女性の健康情報サービス「ルナルナ」などヘルスケア事業を運営するエムティーアイ(本社・東京都新宿区)は2020年10月から、希望する女性社員にピル代とオンライン診療代を全額補助する福利厚生制度を始め、話題となりました。
低用量ピルを服用すると、月経前に頭痛、情緒不安定などに苦しむ月経前症候群(PMS)や生理痛が軽減されると言われています。制度開始から1年が経過し、どうなったのでしょうか。
人事部人事企画グループの鷲頭有沙(わしず・ありさ)さんと制度を利用しているライフ事業部ライフプラットフォーム部の尤海惠(ゆう・みえ)さんに話を聞きました。
生理痛に苦しむ女性を助けたい
── 2020年10月に福利厚生制度として婦人科受診と低用量ピルの服薬支援を本格導入しましたが、導入のきっかけはなんだったのでしょう。
鷲頭さん:
社員の健康意識調査を毎年実施していて、女性社員の約8割が生理による不調を訴えていました。生理前の体調不良や生理痛などですね。
また、弊社は生理日管理を中心とする、女性の健康情報サービス「ルナルナ」など女性をはじめ人々の健康をサポートする事業を、グループ会社ではオンラインで婦人科診療を受けられる仕組み「ルナルナ オンライン診療」も実施しています。それらのことから、自社サービスを活用し、何か社員のためにできることはないかと人事部とグループ会社で考え、発案しました。
── 具体的にどういった内容でしょうか。
鷲頭さん:
まず初回は提携している婦人科に対面にて診察を受けてもらいます。問題がないことを確認してから、低用量ピルを処方してもらいます。その後は約3か月に1度、オンライン診療を受け、継続的にピルの処方を受けることが可能です。診察から数日で自宅にピルが郵送されてきます。コロナ流行のため特別に現在は初回からオンライン受診も認めています。
全女性社員約300人のうち希望する主に20代〜30代前半の40人が医師と相談しながら利用しています。
── オンライン診療という形が新しいですね。
鷲頭さん:
以前は通院するために会社を休んで病院に行く人もいましたが、今はオンライン診療を活用し、会社を有給で休まなくても休憩時間に受診でき、便利になっています。
── 1年経過していかがでしょうか。
鷲頭さん:
会社として一般的な制度になっています。募集も40人限度で行っていましたが、「制度を利用したい」という声が増えたので、10月以降50人まで利用者を引き上げる予定でいます。
── ピルはごく稀に、血栓などの副作用が起こると言われていますが、そのチェックなどはどうされていますか?
鷲頭さん:
初診時に、担当医から制度利用者に対して低用量ピルの副作用に関する説明をしています。利用者は、途中で身体の不調を感じた際、まずオンライン診療を活用して、担当医に相談してもらっています。
また当社では、年に1回、全社員向けに健康診断を行っており、その中に血液検査、子宮頸がん、乳がん検査の項目も含まれているので、そこで異常がないか確認できていると思います。
男性社員にもセミナー、すべての社員に理解を
── 男性社員から女性社員を優遇した福利厚生制度だといった指摘は来ませんか。
鷲頭さん:
発信の仕方として、女性社員をサポートするだけの制度ではないということをしっかり伝えています。
生理関係の不調で女性が働きづらい環境より、女性が心身ともに良い状態で仕事ができる方が男性、そして組織全体にとっても良いと発信しています。女性社員が生理による体調不良を改善することで、社員全体の働きやすさに繋がっています。
昨年の本格導入時に、男性社員も含めて女性の体や心の知識について学び、共有するセミナーを社内で実施しました。生理の大変さについて社員全体の意識、理解が高まっていると思いますし、男性社員にも関心を持ってもらえたと思います。
── 周囲にピルを服用していると知られたくない人はいませんか。
鷲頭さん:
1人あたり診察代とピル代を合わせて月に約5千円補助していますが、まずは利用者が医療機関に支払い、医療機関から人事部が情報をもらって直接、利用者の口座にかかった費用を振り込むようにしています。
費用に関して、部署の上長承認をなくすことで、服用していることを周囲に知られることもなく利用できるよう配慮しました。
服用者「ピルを飲んだら、仕事がスムーズに」
── 制度利用を公表している尤海惠さんに伺います。いつごろから、どうして利用されていますか。
尤さん:
1年前から使用しています。生理の1日目、2日目がとても体調が悪く辛かったです。ピルを服用すると痛みが軽くなることは知っていましたが、受診などハードルが高く感じていました。しかし、福利厚生制度で始まるので、利用してみようと思いました。
── 服用していかがですか。
尤さん:
私にとってはとても良いです。もうピルを手放せないです。最初は毎日決まった時間にピルを飲むことに不安もありましたが、今はもう日常生活の一部になっています。
仕事のスケジュール、プライベートの予定が立てやすくなりました。私は生理前の体調不良がなくなり、効果を感じています。仕事にも支障が出なくなり、スムーズに働けるようになりました。
以前は市販の薬を飲んで生理痛をしのぎ、眠気など不調がありましたが、今はないです。
── オンライン診療はいかがですか。
尤さん:
3か月に1度、「ルナルナ オンライン診療」を通して予約し、受診しています。仕事の合間にオンライン上で15分程度で受診でき、数日後にはピル3か月分が自宅に届くので便利です。
── デメリットは何かありますか。
尤さん:
最初はオンライン診療に不安がありました。直接受診しなくて大丈夫なのかなと。しかし、実際は病院に行く手間もかからないし、待ち時間も取られず、不安なことは医師に質問できるので今は利用して良かったと思っています。
他社でも実証実験、更年期症状の漢方補助も開始
── 今後の展開を教えてください。
鷲頭さん:
婦人科受診と低用量ピルの服薬支援の福利厚生制度については、さらにみなさんが使いやすいよう、現在では1か所しかないオンライン診療の提携医療機関や処方されるピルの種類を、今後増やしていきたいと思っています。
この制度は、ピルの処方を通じて、女性の働きやすさが高まり、生産性高く働いてもらえたらというだけではなく、自分の体、健康について考えてもらえるきっかけとなれば、というのが人事部の思いです。そのため、ピルを服用せず、生理のときに有給休暇をとってもらうなど、自身の体調や働き方に合せて活用してもらいたいです。
10月1日からは、更年期に悩む社員に「ルナルナ オンライン診療」を活用して産婦人科受診をしてもらい、必要な場合は漢方を処方することで不調改善をサポートする実証実験も始め、まずは社員9人が参加しています。今後も社員のライフステージに合わせた支援を検討していきます。
また、大手商社の丸紅さんが関心を持ってくださり、「ルナルナ オンライン診療」を使ったピル処方の試験導入を開始しています。他社への広がりも見えてきました。
オンライン診療の活用が広まることで、婦人科へも働きながら受診しやすい環境が整ってきているのではと感じています。他社にも普及することで、女性が健康で生き生きと働ける職場づくりに繋がればと思っています。
取材・文/天野佳代子 写真提供/エムティーアイ