コロナをきっかけに、企業の採用説明会や面接のオンライン化が加速しています。そんな情勢のなか、IT企業・エイチームでは、2018年という早い段階からオンライン採用への取り組みをスタート。会社説明会を真っ先に廃止し、社風や仕事内容をオンラインでも丁寧に伝える動画配信の取り組みを行ってきました。詳細を人事部 採用グループの小笠原安里子さんと社長室 コーポレートPRグループの安藤春香さんに伺います。
企業説明会を動画に切り替え地方在住者の情報格差を解消
── エイチームでは、コロナ禍以前からオンライン採用に力を入れてきました。対面からオンラインに切り替えたのが2018年とのことですが、きっかけとなる出来事があったのでしょうか?
小笠原さん:
2018年以前も、遠方にお住まいの応募者にはスカイプを通してのWEB面接を行ってきましたが、会社説明会は対面イベントだったため、特に地方にお住まいの応募者にとっての負担は大きく、参加した方と参加できなかった方との情報格差が生まれていたように感じています。
2019年卒採用より、事業の成長を加速させることを目的に、これまで数十人規模だった新卒採用人数を百人規模に増やすことに。このタイミングでオンライン採用を始動させようということになり、人事部が中心となってプロジェクトを進めました。大きな変化としては「会社説明会を廃止」したことです。
── 会社説明会は、社風や仕事内容を知ってもらうための就職活動の窓口のような役割かと思います。これに代わるものを新たに導入されたのですか?
安藤さん:
事業概要を伝えるための「企業紹介動画」を作成しました。15分ほどの動画には会社の成り立ちと事業内容、代表取締役社長の林からのメッセージや社員インタビューも含まれています。さらに、エンジニア、デザイナー、プログラマーなど、各職種の働き方を伝えるための「職種別動画」を外部の制作会社協力のもと、作成しました。
これらは、「会社の風土」を伝えるツールとして残したかったので、動画を見た候補者にどんなメッセージを伝えたいか、どんなアクションを起こしてもらいたいかを明確に固めながら、数か月がかりでしっかりと作り込んでいきました。
小笠原さん:
採用に関わる動画は2019年卒採用を皮切りに、現在まで段階的に増えていっています。今では、社員のインタビュー動画や、新規事業を経営陣に提案するビジネスコンテスト「A+」、社内外のエンジニア向けの勉強会「ENGINEER LT」など、9本の動画があります。
── さまざまな視点からの動画作成を行うことで、会社の雰囲気と仕事の様子を伝えているのですね。採用に関する動画はどのタイミングで応募者に配信したのでしょうか。
小笠原さん:
動画をお渡しするタイミングは明確には決めませんでした。会社HPや、採用担当者のメールの署名欄にURLをつけて展開していました。応募者側も自身の就職活動に必要と感じたコンテンツを、各自好きなタイミングで視聴したのではないでしょうか。
── 視聴する動画や見る時間を選べるという部分も、応募者の負担軽減に繋がりますね。会社説明会を廃止して、動画配信に切り替えたときの社内の反応はいかがでしたか?
小笠原さん:
WEBサービスや各種ツールに慣れている社員が多かったということで、採用のオンライン化や動画配信に関しての抵抗感は、経営陣を含め、社内にはありませんでした。
コロナの影響を受ける以前のオンライン化だったため、「変えざるを得ない」という切迫した状況ではなかったこと、弊社がIT企業であったということもあり、社内の理解度も高く協力的な体制を築けたことで、スムーズにオンラインに移行できたように感じています。
── 面接に関しても2019年卒採用から、一斉にオンライン化したのですか?
小笠原さん:
当時は、オンラインでの面接を推進していましたが、「実際に会社を見てみたい」という応募者も一定数いましたし、「直接応募者と会って人柄を感じたい」という社内側の意見もあったので、一次面接や面談はオンラインで行い、最終面接のみ、希望を取ってオンランインか対面か選べるようにしていました。
2020年以降、緊急事態宣言発令中はすベてオンラインで行っています。
── オンラインによる面接で、雰囲気作りなど、工夫された点はありますか?
