「はてなブログ」や「はてなブックマーク」などのWebサービスを運営する株式会社はてな。「自転車通勤手当」を経て「在宅勤務手当」を打ち出した「フレキシブルワークスタイル制度」を推進し、従来の通勤方法や場所にとらわれない、自由な働き方を目指した環境づくりを進めています。

 

その取り組みのきっかけや現状について、取締役コーポレート本部長の田中慎樹(たなか みつき)さんにお聞きしました。

はてな 取締役コーポレート本部長 田中慎樹さん
株式会社はてな取締役コーポレート本部長の田中慎樹さん。1974年福岡県生まれ。京都大学卒業後、アンダーセンコンサルティング株式会社(現:アクセンチュア株式会社)を経て、2004年、株式会社はてな入社。コーポレート部門では、人事・総務・経理・経営企画・広報を管轄している。

2万円支給の「自転車通勤制度」からスタート 

── はてなでは、多様な働き方に対応した制度を作ってきたそうですね。これまでに行った取り組みについて教えてください。

 

田中さん(はてな):

通勤に関する特徴的なものとしては、2005年から「自転車通勤制度」として、自転車通勤の社員に対して月2万円の手当を支給していました。

 

創業者が自転車好きだったんです。また、すぐ出社できるよう近くの自宅から自転車で通うスタッフが多かったこともあり、制度が社内で浸透するまでも時間はかかりませんでした。2008年からは京都と東京の各オフィスから徒歩圏内に専用駐輪場を確保するなど、本格的に制度を整備していきました。

はてな 自転車通勤する社員の様子

── 当初は自転車通勤に絞っていましたが、会社が成長し、従業員が増えることで変化はあったのでしょうか?

 

田中さん(はてな):

はい。2012年には、「自転車通勤制度」を「近距離通勤制度」に変更しました。自転車通勤だけでなく、徒歩や公共の交通機関などで通勤する社員にも活用できるようにしたのです。

 

自転車通勤は「自転車通勤の推奨」へと形を変え、公共交通機関を利用するしないにかかわらず、京都オフィス、東京オフィスそれぞれから半径5キロ圏内に住む社員へ近距離通勤手当として月2万円を支給していました。

 

202011月からは、新しく「フレキシブルワークスタイル制度」を始めました。社会情勢の変化やスタッフの働きやすさに合わせた「フレキシブルワーク」を実現するのが目的です。

アルバイトや派遣社員も在宅勤務を選択できるように

── 「フレキシブルワークスタイル制度」の内容について具体的に教えてください。

 

田中さん(はてな):

新型コロナウイルス感染症の影響が社会に広がるなか、はてなでは20202月以降、在宅勤務一時金や備品の在宅利用サポートなど、在宅勤務の全社導入に関連した取り組みを行ってきました。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」は、これまでの制度などを取り入れながら、2020111日から20221031日までの2年間で、オフィス出社を前提としない働きやすさを実現するためのものです。現在も、随時福利厚生の見直しを進めています。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」の導入に伴い、オフィスの近くに住む社員に支給していた「近距離通勤手当」はなくしました。その代わり、社員一律に「在宅勤務手当」として月2万円を支給するようにしました。

 

また、オフィス出社の上限を拠点や本部ごとに割り当てました。全社出社上限は37%で、上限に達しない限りは、正社員から契約社員、アルバイト、派遣社員まですべてのスタッフがオフィス勤務か在宅勤務かを選べるのも特長のひとつです。 

はてな 社内の様子

── 一部の社員だけでなく、従業員すべてが自分で働き方を選べるのですね。

 

田中さん(はてな):

そうです。全従業員の在宅勤務が可能になって以降、「場所という制約からの解放に挑戦する」「オフィスの価値を再発見する」という価値観をベースに、さまざまな働き方への取り組みを進めてきました。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」は、それらを取り入れながら制度化したものですが、リモートワークは一部の社員がすでに行っていましたが、全社に展開するために、ガイドラインなどの調整を進めました。制度の検討時には社内アンケートを行い、社員の声を反映しながら役員で制度内容を整えていきました。

 

── 「フレキシブルワークスタイル制度」を社内に広めるにあたって、何か課題になったことはありますか?

 

田中さん(はてな):

これまでは京都と東京のオフィススタッフが集まって、みんなで一緒にランチを食べたり、チームでものづくりに取り組んだり、コミュニケーションを大切にしながら一人ひとりが同じ場で成長することを大切にしてきました。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」は、出社を前提としない取り組みのため、これから会社への愛着などにどんな影響が生じるかは正直予測できない面もあります。

 

たとえ出社しない日が続いても、オンラインで豊かなコミュニケーションが実現できるように、必要に応じて考えを共有できる場をつくるなど、スタッフの働きやすさを確かめながら、柔軟に乗り越えていけたらと思っています。

小規模な企業だからこそ従業員のアイデアを試す土壌が醸成されている 

── 新しい働き方を従業員全員で模索しているのですね。

 

田中さん(はてな):

そうなんです。ただ、従業員数200人以下の規模なので、いろいろと試しやすい環境だと思っています。良いアイデアやスタッフからのニーズなどがあればまずは試して、改善していくというプロセスを大切にしています。

 

また、厳密で細かすぎるルールを作るとスタッフにとってわかりにくく、ニーズに合わないケースも多く発生してしまうこともあると思います。ある程度おおまかなルール設定にして、実際に制度をスタートさせた後に予想しなかったトラブルが起きていないか、定期的に確認しています。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」については、20216月に社内アンケートを取ったのですが、在宅勤務に一定の満足度があることがわかりました。

はてな 社内の様子

── 今後も必要に応じて制度をアップデートしていく予定でしょうか。

 

田中さん(はてな):

そうですね。はてなのミッションは、「『知る』『つながる』『表現する』で新しい体験を提供し、人の生活を豊かにする」です。また、「事業成長と働きやすさを高次元でバランスさせ、働きがいのある会社を目指す」というミッションもあります。

 

オフィス活用や場所という制約から解放されたコミュニケーションのあり方について、今後もスタッフの声をしっかり拾いつつ、さまざまな取り組みで働きやすさを追求していきたいです。

 

 

「自転車通勤制度」から始まった、通勤方法や働く場所にとらわれない職場環境づくり。会社の成長や社会の変化とともに人事制度を見直すその背景には、スタッフの働きやすさが実現することで事業も成長するという想いがありました。

 

「フレキシブルワークスタイル制度」が始まってもうすぐ1年。社内にどんな変化が生まれていくか楽しみです。

【会社概要】
社名:株式会社はてな
設立年月: 2001年7月
業種: 情報・通信業
事業内容: インターネット関連事業

取材・文/高梨真紀 画像提供/はてな