コロナ禍の昨今、「日々の癒やしにもなる」コケが人気!自宅で楽しむ苔テラリウムの認知度が高まり、近場でも気軽に楽しめる「コケ散策」も注目されています。今回は、2009年からブログや著書でコケの魅力を発信、全国各地を散策している藤井久子さんにコケの面白さ、気軽にできる「コケ散策」のポイントを伺いました。
ルーペを通して現れる身近な神秘的世界
—— 10年以上前にコケの魅力を知って以来、近場から遠方まで全国の様々なコケを観察することがご自身のライフワークになっているそうですが、藤井さんをそこまで夢中させたコケの面白さとは?
藤井さん:
コケをじっくり見てみると、その美しさや多様性を知ることができて、発見が多いんです。 コケは日本だけでも約1900種あると言われており、種類も豊富で、見ていて飽きないですね。
例えば、アブラゴケはガラス細工のように葉が透き通っていたり、蛇の鱗に似た模様があるジャゴケは怪しい魅力があったり…。
—— コケをルーペで覗いてみると、「自然のアート」ともいえるような緑の別世界が広がりますね。
藤井さん:
そうなんです。ふだん目にするコケもルーペで覗いてみると、一つひとつの形も美しくて、ずっと見ていられる奥深い魅力があるんです。
それと、コケは生える場所の選り好みがあるのも面白いところです。
住宅街の道路や田畑がある地域、低山や高山でも違います。全国各地、その場所に行かないと会えないコケがある一方で、自然の多い公園や街中のコンクリートなどの身近な場所にも生えているので、どこにいてもコケを発見できる喜びがあります。
—— 今でこそ苔テラリウムなどの人気で、コケを趣味として楽しむ方も増えていますが、藤井さんが2011年に著書『コケはともだち』を出された頃は、どんな反響があったんですか?
藤井さん:
初の著書を出したとき、実は「コケは気になっていたけど話題にするきっかけがなかった」「身近で話す機会がなかった」という声が多くて。本を出すたびに、コケが好きな人って多いんだなということを感じます。
実際、コケの観察会には、園児から80代の方まで幅広い年齢層の方がいらして、楽しまれていますね。
コケ観察で「モヤる気持ち」が消えていく
—— そんな老若男女が楽しまれている「コケ観察・散策」の良さやポイントを教えてください。
藤井さん:
まずしゃがみこんで、地面やブロック塀などに生えているコケをアップで見ると、コケの群落がだんだん森のように見えてくるんです。さらにルーペを使えば、小指の先にも満たないような小さなコケ1本1本が大木のように感じられます。まるで自分が小人になったような感覚です。
さらにコケの周りの自然もよりたくさん視界に入ってきて、ふだんは目に留まらなかった植物や生き物などの存在にも気づけて、面白い発見ができますよ。近所でもまったく違う場所のように見えてきます。
それと、コケを見ているときはすごく集中するので、日々のストレスもモヤモヤもなくなって気分転換にもなると思います。身近で観察できて、しかも大きな道具がいらない手軽さも「コケめぐり」のいいところですね。
—— コケはどんなところに生えているんですか?
藤井さん:
コケは植物なので、生きていくのに光と水が必要です。特に乾燥しがちな街中だと、石垣の隙間やマンホールのくぼみ、グレーチング(側溝などのふた)、街路樹の幹など、街で水が通っている場所や水が溜まりやすい場所でよく見かけます。
—— コケと草の違いは一見わかりにくいのですが、見分けるポイントはありますか?
藤井さん:
コケは花を咲かせず胞子で繁殖するので、コケと草(種子植物)を見分けるとしたら、胞子体(※主にコケの先端から伸びている壺のような部分。その中に胞子が詰まっている)が出ているかいないかで、判断できます。
—— 実際にコケ散策に出かける際に、必要なものはあるのでしょうか?
藤井さん:
コケという小さなものに、これだけの美しさや性能の神秘が詰まっている、その“ギャップ”が魅力の一つでもあります。私自身、コケに精通されている屋久島のガイドさんからルーペを借りてコケを見たのがハマったきっかけ。それからは、つねにルーペやデジカメを持ち歩いていますね。
—— ルーペが手元にない場合はどうしたらよいですか?
藤井さん:
最初は虫眼鏡でもいいと思いますし、ルーペ自体も100均ショップで売っていたりします。虫眼鏡だと2~3倍、ルーペだと10倍ぐらい拡大できますよ。スマホのカメラでも撮った後にアップで見られるので、まずはスマホ一台からでも大丈夫ですね。
あとは、水を入れた霧吹きがあると楽しいですよ。乾燥しているコケに吹きかけると、モコモコと形が戻るものもあるんです。
例えば、晴れの日が続くと、コケも乾いて葉がクシュクシュッと葉が巻いて縮こまったり、色が褪せたり、茶色くなったり。一見枯れているように見えるんですが、休眠しているだけ。水を与えると葉が開いて、また青々とした姿を見せてくれます。観察会では、よく寝ているコケを水で起こしていますね。
コケは見るだけでなく触っても楽しめる!
—— お子さんと一緒にコケ散策するときのアドバイスを教えてください。
藤井さん:
街中でコケを探すときは人や物や車に気をつけて、私有地に入らないようにすることですね。うずくまってコケをルーペで見始めると、たまに怪しまれたり、心配されたりするので、図鑑を持ったり、カメラで撮ったりなどして“怪しさ回避”をしています(笑)。
それと、やみくもにコケを採取することは厳禁です。特に山での採取は自然環境のバランスを崩してしまう危険性もあります。
—— コケは触ってもいいんですか?
藤井さん:
コケは柔らかくて葉も薄いので、指を切ることもありません。日本のコケには毒性はほぼないので、触っても炎症を起こしたり、胞子を吸い込んでお腹が痛くなったりすることもありません。
触ってみると、コケの種類によってカサカサ、モフモフ、フカフカ、シットリ…と感触が違うので、親子で触ったときの感想を言いあうもの楽しいですよ。お子さんはよく「これはフカフカゴケだね」「クッションゴケだね」とコケに名前を付けて遊んでいて、そのユニークな表現に親御さんが驚かれることも(笑)。
低地や高山の岩や崖、樹幹に生える「シダレヤスデゴケ」は、まねにかぶれることが報告されているので、注意しましょう。ただ、まず街中には生えていません。
注意するとしたら、コケには土や塵がついていたりしますので、口に入れないこと。そして、観察の後は手を洗ってくださいね。
—— もしコケを自宅でも楽しみたい場合は、どうしたらいいのでしょうか?
藤井さん:
コケは好まない環境には生えず、環境が変わるとすぐ枯れるのが特徴です。安全面の問題、生態系への懸念もあるので、自宅で楽しむ場合は、近所で取ってきたコケでテラリウムを作ったりしないこと。
まずは専門家が作った苔テラリウムを購入したり、ワークショップなどに参加して作ってみたりするのがおすすめです。虫やゴミのチェックもされているので、安心して楽しめるかと思います。また、自宅で育てる環境としては、直射日光の当たらない明るい場所に置くのがよいですね。
PROFILE 藤井久子さん
ライター、編集者。1978年、兵庫県生まれ。日本蘚苔類学会会員。20代に屋久島のコケに魅了され、以来ブログや著書等でコケの魅力を発信。最新著書は『コケ見っけ! 日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)。
取材・文/小松加奈 写真提供/藤井久子