骨のイメージ

「骨について考えるのはシニアになってから」なんて思っていませんか?

 

「人生100年時代。いつまでも元気に自分らしく暮らしていくためには、早くから骨の健康を考えることが大切です」

 

そう語るのは、順天堂大学医学部附属練馬病院で、小児整形と骨代謝性疾患(骨粗鬆症など)を専門にしている坂本優子先生。

 

30代から考えたい骨の健康や、年齢や女性のライフステージごとに注意したい「骨量(骨密度)」の変遷について、聞きました。

高齢者の大腿骨骨折 5年生存率は50%

超高齢化社会を迎えた日本では、高齢者の大腿骨骨折の数は年々増加しています。多くが「骨粗鬆症」によるもので、骨折者数は2035年まで増加が続く見込みです。

 

骨折というと時間が経てば治ると思う人が多いですが、高齢者が大腿骨や背骨などを骨折すると、そういうわけにはいきません。

 

高齢者の骨折は、寝たきりになったり、歩くことができなくなったりするケースが多く、ときには命にも関わるケースもあります。

約10%の患者さんが骨折して1年で亡くなっているのに加え、5年生存率は約半分にものぼります。

 

今までは、骨折のリスクが高まるシニアになってから骨に向き合うことが一般的でした。でも、それでは間に合いません。

 

考えるべきは、骨が作られるもっと若い世代から。生まれてから成長期、さらには成人以降も、しっかり考えていくべき課題だと考えています。

骨量が増えるのは18歳まで その後は維持が重要に

自分自身や我が子、家族のためには、骨の健康をなるべく早い段階から意識する必要があります。

 

では、どのタイミングでどのように骨と向き合うのがよいのでしょうか。まずは骨の強さの指標である「骨量(骨密度)」の変遷からみていきましょう。

骨量がグッと増えるのは10代前半

骨量とは、骨の強さを示す指標のひとつです。小児から骨量は増えていき、男女ともに18〜20歳ごろにピークを迎えます。この時期、一生のうちで最も多い骨量を「ピークボーンマス(最大骨量)」と呼んでいます。

 

ピークボーンマスを迎えるのが「18歳」と聞くと、早いように感じる方もいるのではないでしょうか。

 

骨量がグッと増える年齢は、女児で13歳ごろ、男児で14歳ごろとされています。

 

子どもの頃の成長期は、体の成長と同様に、骨量も増えていきます。この時期は、骨量をしっかり「増やす」ことが非常に大切です。

18歳以降は骨量を減らさない努力が必要

18歳前後で骨量のピークを迎えた後は、維持をしながら年齢とともに推移していきます。

 

そして、男性は右肩下がりに徐々に、女性は閉経を迎える50歳ごろから急激に骨量が減っていきます。

 

そのため、ピークボーンマスが過ぎると、獲得した最大骨量をいかに「減らさない」ように「維持」をすることが重要になるのです。

骨量がピークを迎えると聞くと、その後は新しく骨が作られないように思うかもしれません。ですが、古くなって劣化した骨は、メンテナンスされて新しい骨へと生まれ変わっていく。

 

この骨の新陳代謝によって、古い骨を壊す働きと新しい骨を作る働きが、バランスよく繰り返されています。

 

栄養不足や運動不足といった、骨に悪い生活を続けてしまうのは禁物です。せっかく貯めた骨量が減ってしまいますので注意しましょう。

女性は「ライフステージ」によるホルモンの影響も

女性の場合は、女性ホルモンが骨の強さ(骨量・骨密度)に関係しています。

 

代表的なのは女性ホルモンの「エストロゲン」。骨からカルシウムを溶け出すのを抑え、骨の形成を促す働きがあります。

 

このエストロゲンは、産後の授乳期や閉経を迎えると分泌量が減るので、骨がもろくなりやすいのです。

 

特に注意が必要なのは、50歳前後で迎える閉経です。骨量がガクッと減少し、骨粗鬆症を発症するリスクが高まります。

骨の健康は“シニア”だけの課題ではない

ピークボーンマスを迎える18〜20歳ごろまでは、体の成長に合わせてどれだけ骨量を増やせるかどうかがカギとなります。

 

そして、ピークボーンマス以降は、骨量の維持に向き合う時期へと突入。骨量の維持には食事や運動量などの生活習慣が関係するため、一人ひとり自分自身の生活を見直す必要があるのです。

 

私が特に懸念しているのは現代の子どもたち。骨折数も増えているのに加え、骨密度を測定すると、以前よりも低下していることが明らかになっています。

 

要因としては、以前に比べて運動量が減ったことや、成長に必要な栄養素をきちんと摂れていないことなどが挙げられるのではないかと思っています。

 

そう考えると、大人だけでなく、子どもたちの骨の成長のことも考えていかねばなりません。

 

特に30〜40代の女性は、自分の健康はもちろん、親の骨の健康を考える場面に直面したり、妊娠や出産、子育てが始まったりと、さまざまな立場になり得る時期ではないでしょうか。

 

将来の骨粗鬆症のリスクに備えるとともに、ライフステージによる骨量の変遷を理解し、まずは今の自分の骨に向き合っていきましょう。

 

PROFILE 坂本優子

群馬大医学部卒業。順天堂大附属練馬病院 准教授。日本で初めて設立された小児・AYA世代ボーンヘルスケアセンター長を務める他「チームボーン」として骨の健康を啓発。専門は小児整形外科、骨代謝。

取材・構成/CHANTO WEB編集部