壁紙や床材、カーテンなどを取り扱い、快適な空間づくりを幅広く手掛ける株式会社サンゲツ。多様性を活かした事業や組織の成長を実現するため、さまざまな取り組みを進めています。
そのひとつが、障がいのある方たちの活躍の場を広げること。雇用率を向上する目標を掲げ、働く場を新たにつくる取り組みについて、人事部 人材開発課長の栗野直樹さん、人事部 人材開発課の坂川慎之助さん、総務部ESG推進課リサイクルセンター管理担当の田幡真一朗さんに伺いました。
法定よりもさらに高い雇用率を目指して
── 障がい者雇用の取り組みを広げることになった背景を教えてください。
栗野さん(サンゲツ):
サンゲツでは、2017年からダイバーシティ推進を本格化していますが、より具体的な取り組みを進めるために、2020年、新たに長期ビジョン【DESIGN 2030】を策定しました。
これは「Inclusive(みんなで)」「Sustainable(いつまでも)」「Enjoyable(楽しさあふれる)」社会の実現に貢献することを目指したもので、ダイバーシティ推進は次のステージである「ダイバーシティ&インクルージョン推進」へ移行しました。
それにともなって、多様な個性や価値観をもつ社員の活躍を支援する制度を整えました。
例えば女性の活躍支援については女性管理職の比率を2022年度までに20%を達成するなど目標達成に向けてさまざまなアイデアを形にしています。
障がい者雇用は、約10年前から取り組んできました。2021年3月末時点で、雇用率は3.1%ですが、2022年度までに4.0%達成を目指しています。
── 2021年3月、民間企業の場合、法定雇用率が2.2%から2.3%へ引き上げられました。もともとこの率を上回っていますが、さらに高い雇用率を目標にしているのはなぜですか?
栗野さん(サンゲツ):
社員の多様性をより取り入れて、職場や組織の成長へとつなげるためです。仕事内容は、これまでロジスティクス(物流)部門でサンプル品の出荷や梱包など重量負荷が比較的少ない軽作業を中心に担ってもらっていました。今は仕事の幅を管理部門などへも広げ、各部署と障がいをもった方とが協力しながら、お互いがより働きやすい環境づくりに取り組んでいる段階です。
障がいをもつ方が活躍する場をもっと増やしたい
── 特に大切にしている点はありますか?
坂川さん(サンゲツ):
大きく4つあります。まず1つ目は、障がいをもった方と会社双方が、それぞれ納得ができる仕事や関係性が保てるかどうか。会社側が「その人がいることで助かる」と思えることと、本人がサンゲツでの仕事を快適に思えることを大切にしています。
2つ目は、支援センターと連携して本人のフォローをしていくこと。最近は精神障がいの方が増えているため、できるだけ安定的に仕事を続けられるように支援センターの社員にバックアップしてもらっています。
3つ目は、雇用前の実習を通じて、マッチングの精度を上げること。サンゲツでは、できるだけ長く働いてほしいと思っています。そのため通勤も含めて、サンゲツでの仕事がその人に合っているかを、本人と担当部署のお互いが見極める実習を大事にしています。
4つ目は、受け入れ部署の、障がいに対する理解を深め、障がいをもつ社員が活躍する職場を増やすこと。サンゲツではより幅広い職場で障がいをもった方に活躍してほしいと考えており、まずは各部署の上長にセミナーを開くなど一般的な知識をもってもらったうえで、その方のことを知ってもらいつつ経験が積めるように調整しています。
また、障がいをもつ社員全員に対し、私たち人事部と保健師が定期的に本人と面談をするようにしています。
── 障がい者雇用を進める中で、何か社員や職場に変化は見られましたか?
