姿勢が悪いと肩こりもひどくなるイメージ

悪い姿勢は不調の引き金になるばかりか、シワやくすみなど美容トラブルを招くことも。でも、その根本的原因である筋肉の緊張が、「フレーズ」を唱えるだけでゆるめられ、姿勢改善によって健康も美容も叶うとしたら…? その効果について、理学療法士の大橋しん先生に話を聞きました。 

「フレーズ」によって改善できる症状が違う!

姿勢が改善すると、固まっていた筋肉が緊張から解放されます。各関節の圧迫も軽減され、肩こりや腰痛など、関節の痛みが解消。血行もよくなり、冷えやむくみ、肌荒れなども改善されるそうです。

 

「自律神経やホルモンバランスも整うので、シワやくすみ、かさつきなどの解消にも効果的。逆に言えば、悪い姿勢は、それだけ体にデメリットをもたらします」と、理学療法士の大橋先生は話します。

 

不調はもちろん、肌トラブルも解決するなら今すぐにでも姿勢改善をしたいところですが、時間のないなかでどう実践するかが問題。

 

解決策として大橋先生が考案しているのが「フレーズを唱える」ことです。

 

「体は脳の指令で動いています。フレーズを唱え、緊張緩和された状態をイメージすることで、脳がその状態を実現しようと働きかける。その結果、自然と姿勢が良くなるという方法です」

 

今回は体のパーツ別に6つの「フレーズ」を紹介。健康&美容に関する効果とともに解説します。

 

※各フレーズを唱えやすい体勢、状況で実践にしてください。またフレーズは何回でも唱え、習慣化するようにしましょう。

 

肩こりや不眠にいいフレーズは

【フレーズ1】「背骨が鎖のようにゆれています」

背骨が鎖のようにゆれるイメージ

大橋先生は、頭と背骨が接するところを「姿勢の急所」と呼びます。

 

「背骨とは姿勢の急所から尾てい骨までを指し、鎖のように骨がつながり、しなやかに動くものです。要するに背骨は本来、背骨の急所から下に垂れ下がっているべきなのです」

 

しかし、姿勢が悪いときはその逆で、背骨が頭を突き上げてしまうそう。すると、体を固めないためにふわふわ浮かせるべき頭を、首の筋肉を固定せざるを得なくなり、猫背やストレートネックなど悪い姿勢を招くことに。

 

「このフレーズを唱えて、ゆらゆらと垂れ下がる背骨の鎖をイメージして下さい。姿勢の急所が静かで、ラクな感じがしたら、緊張がほぐれてきた証拠です」

 

姿勢以外に改善できる症状/肩こり、腰痛、疲れやすさ、冷え・むくみ、坐骨神経痛

 

【フレーズ2】「目玉はいつも水の中で漂っています」

目を凝視しないようにするイメージ

パソコンやスマホ画面などを見続けることで、想像以上に目は酷使されます。目が緊張状態にあると、首や頭、そして全身へ、筋緊張が広がる原因に。

 

「目を酷使して眼球が緊張しているときは、眼筋によって後ろから引っ張られる状態になります。このフレーズは、奥のほうに押し付けられた目玉がぷかぷか浮かぶイメージで、目を緊張から解放していくものです」

 

人間には、視覚で体のバランスをとる神経回路が走っていて、姿勢と目は相互に影響し合っています。そのため、一方が緊張すれば、もう片方も緊張することになり、「フレーズ」にはその悪循環を断つ狙いもあるそうです。

 

「目は、脳に映像を送るレンズにすぎません。ぷかぷかと浮かんでいるかのようなくつろいだ目を通って、イメージした映像が入ってくるままに任せてみましょう」

 

姿勢以外に改善できる症状/目の疲れ、ドライアイ、目の充血、緊張性頭痛、目尻や眉間のシワ

 

【フレーズ3】「春、アルプスの雪がとけるように、両肩がゆっくりと離れていきます」

上半身がアルプスのようになるイメージ

これまでの診断経験から、9割以上の人が無意識に首回りの筋肉を緊張させていると語る大橋先生。その原因は大きく2つ。

 

「肩をいからせたりすぼめたりしていることと、胸を張ろうとしすぎることです。左右の肩を離し、首回りの緊張をゆるめる必要があります」

 

ポイントは、脱力によって肩を自然と正しいポジションに導くこと。そこで「フレーズ」の力を借ります。

 

「日本アルプスなど山すその雪は、春になって暖かくなると日に日に雪解けが進み、緑の息吹が広がっていきますよね。フレーズを唱えながら、その雪解けにあわせて、ゆっくりと両肩が広がっていくのをイメージして下さい。左右はもちろん、四方八方に広がっていくようにするのがコツです」

 

姿勢以外に改善できる症状/肩こり・首こり、頭痛、息切れ、不眠、自律神経失調症、更年期障害

 

