男親が子どもを説教するイメージイラスト

文部科学省の問題行動・不登校調査によれば、2020年度に30日以上登校せず「不登校」とみなされた小中学生は、前年度より8.2%増の196127人。夫婦のなかには、登校や子どもに対しての価値観や接し方が違うことで、そこがまた苦しみを増しているケースもあるようです。 

エリート夫は長男の不登校にただ怒るだけ

「長男が学校に行くのを嫌がるようになりました。1か月ほど行かないときもあれば、週に2日行けるときもある。学校とも話し合っているのですが、いじめもないと。病院で検査もしましたが異状も見つからない。まだ10歳で、今が大事なときだとも思うんですよね」

 

そう話してくれたのは、ヤスコさん(42歳・仮名=以下同)です。長男は10歳、他に8歳の長女と5歳の次男がいます。次男には、発達障害の兆候があり目が離せない状態。だからこそ夫に、長男に寄り添ってほしいと思うのですが、夫は「仕事が忙しい」のを理由に向き合おうとしてくれません。

 

「夫は、いわゆるエリートタイプ。国立大学を卒業して、有名企業で着実に出世しています。だからこそ学校へ行けない息子の気持ちがわからない。『学校に行かないと、ろくな人間になれないぞ』と、怒るばかりで話を聞こうとしないんです」

 

ヤスコさんは、長男を転校させてもいいし、フリースクールなどへ通わせるのもいいと考えていますが、夫はひたすら「学校へ行け」の一点張り。長男は父親を恐れているようで、何か言われると体を硬くして黙り込んでしまいます。

 

「それでも先日は、一緒にフリースクールを見学に行ったんです。長男は手作業が好きなので、そこで見た木工細工に惹かれたみたい。自分もやってみたいと3時間近く、熱中していました。久しぶりにあの子の明るい顔を見たような気がします」

 

帰りながら、夫にフリースクールに行かせたいと話したところ、「そんなところへ行ってもしかたがない」と、大反対されました。 

義両親から言われた想像の斜め上を行く発言

そんなこともあってか、夫は自分の両親にグチ交じりに相談したようです。

 

「ある日突然、義両親が自宅にやってきて『私たちに預けてちょうだい』と言うんですよ。『私たちは息子(ヤスコさんの夫)を立派に育てたの。娘(夫の妹)も、今は大学で教えている。うちは学者やエリートばかり出しているのだから、孫が学校へ行けないなんて恥ずかしい』とまくしたてられました」

 

まるでヤスコさんが悪いと言わんばかりでした。長男に「おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に住む?」と聞くと、身をこわばらせて首を横に振りました。

 

「もう10歳だから本人の意志を尊重したいと言うと、その日はあきらめて帰りましたが、それ以来、3日を空けずに電話がかかってきます。夫も『環境を変えるのがいちばん。だいたいおまえが甘やかしすぎなんだ』と言うんです」

子どもの気持ちを汲んであげるのが親じゃないの?

夫婦が言い争っていると、長男は自分がいけないことをしている、とさらに追い込まれてしまいます。だから夫には大声を出さないようにヤスコさんは頼む始末。しかし夫は、「あいつにも聞かせてやればいいんだ。自分のせいで、どれだけ周りに迷惑をかけているか知ったほうがいい」と言います。

 

「冷たいんですよね。10歳の子が何を考えているのか、わかろうとしない。私はわかりたいし、子どもの望むようにしてあげたい。学校の勉強はいつか取り戻すこともできる。今、引きこもらずに、彼のしたいことをするのがいちばんいいと思うんです」

 

愛情をかけて育てたつもりでした。夫は甘やかしているといいますが、しつけはしたつもりだとヤスコさんは言います。それでも、子どもは思い通りには育たない。だったら子どもの意志を最大限、生かしてやりたいというのがヤスコさんの思いです。

 

「木工細工がやりたいなら飽きるまでやらせてみたい。その後、別のものに興味を持つかもしれない。決まりきった学校教育が合わないだけかもしれない。エリートになんてならなくていい。彼が幸せならそれでいいと私は思っています」

 

義両親は新年度に向けて、「早くうちに来るように」と催促してきます。夫もそのつもりですが、ヤスコさんは学校の担任と相談しながら、他の道を模索し続けるつもりです。

男親が子どもを説教するイメージイラスト
子どもに寄り添う母親のイメージイラスト
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。