坂川さん(サンゲツ):
はい。障がい者の方にとって働きやすい環境を追求することで、社員全員にとって働きやすい環境へと整っているのを感じます。一人ひとりの個性や、得意不得意を踏まえた仕事上での気遣いは、障がいの有無にかかわらず、お互い気に掛けられることにつながっているように思います。
自分に合った方法を積極的に提案
── 障がいのある方は、具体的にどんな仕事をしているのでしょうか。
坂川さん(サンゲツ):
ロジスティクス部門での軽作業のほか、営業部門や管理部門では、出勤時間や業務量を調整しやすい仕事として、お客様に発送する出荷証明書の準備や、社内郵便物の仕分けなどを担当してもらっています。商品開発などを担うインテリア事業本部では、事業の関連情報を収集するなどの仕事をしている方もいます。
田幡さん(サンゲツ):
またサンゲツでは、お客様に壁紙や床材、カーテンなどの質感を実際に確認してもらう見本帳を年間150万冊発行しています。2~3年で改訂されるのですが、古い見本帳はこれまでほとんどが廃棄物として処理されてきました。その課題を解決し、環境負荷の低減や人材の活用の場づくりを進めるため、2021年3月に「sangetsu 見本帳リサイクルセンター」を立ち上げました。
ここでは現在、障がいのある方が4名、見本帳の分解などの業務に従事しています。私は現場管理を担当しているのですが、着任前は正直、皆と協力しながらうまく仕事が進められるか心配でした。
でも、いざ始まってみるとその心配はすぐに払しょくされ、今では逆に助けられています。みなさん、自分にとって仕事がしやすい方法の提案や意見を活発にしてくれるんです。障がいの有無関係なく、一人ひとり社員として、チームみんなで協力しながら仕事をしています。
── 実際に「見本帳リサイクルセンター」で働いている社員の方のお話もぜひ聞かせてください。どんな仕事を担当していますか?
福本さん(サンゲツ ):
見本帳の分解・分別と、各営業所から回収されてきた見本帳のカウントを担当しています。今の仕事は、障がい就職支援センターの求人情報を見たことをきっかけに始めました。リサイクル関連の仕事に関心があったんです。
── 仕事ではどんなことを大切にしていますか?
福本さん(サンゲツ ):
チームワークを大切に、安全第一に作業することを前提として、ミスのない正確な仕事を心掛けています。初めて見本帳を分解したときは、まだ仕事に慣れてなくて大変でしたが、自分自身がやりやすい作業の方法を提案しながら試していったことで、スムーズに仕事を進められるようになりました。
この職場では、仕分ける部材や分別場所など基本的なルールは決まっていますが、見本帳の分解方法は細かく決められておらず、互いに力を合わせながら、自分に合った方法で作業が進められる点などで働きやすさを感じます。今の目標は、見本帳の分解や分別をもっとスムーズにできるようにすること。1か月の目標冊数を達成できるように頑張りたいです。
── ありがとうございました。最後に栗野さんにお聞きします。障がい者雇用を含めた多様な人材の活躍支援について、今後どんな取り組みを進めていきたいですか?
栗野さん(サンゲツ):
サンゲツでは、障がい者の方の雇用をはじめ、LGBTQ、女性活躍などさまざまなダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進しています。現在は、サンゲツ単体での取り組みのため、サンゲツグループとして根付くように、まずは社員一人ひとりが理解を深めていくためのコミュニケーションや草の根的な行動が必要だと思っています。
長期ビジョンに掲げた、「Inclusive(みんなで)」「Sustainable(いつまでも)」「Enjoyable(楽しさあふれる)」が自然と実現されていくように、一つひとつ取り組みを進めていきたいです。
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法定の障がい者雇用率を超えながら、かれらがより活躍できる場づくりを進めているサンゲツ。「長く働く」ための環境を整えるきめ細かな取り組みが印象的でした。なかでも、働く人たちが自分に合った方法を見つけ出し、提案や意見を活発に行うことを大切にした環境づくりは、組織の成長にも良い影響を与えているのではないでしょうか。
【会社概要】
社名: 株式会社サンゲツ
設立年月: 1953年4月(創業嘉永年間)
業種: 商社・卸売り
事業内容:インテリアの企画・開発・製造・販売・施⼯、エクステリアの販売・施⼯、各種施設・オフィス空間等の企画・設計・⼯事監理・施⼯
取材・文/高梨真紀 画像提供/サンゲツ