万トン。これは、東京都民1400万人が1年間に食べる量とほぼ同じです。

 

それから、国連WFP(世界食糧計画)が世界の食料に困っている人に寄付した食料が年間420万トンという数字もあります。世界の食料支援の1.4倍量を日本で捨てているというわけです。

 

── 食品ロスの1人あたりの量を計算すると、世界の中では多いほうなのでしょうか。

 

井出さん:

農林水産省によれば、日本の1人あたりの食品ロスは世界6位。そして温室効果ガスの排出量も5位です。恥ずかしい状況です。

 

── 世界から「MOTTAINAI」精神が注目されていたわりには食品ロスが多いのが現状なのですね。とはいえ「そんなに捨てているつもりはないのに」というのが読者の本音かもしれません。

企業と消費者両方の取り組みが必要

井出さん:

日本の食品ロスに関しては、家庭から出るものと事業系(飲食店、小売店、製造業など)とが、だいたい半々です。各家庭と産業界、両方の取り組みがまだまだ必要ということです。

 

家庭で食品の廃棄を減らすひとつの方法としては、「賞味期限への過度なこだわりをやめる」ことがあげられます。

 

「賞味期限」はおいしく食べられる期限、「消費期限」は安全に食べられる期限を示したものです。賞味期限と消費期限を混同して、まだ食べられるものを捨ててしてしまっている人も多いのではないでしょうか。

 

このことは消費者庁のホームページなどでも紹介されていますが、ご存じない消費者も多いように思います。すでに、賞味期限を理由にした廃棄を減らすため、3ヶ月以上ある賞味期限を月単位で表記するなど、業界側のルールは変わりつつあります。

 

家庭でも、加工食品などの「賞味期限」は切れたらすぐに食べられなくなるわけではないことを知っておきましょう。なお、生ものやお惣菜、弁当などの「消費期限」は、安全に食べるための目安ですから守るようにしましょう。

 

── ムダに捨てないよう努力している家庭にさらに改善の余地はありますか。

 

井出さん:

生ごみをできるだけ乾かして出すというのがひとつ。焼却場で濡れたものを燃やすのは余計なエネルギーやコストがかかりますから、水分を取り除くことは有効です。それによって、エネルギーやコスト、そして排出される二酸化炭素の量を減らすことができます。

 

ガーデニングをやっているご家庭なら、コンポスト(たい肥)にするのもいいですね。

 

乾燥させたり、コンポストにしたりするには、生ごみ処理機があると便利です。自治体によっては購入時に助成金が出ることもあるので調べてみてください。

 

食品ロスの重量をはかるのもおススメです。「はかるだけダイエット」と同じで、数値で見える化すると励みになって、がんばりが継続できますよ。

 

徳島県でこの方法を実験したところ、家庭の食品ロスが2週間で23%減ったそうです。私も2017年から今まで1100回ぐらい、生ごみ乾燥のビフォー・アフターをはかってきましたが、これまで累計290キロぐらい減らしてきました。はかっているうちに、食品ロスへの意識がどんどん高まっていくのがわかります。

 

── 290キロ...! 具体的な数字を知ると達成感がありますね。乾燥させる以外に、生ごみをムダにしない方法はありますか。

 

井出さん:

「ベジブロス」といって、スープの出汁にするのはどうでしょう。

 

キノコの石づき、野菜の皮などの食べない部分を冷凍しておいて、ある程度たまったら深鍋に移して水で1時間ぐらい煮出すんです。それをカレーやボルシチ、リゾットなどに使うとすごくおいしい。

 

そしてスープを出した搾りかすは、また乾かしてコンポストにしています。

 

便利な道具を使う、見える化してゲーム感覚にする、おいしく最後までいただく…など、自分にあった方法で食品ロスと向き合ってもらえれば嬉しいです。

 

 

温室効果ガスの8%に関わる食品ロス。未来の地球のために私たちができることは、無意識のうちに捨てている食品がないか見つめ直すこと。同時に、賞味期限への過度なこだわりも変えていく必要がありそうです。

 

PROFILE 井出留美(いで・るみ)

井出留美
食品ロス問題ジャーナリスト。株式会社office 3.11 代表取締役。3.11の食料支援で廃棄に衝撃を受け、office3.11を設立。食品ロス削減推進法成立に協力。著書に『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』『賞味期限のウソ』など多数。
取材・文/鷺島鈴香 イラスト/えなみかなお 参考/食品ロスの現状を知る|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html 食品ロスとは|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html