大学4年生のときに潰瘍性大腸炎を発症し、14年間引きこもりを経験した多田ゆかさん。病状が悪化したとき、自暴自棄になるどころか「むしろ開き直れた」と語ります。そして、ある出来事をきっかけに普通の生活を送れるまでに体調が回復。その背景には、いったいどんな理由があったのでしょうか。

病気の症状が悪化 大腸の全摘出を勧められ…

── 大学4年生で発症したということですが、就職はどうしたのですか?

 

多田さん:

就職はしませんでした。大学3年生のときに婚約していたんです。当時はまだ重い症状が出る前だったから卒業後に結婚したのですが、夫の実家がお寺で、門徒さんをはじめまわりに私よりも上の世代の方が多くて、「いい嫁でなければ」とプレッシャーを感じていました。

 

たくさんの方から見られているというストレスが大きかったのか、結果的には潰瘍性大腸炎の症状もどんどん悪化してしまって…。何か役に立ちたいと思っても、病気だから何もできなくて、自分には居場所がないと思い込んでいました。

 

── せっかく結婚しても、責任感から「何も役に立てない」と落ち込むことが続いて、同時に病気の症状も悪化していたんですね。

 

多田さん:

はい。今はお薬で寛解状態を維持しながら普通に生活できる人も多いようですが、当時はそれほど効果的な薬もなくて。症状も重かったので、「何もできない」というストレスもあって、症状が悪化していったように思います。

 

── その後はどうしたのでしょうか?

 

多田さん:

14年経った36歳のとき、医師から大腸の全摘出を勧められました。薬の許容量を越えると、腸壁が薄くなって破れてしまう可能性があるそうで…。

 

「大腸を摘出して、その代わりに便をためる袋を大腸につけてください」と言われました。大腸がんにも一般の人の10倍なりやすくなるからと。袋はお腹の外側につけるのですが、いきんで便を出すのではなく、勝手に便が出て袋にたまっていく状態になるそうです。

 

でも、医師のその言葉を聞いて吹っ切れました。自分自身が変わるきっかけになったんです。

 

多田ゆかさん

出血は身体からのSOSのサイン 心身と向き合って

── 吹っ切れたというのは、どういう意味でしょう?

 

多田さん:

私は、病気を告知されてからずっと「自分は、本当は何がしたいの?」という気持ちと向き合っていました。子どものころから両親の顔色をうかがうように勉強ばかりして、結婚してからもまわりの方の目を気にしていました。

 

髪の毛もいつも黒で、地味で目立たないような服装をあえてしていました。でも、私はもともとオシャレが好きだったんです。医師に手術を勧められたとき、「おなかに袋をつけたらオシャレなんてできない」と思いました。

 

袋をつけたまま一生過ごすことが死ぬまで続くと思うと、私にとっては死ぬことよりも苦しいと思いました。「どうせそんな辛い思いをするなら、これからは自分の好きなことだけをしよう」と決めたんです。

 

その後は、下血をしてひどい状態にもかかわらず、メイク講師の資格を取得するために新幹線に乗って行きました。下痢が怖いので、飲食を極力控えて。髪の毛も好きな色に染めて、自分が好きな服を着て。行動していくほどに気持ちが明るくなって、不思議と、病気もそこから1か月ほどくらいで症状が軽減していきました。

 

── 大腸の摘出手術はどうしたのですか?

 

多田さん:

下痢も出血も止まって、症状がなくなっていったので、摘出せずにすんだんです。その後、楽しいことを頑張りすぎて再発したときがありましたが、無理をしなければ寛解状態を保つことができるようにもなりました。今ではどこにでも出かけられるし、何でも食べています。

 

潰瘍性大腸炎を発症してから14年間、自宅から出られない生活をしていましたが、今振り返ると、気持ちの部分も大きいのかなと思っています。無理に良くなろうとしなくてもいいから、自分の好きなことに目を向けるのは大切だと思います。

 

多田ゆかさん

── お尻からの出血に気づいた方、また同じ病気で悩んでいる方に伝えたいことはありますか。

 

多田さん:

出血に気づいた方は、まず病院に行って、検査を受けてください。どうして出血するのかを知ることがいちばん大事だと思います。出血は、身体からのSOSのサインだと思うので、身体と心に向き合ってほしいです。病院で診断を受けて、治療を受けてほしい。

 

自分の心に対しては「自分は、本当は何をしたいのか?」と問いかけて、自分の身体をラクにする方法を見つけてあげてください。そうすると、私がそうだったように、もしかしたら良い方向へ物事が運ぶかもしれない。あきらめないでほしいと思います。

 

PROFILE 多田ゆかさん(Yutan

1978年生まれ 兵庫県出身。22歳のときに指定難病「潰瘍性大腸炎」を患い、14年間の闘病生活を送る。現在は、お寺生まれの廃棄ろうそくで創るサステナブルエコアート、絵本などを使って自分らしく豊かに生きる大切さを多くの人に伝えている。著書『自分を整え,暮らしを楽しむ9つのスイッチ』(みらいパブリッシング)

取材・文/高梨真紀 画像提供/多田ゆか  ※上記は、多田ゆかさん個人の経験談・感想です。