人との会話のテンポについていけず、上手くしゃべれないと悩むことはないでしょうか。そんなときどうしたら良いでしょう。話し方教室を運営する西任暁子さんは、「まずは書いてみるといい」とおっしゃいます。
書くことから始める
── 相手と会話するときにテンポについていけず、話すことができないという相談を受けます。そんな時はどうしたら良いでしょうか。
西任さん:
おしゃべりは周りの人のスピードで進むため、言語化がゆっくりの人は、自分の言いたいことを考えているうちに話題が変わってしまうことがありますね。
そんな人は、文章を書くことをお勧めします。自分が今、何を感じているのか、何を考えているのかを、日記などに記してみてはいかがでしょうか。最初は言葉にするのに時間がかかったとしても、続けるうちに言語化が速くなっていくでしょう。
私自身、小学校の頃から日記を毎日書いていました。10年以上書き続けて、大学生になったある日、書く手の方が追いつかないと感じてから、自然に書かなくなりました。
会話中に次の質問を考えるのは、自分を信じていないから
── ついつい、話を聞きながら次は何を質問したら良いだろうと考えてしまいます。
西任さん:
それは、自分への信頼が解決してくれるかもしれません。
質問は、相手の話をよく聞いて、そのとき浮かんできた質問で良いと思います。そのとき、その会話に必要な質問が出てくると自分を信頼する。「こうでなければならない」と思う会話は、なかなか楽しめません。そのことで頭がいっぱいになりますから、相手の話を聞くのも難しいと思います。だから、結果として質問も浮かんでこなくなるという悪循環が起こりがちです。
── 大切なことですね。
西任さん:
長い期間、ラジオで聞き手をしてきた経験から思うことは、絶対に相手から聞かなければいけないことなんてあるのだろうか、ということです。
相手が今、言っていることを、心で感じて聞いていれば、次の質問はその瞬間に自然と出てきます。むしろ、「こんな質問をしなければ」と考えていると、そのことで頭がいっぱいになり、質問が浮かびにくくなるでしょう。
また準備した質問は、事前にひとりで考えたことですが、会話のときは、相手がいてくれます。相手の存在や表情、言葉などから感じるいろんなことは、自分ひとりでは思いつかなかった質問の可能性を広げてくれるでしょう。「この次は何を聞こうか」という考えで頭の空白を埋めてしまうのは、そんな化学反応が起こる可能性を失わせてしまっているとも言えます。とてももったいないですよね。
その瞬間にしか生まれない会話がある
── 勇気がいりますね。
西任さん:
そうですね。私もラジオDJを主にしていた当時は、生放送でしたから、話をある程度はまとめて終わらせないといけない、あんなことやこんなことをちゃんと聞かなければいけないと思っていました。今は、もっと自然の流れに任せていいと思っています。話が盛り上がって、聞く予定のことが聞けなかったとしても「ごめんなさい、もう終わりの時間です。また来てください」となれば、次に会えるきっかけになるかもしれません。
自分が作った、こうでなければいけないという枠組みに自分や話を閉じ込めてしまうことは、自分や会話の可能性を制限してしまうことにつながるのではないでしょうか。
── そうすると会話が楽しくないですよね。
西任さん:
楽しくないと思います。「やらなければ」になりますから。楽しいことは「やらなければ」から「こうしたい」に変わっていくことではないでしょうか。「こうしたい」の比率が高いほど楽しくなると思います。
── 緊張してしまうことも同じですか。
西任さん:
そうですね。「やらなければ」の割合が高くなるほど、緊張しますね。こんなふうにしゃべらなければいけないと思うから、緊張するわけです。間違えてもいいし、途中で止まってもいいという場ならきっと緊張しないと思います。
自分の力量を超えたことはできない
── 上手く会話を進めなければと思うから緊張するんですね。
西任さん:
誰しも、人前でいいところを見せたいと思いますからね。しかし、今の自分の力量を超えたことはできません。今の自分にできることしかできないんです。そういう意味では精一杯の準備をしたら、本番は良い意味であきらめて、自然に委ねてみる。インタビューでも普通の会話でも同じかなと思います。
自分をよく見せようと思っている自分を笑い飛ばせたら、あるがままの自分でできることをやるだけです。面白いことに、そういうときこそ自分の限界を超えた力が発揮されることがあります。自分を手放すと、自分を超える。これは話し方だけじゃなく、すベてにおいて言えることなのでしょうね。
PROFILE 西任暁子
取材・文/天野佳代子 写真提供/ニシトアキコ学校事務局