動物の画像と義母

多人数で暮らしてみると意外と洒落にならないのが、テレビのチャンネル争いです。

 

とくに我が家は夕食時にテレビをつけるのが習慣となっており、かなり熾烈な争いが繰り広げられていました。

観たい番組が違いすぎる三世代

同居を始めた当初、我が家にはテレビが一台しかありませんでした。

 

義父は大のプロ野球ファンで、野球中継の間は絶対にテレビの前から動きません。義母はドラマや動物ドキュメンタリーが好き。当時まだ幼かった子どもたちは、Eテレや民放バラエティ番組を観たがります。

 

そんなわけで子どもたちが小学生のころまでの我が家は、とくに家族が集まる夕食時、絵にかいたようなチャンネル争いがよく勃発していました。

 

野球中継はつまらないとごねる子どもたち、不機嫌になる義父、時間になると勝手にドラマにチャンネルを切り替える自由な義母…。

 

私自身は本当は音楽番組が観たかったのですが、すでに争いが起きているところにあえて参戦するのもな…と、いつも言い出せずにいました。誰か録画して後で観ればいいのに、とも話し合うのですが、みんな(私も含め)、録画してまでは観たくない!リアルタイムで観たい!というのです。妙なこだわりだけは似通っている家族です。

 

あまりにもめごとが多いので、ついに義父母の自室にもテレビを設置することになりました。

 

これでチャンネル争いも少しはマシに…そう思ったのもつかの間。お茶の間に平和が訪れるどころか、さらに困った事態が起こるようになったのです。

義母の視聴スタイルが自由すぎる

居間で義父や私たち親子がテレビを観ていると、自室で別の番組を観ていた義母が、非常にしばしば、

 

「ねえちょっと今(義母が観ていた他のチャンネル)ですごく可愛いわんちゃんが映ってるの!観て!」

 

などと言いながら居間にやってきて、とめる間もなく勝手にチャンネルを変えるのです。

 

当然、それまで居間のテレビを観ていた家族は怒ります。しかしそんな怒りもマイペースな義母にはどこ吹く風。

 

「いいからちょっと!すぐ終わるから!かわいいんだから!」

 

と、みずからの推し動物(なぜかほとんどの場合、義母の推しはかわいい動物のシーンです)が登場するところを押し売り…押し観せ?させては、満足気に去っていくのです。

 

後に残されるのは微妙にもやもやした気持ちを抱えた家族です。なぜこんな仕打ちを受けなければならないのか。可愛い動物は決して嫌いではないが、しかし。

 

テレビが一台増えたことで、さらなるトラブルが増えるとは…義母の押しの強さが全くの予想外でした。

子どもの成長により減ったチャンネル争い

そんな我が家でしたが、子どもたちが大きくなるにつれ、チャンネル争いも次第に発生頻度が少なくなりました。

 

子どもたちが精神的に成長し、人に譲ることを覚えたおかげ…と言いたいところですが、実情は違います。

 

思春期になるにしたがって、子どもたちはテレビ番組への興味をどんどん失っていき、ゲームやYouTubeなどの好みの配信者の動画、音楽配信などにのめり込むようになっていったのです。

 

インターネットに接続できるゲーム機やスマホを一人一台手にした子どもたちは、もはや自分のペースで観ることのできないテレビ番組にはさほど興味はありません。

 

夕食時だけは義父の観たい野球中継に我慢して付き合い、食事を済ませるとそそくさと自分のガジェットを手にします。イヤホンを付けて、それぞれの世界に入ってしまえば、もはや居間のテレビに何が映っていようと興味もありません。

 

曜日や季節によっては、私が観たい音楽番組を、居間の大画面で心ゆくまで楽しめる機会も増えました。

団らんに最適なのはクイズ番組

個人の興味に沿ってそれぞれ別のものを観るようになるとかえって、みんなで同じ番組を観ておしゃべりをする一家団らんが得難いもののように思われます。人間なんて勝手なものです。

 

プロ野球のオフシーズンや、野球中継のない日の夕食時には、もっぱらみんなでクイズ番組を観るようにしています。10代から80代までの家族全員がそこそこ楽しめるコンテンツというと、かわいい動物かクイズのほぼ二択。

 

しかし動物番組は居間で観ていても義母が「ほら!かわいい!かわいいわね!観て!いま観てた?」と盛り上がってうるさ…少々賑やかすぎるので、みんなでほどよく盛り上がれるクイズ番組は貴重です。

 

気付けば息子ももう高校生。これからの進路によっては家を離れることも考えられるし、義父母も高齢になってきました。家族揃っての一家団らんというのは、これからそう長く続かない可能性もあります。

 

そう思うと、これはなかなか貴重な時間かもしれない…としみじみとする夕食時です。

文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