【フレーズ4】「体の中を落ちる滝を、鯉が下から上へエネルギッシュに昇っていきます」

体を鯉が滝登りするイメージ

肩をいからせ胸を張る「気をつけ」の体勢のように、下に向かう重力の力に対し、上へ上へと逆らう姿勢はNG。体を緊張させてしまう典型といいます。

 

「逆らうのではなく、重力に身を任せましょう。フレーズの『鯉の滝昇り』は、体の力を抜いたほうが、体の芯がしっかりすることを示唆しています。

 

わかりやすいのはバランスボールに乗った状態。ボールの上に腰を下ろしていると、力が抜けて体はゆらぎますよね。そのとき、無意識に体幹が働き、背骨で姿勢をキープしようとするため、体の芯がしっかりして、“骨で立てる”理想の姿勢になれます」

 

体の中を上から下に落ちる滝は、体の重さや重力を表したもの。体の力を抜いていれば、頭や上体の重みに重力も加わり、下へ下へと重みの流れが形成されます。これが滝の水の流れです。

 

「その流れを昇ろうとする力強いエネルギー、元気な鯉の姿は、体の芯がしっかりしていることの象徴。頭に描くことで自然と正しい姿勢につながるのです」

 

姿勢以外に改善できる症状/肩こり、腰痛、便秘、疲労、骨粗しょう症

 

【フレーズ5】「骨盤はワイングラスの底。いつも静かにゆれています」

骨盤の位置あたりでワイングラスがゆれるイメージ

悪い姿勢に共通するのは、骨盤が傾き、ロックされている状態。骨盤が固まってゆらがないままだと、腰椎への負担が増し、腰痛になりやすいそうです。

 

「人間の体は、常に微妙にゆらぎながら均衡を保っています。骨盤もしかり。前述したバランスボールに乗った状態のように、ゆらぎがあって骨で立っているほうが、上からのしかかる重さを分散して、効率よく体を支えられます」

 

骨盤のゆらぎはワイングラスに似ているという大橋先生。ワイングラスの底のカーブのように、骨盤の底もゆるやかにカーブしているからです。

 

「ワインは、グラスを前後にゆらしても水平さを失いません。その様子が、骨盤が姿勢や動作に合わせてゆれ、体の重みがまっすぐ中心へ降りる状態によく似ています。このフレーズを唱えて、骨盤がワイングラスの底のワインのように適度にゆれる状態をイメージできると、体をバランス良く支える力が高まっていきます」

 

姿勢以外に改善できる症状/腰痛、便秘、おなかの冷え、子関節痛、尿もれ

 

【フレーズ6】「吐く息で体がゆるみ、吸う息で背骨が立ち上がっていきます」

人間の呼吸には「『姿勢維持装置」の働きがある』と大橋先生は考えています。

 

「私たちは呼吸をしながら、無意識のうちに姿勢を微妙に修正します。吐く息で筋肉がふんわりとゆるんでいき、吸う息で背骨がしっかりと立って、伸び上がる。というように、呼吸は姿勢を維持する働きをしているのですが、それでも姿勢が崩れるのは、呼吸のゆらぎに身を任せていないからです」

 

この「フレーズ」は呼吸のゆらぎに身を任せるためのもの。唱えながら数回呼吸し、体が前後にゆらいでいくのを感じましょう。

 

「吐く息で体の力が抜けて、吸う息で自然と姿勢が伸びていくのを実感するはずです。呼吸のゆらぎに身を任せてさえいれば、基本的にねこ背になることはありません」

 

姿勢以外に改善できる症状/うつ、疲れやすさ、肥満、骨粗しょう症、高血圧

頑張らないで続けるのがコツ

「フレーズ」は、生活習慣の中に取り入れると続けやすいでしょう。たとえば、通勤中の歩いているとき、料理や洗濯など家事をしているとき、などです。

 

「忙しい人でも、フレーズを唱えるだけならスキマ時間で継続できます。それだけでも、姿勢を整えることは可能です」

 

「フレーズ」は自分の不調な部位に合わせ、好きなものだけを実践して構いわないそう。複数唱えたとしても1分もかかりません。

 

「注意すべきは、頑張らないこと。頑張るのは体を緊張させて固くするアプローチなので、逆効果。むしろやる気ゼロのほうが体にムダな力が入らず、フレーズがもたらすイメージを素直に受け取れます。ですから、ぜひ気楽な気持ちで試してください」

 

PROFILE 大橋しん

1978年、岐阜県生まれ。ドイツでアレクサンダー・テクニークを知り、帰国後に理学療法士とアレクサンダー国際認定教師の資格を取得。神戸の整形外科クリニックに「特命理学療法士」として長年在籍し、難治性疾患の患者を回復へ導く。2020年に独立。初の著書『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』が話題。

取材・文/百瀬康司 イラスト/鈴木衣津子