小笠原さん:
私自身も面接官として入ることがありますが、対面での面接よりも、最初のアイスブレイクの部分に時間をかけたり、笑顔や声のトーンを意識するなど、応募者の緊張が解れるような雰囲気作りに努めています。また、相手と共鳴するように頷くなど、相手の反応に合わせた対応を心がけています。
── オンライン採用は、応募者からどのような感想があがっていますか?
小笠原さん:
入社後の新入社員を対象に、オンライン採用についてのアンケート調査を行いましたが、「オンラインでの不具合は感じなかった」「大きなギャップは感じなかった」という声がほとんどで、効果的に会社の風土や働き方が伝えられたかなと実感しています。
「人事任せではうまくいかない」オンライン採用成功の秘訣
── 会社説明会や面接以外に、採用に関してオンライン化したものはありますか?
小笠原さん:
就職活動を始める学生に向けて、よりリアルに「働く」をイメージしてもらうために企画した「A-LIVE」というイベントも、当初は対面型で開催していましたが、2020年以降はオンライン化しています。
「A-LIVE」は、現場で働く社員目線での仕事説明や、内定者への就活相談、バーチャルオフィスツアーなどが企画され、人事担当者が行う形式的な説明会とはひと味違った、現場のリアリティが伝わる内容で構成されています。
安藤さん:
オンライン開催後のアンケートでは、「たくさんの社員が出演されたことで、働くイメージが鮮明になった」「仕事への理解が深まった」「県外在住なので、WEBでの開催はありがたかった」などの声をいただきました。
他にも、「途中でアンケートを取ったり、質問を“いいね”の数に沿って答えてもらえるのがとても良かった」「興味のあるコンテンツの時間だけ視聴できるので、学生に寄り添った説明会になっていて視聴しやすかった」など、オンラインならではの感想も届いています。
── 社員さんの声や働く様子を直接見る機会は、入社後のミスマッチの軽減にもつながりそうですね。このような採用活動のオンライン化は、応募者の負担だけでなく、社員の皆さんの負担軽減にもつながっているのでしょうか?
安藤さん:
そうですね。説明会も面接も、「A-LIVE」などのイベントも、場所を選ばず開催できるため、移動時間や、会場の確保という負担が大きく軽減されました。動画作成には時間もコストもかかりますが、それ以上のメリットを感じています。
── オンライン採用の課題やデメリットはどのようなところに感じていますか?
小笠原さん:
デメリットは特に感じていませんが、「一度世に出したものを更新し続けなければいけない」ということが注意点でしょうか。採用動画も複数作っていますが、情報のアップデートの管理運用が求められます。
── オンライン採用が始まって4年目となりますが、スムーズにオンライン化に移行できた秘訣はどのようなところにあったと感じますか?
小笠原さん:
選考に携わる社員間で求める人物像をしっかり浸透させたことと、「A-LIVE」のように採用を人事に任せきりにするのではなく、自分たちも一緒にやっていくというスタンスで意識の共有ができていたことではないでしょうか。
安藤さん:
目的に到達するまでの過程は、なんとかなるもの。「なんのために採用するのか」「採用することで会社がどうなりたいのか」という目指す目標やゴールが、経営陣と社員が共有できていたからこそ、違和感なくオンライン切り替えられたのだと思います。
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対面でなくても、動画やオンラインイベントの開催などで、会社と仕事内容が十分に応募者に伝わるということがわかりました。動画配信による会社説明や、会社への訪問が不要となるWEB面接、社員の働く様子がわかるライブイベント…これまでの対面型の採用から180度変わったオンライン採用ですが、応募者も会社側も、大きなギャップや不具合を感じなかったのは、効果的な動画作成だけでなく、経営陣、人事部、現場社員が一丸となって採用活動に向き合ったからに違いありません。
取材・執筆/佐藤有香