とにかく仕事の量が多くてしんどい。時短なのに結局残業、仕事を断れなくて家事や育児に支障をきたしている──。頑張りすぎてキャパオーバーになってしまっているあなたへ。
産業医・精神科医として活躍する井上智介先生に、仕事を増やしすぎないマインドと、上手な断り方と託し方を教えてもらいました。
仕事が増える原因は「完璧にやらなきゃ」の思い込み
仕事と家事、育児を同時に進めるのは、並大抵のことではありません。どれも完璧にやらなきゃ!と思うほど、結局やることが増えてパニックになってしまいますよね。
ここで多くの人がやりがちなのが、「時短テクニックを学ぼうとする」こと。もちろんそれも大事ですが、そもそもの仕事量が多い場合は、「何を手放し、何を諦めるかを判断する」ことが重要なのです。
しかしながら、誰かを頼ったり、断ったりして仕事量を減らすのが苦手という方も少なくありません。
性格でいうと、真面目で責任感が強いタイプが多く、他人に迷惑をかけてはいけない!という強い思いが原因にあります。
自分を犠牲にしてまで仕事を引き受けていては、いつか限界がきてしまいます。まずは、「すべて完璧にこなさなきゃ」という思い込みを捨てることから始めましょう。
共感力が高い人も仕事を抱えてしまいがち
共感力が高い人も、ついつい仕事を抱えてしまいがちだと言えます。
その場の空気を読み、相手の気持ちを推し量りすぎてしまうため、誰かにお願いしたり断ったりすることが苦手なタイプが多いからです。
「少しでも相手が嫌な表情をしたら、頼んだり断ったりできない」「相手を傷つけたくない」そんな罪悪感を抱いてしまう人もいるでしょう。
ですが、断るという行為をしない限り、仕事は増え続ける一方ですよね。
「周りに気を使って、自分ひとりでこなさなきゃいけない」という呪縛は捨て、相手を巻き込みながら調整していく力を身につけられるといいですね。
仕事のキャパオーバーを防ぐコミュニケーション術
度を超えた仕事量を抱えないためには、断ったりお願いしたりすることが必要です。
ただし、伝え方によっては、相手を不快にさせてしまう可能性もあるため、伝え方を意識しましょう。
円満に「断る」には感謝の言葉から
相手を不快にさせない断り方のステップは3つあります。
1.感謝の言葉から入る
2.明確な理由を伝えて断る
3.次はぜひ!という気持ちを伝える
まずは、相手に対する感謝の言葉から始め、「私に声をかけてくれてありがとう」「頼ってもらえて嬉しいです」といった一言を最初にしっかり伝えましょう。
次に、ただ「できない」と断るのではなく、「なぜ引き受けることができないか」の理由を伝えます。
たとえば、「今、抱えている案件が多くて」「時短勤務のため、1時間後には出なくてはいけないので」など、具体的に相手がイメージしやすい言葉を使うことがポイントです。
また、「今すぐは難しいので、再来週ならできますが、どうですか」など、いつならできるかを伝えて、相手に判断を委ねるのもいいですね。
慣れていない場合は、咄嗟に言葉が出ないこともあるかもしれません。その場合は、あらかじめテンプレートを用意しておくのもおすすめです。
「相談」からはじめて「お願い上手」になる
いま抱えている仕事量が多く、余裕がなくなってしまっている場合は、誰かにサポートをお願いするのも、自分を守るためのひとつの方法です。
とはいえ、いきなり仕事を託すのはハードルが高い、そう感じている人もいるのではないでしょうか。
そんなときは、「相談」からはじめてみましょう。第一声は、相手を尊重する言葉から伝えるのがポイントです。
「◯◯さん、今担当している仕事について折り入ってお話があります。お時間よろしいでしょうか?」
最初に名前を呼んで話しかけることで、「あなたに相談したい」ということが伝わります。小さなことですが、名前を入れるか入れないかで、印象が大きく変わるものです。
そして、結果がどうあろうと「話を聞くために、時間をいただいた」ことに対して感謝の気持ちを必ず添えましょう。
相手を立てて、感謝する。この2点を意識すれば、「お願い事」のハードルも下がるのではないでしょうか。
自分のタスクに優先順位をつけて、心と体を守ろう
仕事のために自分の心を削ってしまう…そんな悲しいことはありません。最終的に仕事が続けられないくらい疲弊しないためにも、うまく仕事を調整できるようになりましょう。
人のキャパシティは決まっていますし、仕事を多く抱えすぎることで、かえって効率が悪くなってしまうケースもあります。
そもそも仕事は、1人ではなく、チームで行っていくもの。
自分のタスクに優先順位をつけつつ、どうしても難しいときは、無理せず断わったり、誰かにお願いしたりする。そこに、罪悪感を抱く必要はまったくありません。
PROFILE 井上智介
取材・構成/水谷映美