経営支援事業や環境衛生事業を展開する株式会社 武蔵野。勉強会などに参加すると5万円分の旅行券を支給する「100回帳」や1年間で最大20万円支給される「禁煙手当」など、ユニークな制度を行っています。
このような取り組みがなぜ始まったのか、総務部部長の小田島圭佑さんと代表取締役社長の小山昇さんに話を伺いました。
勉強会のほか、選挙や地域のゴミ拾いも評価対象に
── 「100回帳」という制度の特長を教えてください。
小田島さん(武蔵野):
社内の勉強会のほか、選挙、地域イベントのお手伝い、地域のゴミ拾いなど自身の成長につながる行動を起こすと、1回につき1つ、それを評価する押印がもらえる取り組みです。一枚の用紙に両面で100個押印できるようになっていて、50個たまると2万5000円分の旅行券がもらえます。両面の100個で計5万円分の旅行券を支給しています。
1989年に代表取締役に現代表である小山 昇が就任したのですが、就任と同時に早朝勉強会が行われるようになりました。早朝勉強会では、従業員に向けて社長自ら会社の方針を解説します。そうした取り組みをきっかけに「どんなことでもいいから、仕事や社会に対して貢献できることを自発的に行ってほしい」という思いで「100回帳」がスタートしたんです。
── 目標まで近づくのがひと目でわかるんですね。知識や経験を得ることに違った楽しみを見出せそうですし、どんなことで地域の役に立てるか、気づくきっかけにもなりそうです。
小田島さん(武蔵野):
そうなんです。あといくつ貯まれば旅行券が支給されるかがひと目でわかるので、勉強会や地域活動にみずから参加する動機にもつながっているようです。社員は、「しなければならない」ではなく、楽しみながら経験を積んでいるように思います。
また、支給された旅行券は換金することもでき、大半の社員が現金にしています。家庭ではパートナーに財布を握られている社員もこのときだけは自分へのご褒美として受け取るなど、仕事へのモチベーションアップにもなっているようです。
上司は、そのお金で部下を食事に誘うなど、社内コミュニケーションを図るきっかけになっています。「100回帳」で支給された旅行券を両親にプレゼントして喜ばれたという社員もいます。
1年間で最大20万円支給の「禁煙手当」
── 「禁煙手当」もユニークな制度ですね。どんな理由で始まったのでしょうか。
小田島さん(武蔵野):
代表の小山に、「社員の健康維持を最優先にしたい」という想いがあり、社内でも健康を考えるきっかけになるよう、2000年頃にスタートしました。勤続年数によって支給率は異なりますが、入社5年目以上は半期で最大10万円、1年間では最大20万円支給されます。
── 1年間で最大20万円とは!禁煙への強い意気込みを感じます。条件はあるのでしょうか?
小田島さん(武蔵野):
はい。社内だけではなく、自宅を含めて完全に禁煙することをルールとしています。徹底化するために、一時期は自宅でも禁煙しているかどうかを確認する「唾液検査キット」を使っていたことも。
── 「禁煙手当」の効果はいかがですか?
小田島さん(武蔵野):
手当が支給されることで自身の健康を前向きに考えられるようになったという声が聞かれます。
実は仕事にも良い影響を与えているんですよ。喫煙中は業務の手が止まる場合も多いと思いますが、社内の禁煙が進んだことで、業務がこれまでよりも効率的に進んでいるように感じます。
2020年には、これまでの実績が認められて、健康経営の取り組みを実践する企業に与えられる、経済産業省の健康経営優良法人にも認定されました。
社員も巻き込んで作る「経営計画書」をもとにルールづくり
── そのほかにもユニークな手当てがあるそうですね。
小田島さん(武蔵野):
はい。勤務10年以上の社員には、自宅購入時に最大100万円を支給しています。支給額は役職や直近の評価によって変わるのですが、自宅を購入したいという社員に、より事業に貢献したいと前向きに実績を積んでもらうために始まりました。高い目標を持ってみずから新しい仕事を開拓していくなど、社員のやりがいにつなげられたらと思っています。
── 小山社長にお聞きします。なぜ、武蔵野では人事制度を充実させているのでしょうか。
小山さん(武蔵野):
社員に武蔵野で長く働いてもらうためです。また、お客さまに喜んでいただけるサービスを作るためには、まず社員が働く環境に満足していることがとても大事です。そのため、会社の資本は優先的に職場環境づくりに投資しています。これまで社員が何年も安心して働ける職場環境にこだわってきた甲斐あって、武蔵野には10年以上勤続の社員がたくさんいます。
また、社員が家庭をもち、家族としっかり信頼関係を築くために、給与面など待遇の良さや、一人ひとりの夢を叶えるチャンスを設けることを大切にしています。「武蔵野で働いていてよかった」と一人でも多くの社員に思ってもらえるように、一つひとつの取り組みを充実させています。
── こうした制度を策定する際に意識していることはありますか?
小田島さん(武蔵野):
“後出しジャンケン”をしないことです。武蔵野では、会社の経営方針や事業計画を決める際には、代表や役員だけでなく課長職以上の社員で「経営計画書」を作成し、どんな方向性で進めばいいのかなど、方針や課題を共有して業務を進めています。
制度の新しいルールをつくる際も必ず、「経営計画書」の方針に基づき、経営計画発表会で全社員に発表しています。その後でルールをつくってしまうと社員の不満につながってしまいますから。ひと目で確認できる文字で記録することで、制度が浸透し会社の文化となると思っています。
── 手当のほかに、何か課題に向けて取り組んでいることはありますか?
小田島さん(武蔵野):
会社が成長し、従業員も約800名と増加傾向にあります。もともと、個人のスキルアップのため多くの経験を積ませたいという想いから異動が多いのですが、最近は特にコロナ禍で社内でのコミュニケーション不足を感じています。
新卒社員が増えていることもあり、「若い世代が夢とやりがいを持ってもらえるような職場環境」を実現できるように取り組みを進めたいと思っています。社員が自分の想いや考えを言葉にして、自ら行動を起こせるような雰囲気づくりも力を入れたいです。
お互いの気持ちを理解し合えるように、細やかなコミュニケーションを続けることはもちろん、「今の仕事や職場環境をもっと良くしたい」「この状況をより良い方向へ変えたい」と自発的に動いてもらえるような職場環境を目指して、いろいろな制度を活かしながら取り組みを進めたいと思っています。
…
ユニークな手当てや取り組みで、社員のやりがいや仕事の効率化につなげている武蔵野。社員全員が楽しみながら参加できる工夫により、長く継続されています。今後は、コミュニケーションの充実化を目的に、社員のモチベーションを図る制度が新しく生まれるかもしれません。どんな工夫が凝らされるか、楽しみです。
【会社概要】
社名: 株式会社 武蔵野
設立年:1964年 (創業1956年)
業種: サービス業
事業内容: 経営コンサルティング事業、環境衛生事業
取材・文/高梨真紀 画像提供/株式会社 武蔵野