共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

建物の壁や床、塀などを塗る左官の仕事で店舗や住宅の建築を支える有限会社原田左官工業所。まだ男性の職場というイメージが強かった30年以上前から女性の活躍を後押ししてきました。

 

今では12人の女性職人が活躍するまでになった環境づくりについて、代表取締役社長の原田宗亮(はらだ むねあき)さんにお聞きしました。

原田左官工業所社長 原田宗亮さん
代表取締役社長 原田宗亮さん。1974年東京都生まれ。2000年有限会社原田左官工業所に入社。2007年代表取締役に就任。二級建築施工管理技士・左官基幹技能者を取得。女性の左官業界の参加に力を注ぎ、建築業界のダイバーシティを推進。また左官職人を短期間で育成する技法「モデリング育成」でも注目を集める。著書に『新たなプロの育て方』(クロスメディアマーケティング)などがある。

“女性を守る”環境づくりからスタート

── 原田左官工業所では30年以上前から女性の職人を育てているそうですね。何かきっかけがあったのですか?

 

原田さん(原田左官工業所):

最初に女性の職人が当社で誕生したのは1987年です。事務職で採用した女性スタッフが「現場で働いてみたい」と話してくれたのがきっかけです。「それなら」とすぐに働いてもらうことを考えましたが、当時は、男性の職人たちが現場で女性と働くことに慣れていなかったため、女性がすぐになじめるような環境ではありませんでした。

 

そこで、「ハラダサカンレディース」という女性だけのチームを作りました。当時は、女性社員を守るという思いも込めていました。女性職人の相談役は、私の母親(当時の専務取締役)や先輩の女性が担っていました。専用の移動車も作っていたんですよ。

 

そうやって少しずつ女性の職人に実績を積んでもらいました。その後は活躍してくれています。装飾壁床のアイデアをみずから企画し、営業・施工管理・材料配合などまで一貫してできる頼もしい存在です。現在は、男女関係なく一緒に仕事をするのが当たり前になっているので、女性だけのチームもなくなりました。今は12人の女性職人が現場を引っ張っていってくれています。

原田左官工業所 左官の作業をする女性社員

── 当時は希少な女性職人を守るためにチームを作っていたのが、今では男女一緒に働くのが当たり前の環境へと変化したのですね。それまでに課題となったことはありますか?

 

原田さん(原田左官工業所):

当時、左官は男性だけの職場というイメージが根強くありました。その概念を取り除くことが大きな課題でしたね。10年くらい時間をかけて少しずつ理解を深めてもらいました。

 

── 具体的にどんなふうに取り組んだのですか?

 

原田さん(原田左官工業所):

まず、ハード面を変化させることから始めました。女性専用の更衣室とトイレ、休憩室を作ったのです。しばらく後になって育児休業制度も整えていきましたが、女性にとっての働きやすい環境を整えていった結果、若手の男性職人にとっても働きやすい環境になっていきました。男性スタッフの要望で男性専用の休憩室も作りました。

造園業や出版業から転身した女性職人も

── 今はどんなことを大切に環境づくりを進めていますか?

 

原田さん(原田左官工業所):

男女の違いをお互いが知ることが重要だと思っています。そのため、現場では男性、女性両方の意見が取り入れられる雰囲気づくりを心がけています。また、今は、経理総務を行っている業務部のトップが女性なのですが、彼女に女性職人たちの相談窓口になってもらっています。

原田左官工業所 作業中の女性社員

── 活躍している女性職人さんは今どんな思いで左官の仕事をしているのでしょうか。

 

原田さん(原田左官工業所):

女性職人には、造園業、出版業、建設業の監督職などさまざまな業界からこの世界に飛び込んだ人がいます。また高卒、大卒、職業訓練校卒業などバックグラウンドが多様です。

 

例えば、前職が出版業だった女性は、当初「納期が厳しく大変な業界だったので、お日さまのもとで仕事ができる職業に就きたい」と話していました。建設業の監督職だった女性は、「実際にものを作る現場に関わりたい」という思いを持って扉を叩いてくれました。

 

それぞれ左官という仕事について、自分の手を使って壁を塗り、建築に携わっているという実感を持ってくれているようです。

原田左官工業所 左官の作業を行う女性社員

女性の活躍で建築業界を変革したい

── 現在、環境づくりで課題に感じることはありますか?またどんな環境を目指したいですか?

 

原田さん(原田左官工業所):

原田左官工業所では、建築業界のダイバーシティを推進するために女性職人の育成に力を入れています。女性の活躍の場を増やすことで、厳しい状況が長引く建築業界に変化を起こしたいのです。

 

これまで女性職人をはじめ、働くスタッフの働きやすさを時間をかけて追求してきましたが、今は、働く時間の管理などに課題を感じています。現場の仕事はその場所に直接足を運ぶことが当たり前になっています。作業時間や労働時間などの区切りが作りにくいのです。もし、規定通りであっても、効率的に仕事を進めて終業時間を早めれば「仕事が中途半端だ」と評価される恐れがあります。

 

本来は社員を守るはずの働き方改革ですが、時間管理や労働時間を制限することで働きにくくなっている部分があります。できるだけ、働きたいときに働き、休みたいときに休める環境を整えていきたいです。今は有給休暇を取りやすい雰囲気づくりを意識していますが、職人たちがより働きやすいようにできることを積み重ねていきたいと思います。

原田左官工業所 作業をする社員

 

女性の左官職人が12人活躍する原田左官工業所の環境づくりは、女性専用の更衣室やトイレの設置など目に見える面から進めました。こうして女性に安心感を持ってもらい、スタッフ全員の意識に働きかけていく。地道な取り組みは30年以上続いています。今では男女ともが活躍する現場での真剣な表情がその深さを物語っているのではないでしょうか。 

【会社概要】
社名: 有限会社原田左官工業所
設立年月: 1949年(昭和24年)4月
業種: 建設業
事業内容: 左官工事 タイル貼り工事 防水工事 れんが・ブロック工事業

取材・文/高梨真紀 画像提供/原田左官工業所