共働き時代に合った生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
今回は、モバイルアクセサリーブランド「iFace(アイフェイス)」などのコマース事業や、プラットフォーム事業を手がけるHamee(ハミィ)株式会社(水島育大社長・神奈川県小田原市)の「小田原手当」を取り上げます。小田原周辺エリア2市8町に住む正社員を対象に、手当が支給される制度で、リモートワークが普及する中でも対面のコミュニケーションを大切にする同社のマインドを支えています。それだけでなく、若者の流出が課題となっている「小田原エリア」の活性化にもつながっています。人事広報部 石田直子さんに、詳しくお話を伺いました。
「リモート普及でも、集まって一体感を作りたい」から始まった小田原手当
── そもそも「小田原手当」とは、どのような制度なのでしょうか?
石田さん:
はい。小田原手当は、本社のある小田原周辺エリア(2市8町)に住む正社員を対象に、月2万円を支給する制度です。
当社はもともと「社員同士のつながり」や対面コミュニケーションを大切にしてきた会社。それこそが、ミッションの実現に影響すると考え、本社屋のデザインにもこだわり、社内イベントも活発に開催していました。
そんななか、新型コロナウイルスの影響で2020年2月頃から約9割の社員が在宅勤務になりました。
正直、直接顔を合わさなくても、業務自体は滞りなく進んでいました。ただ、同じ空間で仕事をしていればお互いの距離が縮まったり、ちょっとした会話でアイデアが浮かんだり…。「対面のコミュニケーション」だからこそ生まれるものがありますよね。そのプラスの効果を生み出す場所って、やっぱりオフィスだよね。それならたまには集まって、一体感を作ろう!という目的で小田原に住むことを支援するこの制度が誕生しました。
── 確かに、オンラインコミュニケーションは効率的ですが、大切な部分は伝わらない気がしますがいかがでしょうか。
石田さん:
そうなんです。今までは「会話」が当たり前でしたが、ちょっとした質問もネット上で伝えなければならない。テキストベースだと、捉え方が違ったり、微妙なニュアンスも伝わらなかったりするんです。あと、遠慮して意見や質問が言い出せない社員もいたりして。
また、廊下ですれ違った時に、他部署の人と雑談することもなくなり、仕事で関わる人以外の繋がりも希薄になってしまったんですよね。小田原手当があることで、リモートワーク中心でも、通勤可能地域に住む社員が増えています。そして、定期的に集まって話す機会を持てるようにしています。
自然に囲まれた、ちょうどいい田舎 「ライフ」を大切にできる小田原を強みに
── そもそもなぜ「小田原」なのでしょうか?
石田さん:
創業に遡ると、会長が小田原出身だった、ということになります。事業が拡大するにつれて東京進出も考えたようですが、小田原って素晴らしい場所なんです。「東京にオフィスがなくてもビジネスはできる!」ということで、そのまま本社を小田原に置いています。
ただ、やはり採用面では東京本社の会社と比較されてしまうと、弱い部分は否めませんでした。出社が大変ですからね(笑)。なので、逆に「小田原」を強みにしよう!と考えました。
ちょうどその頃、コロナ禍によって働く人たちのワーク・ライフ・バランスの考え方が変わってきたんです。リモートワークが普及し、都心ではなく地方に移住したいとか、「ワーク」より「ライフ」を重視する人が増えてきた。それもあと押しとなり、この制度が生まれました。
── 「小田原」を強みにされたんですね。その魅力について、詳しく教えてください。
石田さん:
小田原は、新幹線だと都内まで約30分、新横浜まで15分程度で到着します。ビジネス拠点までの距離は近いものの、山も海も川もあり、自然に囲まれた土地。お水も、食べ物も本当に美味しいんです。
家賃も、たとえば東京都港区で2LDKに住もうとすると平均36万円ほどかかるところ、小田原だと平均6.87万円!住みやすく、プライベートも充実できて、家賃や物価も安い。まさに「ちょうどいい田舎」ですね。
── 小田原手当によって「小田原市」にもポジティブな影響があるのでしょうか?
石田さん:
昨今、小田原市でも移住促進の取り組みを強化しており、そのイベントに当社の社員も数名登壇させていただいています。
「移住者」として、小田原の魅力や、移住してからどのように生活を楽しんでいるのかを発信しています。小田原の魅力を、若い方々に再発見いただく、力になれたらいいな…と思いますね。小田原手当を通じて地域創生につながればとも思っています。
また、社員の中で地域への愛着が生まれることで離職率も下がると考えています。
小田原に移住して「白髪が減りました!」の声も 社員の半数が対象に
── 「小田原手当」を導入した後の、社員の方々の反応はいかがでしたか?
石田さん:
「小田原手当」がきっかけで東京から移住してきた社員に話を聞いて、印象的だったのが「白髪が減りました」というコメントでした!20代後半の社員で以前は割と白髪が多かったそうですが、通勤などのストレスが減ったことでそれも減ったと(笑)。
当社は私服出勤なのですが、本当にラフな格好で出歩ける街なので「飾らなくていい」「自分らしくいられる」という声も聞かれます。他にも、生活にお金がかからなくなったので、お金が貯まったという社員もいます。
現在では、全社員の半分にあたる100名が小田原手当の対象となっています。
── 小田原手当によって、貴社が大切にされてきた「対面のコミュニケーション」も実現できているのでしょうか?
石田さん:
はい。コロナ禍でリモートワークになったとき、誰とも会わない、MTG以外で会話もしない、ずっとPCの画面を眺めている…という期間が長くなると「会社への帰属意識が下がる」という声が挙がりました。
そんななか「小田原手当」や、正社員の新幹線・特急電車・飛行機・船・高速バスでの通勤を可能(上限あり)にする制度「いざ!小田原」を利用して、出社しやすい環境が整いました。
基本はリモートワークでも、気持ちが下がった時に出社して仲間とコミュニケーションを取り、モチベーションをあげてまた仕事に取り組むなど、メリハリをつけて仕事をする社員も増えてきました!
今後も、たとえば国際結婚をした社員が、海外から出社できるなど、未知な世界に視野を広げ、社員の「ライフ」の部分に寄り添った制度を作っていきたいと思っています。
本社で談笑する社員のみなさん
取材・文/三神早耶 写真提供/Hamee株式会社