共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

リモートワークが進むにつれ、オフィスを縮小する企業が出てきています。画像提供サービスで知られるピクスタ株式会社も、今年2月にオフィスを縮小移転しました。

 

オフィスを縮小するにあたり、ピクスタでは新オフィスの存在意義について議論したといいます。新オフィスを作る上で重視したポイントや社内の反応など、前回に引き続き広報の小林さん、人事総務部の野田さんに伺いました。

 

PROFILE

(左)経営企画部 広報 小林順子さん、(右)人事総務部 野田えりさん

オフィスをなくすか、縮小するか、社内で議論

──御社は今年2月にオフィスを縮小移転されたそうですね。

 

小林さん:

そうなんです。きっかけとなったのは、コロナによってリモートワーク主体の働き方に完全に移行すると決めたことです。

 

(前回の記事でも触れましたが)弊社では、コロナが騒がれ始めた2月から「在宅勤務推奨」としてリモートワークがスタートしました。その後、緊急事態宣言が発令されると「原則出社禁止」へ感染対策を強化し、本格的なリモートワークが始まりました。

 

宣言が明けた後は、人数制限をしながら出社してもいいことになりましたが、出社する人はほとんどいなくて。社員数120人くらいなのですが、広々としたオフィスに多くて数人〜10人くらいしかいないという状態が続きました。

 

今後もコロナが長引いて、しばらくこの状態が続くことや、リモートワークでも業務上問題がないこと、出社が許可されてもほとんど出社する人がいなかったことから、昨年11月にリモートワーク主体の働き方に舵をきることにしたのです。

 

そんななか、今後のオフィスのあり方を社内で議論した結果、縮小移転することに決めました。以前のオフィス近くの物件を総務部が探してくれて、新オフィスは以前より3分の1くらいの広さです。

 

──オフィスの廃止も検討されるなかで、どのような理由から残すことになったのでしょうか。

 

小林さん:

議論するなかで、オフィスがないと漠然とした不安感がありそうだという話になりました。それが具体的に何かと聞かれたら説明が難しいのですが、社員にとって「あそこに行けば会える」と思い描くことができる共通の場所があるというだけで、共通の帰属意識につながるのではと考えました。

 

やはりこの会社で働いていてよかったとか、この会社が好き、この会社の事業が好き、一緒に働くメンバーが好きなど、どの要素も大事だと思いますし、ほかにもいろんな要素が積み上がれば積み上がるほどポジティブに働けると思うんです。

 

もちろんオフィスの存在だけがその役割を担うわけではないと思うのですが、その一端だとは思いますね。

 

つまり、新オフィスはピクスタにとって「象徴的な場所」なのです。

 

また、弊社の事業はプラットフォーム事業なので、従業員のコミュニケーションという面だけでなく、ステークホルダー、プラットフォームを利用してくださっている方々、つまりクリエイターさんと購入者の方にとって、オフィスがないということで不安感が出てしまうこともあるという点も考慮しました。

 

コロナ前はクリエイターさんたちに向けたセミナーや交流会なども開催していたので、クリエイターさんやカメラマンさんたちからは、「運営との距離が近いのが魅力」「顔が見える安心感がある」と言っていただけていました。

 

──オフィスがあることは、たとえリモートワーク主体とはいえ、社員にとって重要なんですね。新しいオフィスを作る上で重視した点や工夫した点を教えてください。

 

小林さん:

これまでも弊社ではコミュニケーションを大事にしてきたので、以前のオフィスを踏襲しているところもありますが、新オフィスもコミュニケーションしやすい場所にしようと考えました。

 

やはりオンラインだけですべてが解決できるわけはないと思っているんです。リアルで会うことで得られる情報量はオンラインよりも多いと思うので。

 

野田さん:

会社としては、リモートが主、リアルが従という方針なので、あくまでリアルも捨てきっていないというのが前提にありますね。

 

小林さん:

よりコミュニケーションが活性化するようにということと、以前よりも狭くなった分、開放感があって集中しやすいよう考えて設計されています。

 

たとえば、ソファ席やカフェスペースがあるのですが、そこを広めに作ったり、ちょっと話したいときに気軽にコミュニケーションがとれるよう、スタンディングテーブルも設置しました。

気軽に話ができるスペースとして設けられたスタンディングテーブル

 

野田さん:

機能的にも使いやすくなりました。以前は固定席だったのですが、今はフリーアドレスになったり、個人ブースがあったり。

 

フリーアドレスになったら誰も私物を置かなくなったので、すごくすっきりして自然と集中しやすい環境になりました。

コミュニケーション促進のために固定席をなくし、フリーアドレスに

 

──オフィスを移転して、社員のみなさんの反応はいかがですか?

 

小林さん:

好評ですね。まだ一度もオフィスに行ったことがない人もいるのですが、出社したメンバーが動画を撮影してオフィスツアーをやってくれたりして、「新オフィスに行くのが楽しみ!」とポジティブに捉えてくれているようです。

 

──新しいオフィスで今後やってみたいことなどはありますか?

 

小林さん:

新オフィスは、2030人くらいは集まることが可能なので、コロナが落ち着いたらリアル出社をする日を設けたり、部署やチーム、プロジェクト単位でリアルに集まってチームビルディングをするような機会も検討していきたいと考えています。

 

リモートワーク主体の働き方になったことで、コミュニケーション施策という点でも、より活性化していけるように予算を使っていきたいと考えています。

 

出社がないと寂しいという人もいれば、寂しくないという人もいます。リモートワーク主体の今の働き方が理想だけど、たまには会いたいという人も一定数います。今はどちらにも対応できる環境が整った状態ですね。

 

弊社はもともと、個人の人生を大事にするという考えを掲げていて、個人がやりたいことと会社の方向性が交差するのであれば、一緒に働く意義があると考えています。

 

それぞれの長所や得意なことを含めて才能とよんでいるのですが、会社としてはその才能を遺憾なく発揮してもらえる環境を整備していきたいと考えているのです。それがオフィスなのであればオフィスで働けばいいし、自宅、地方、都心のコワーキングスペースなど選べるといい。「自律自走」の精神のもと、個人のライフイベントのキャリアへの影響を最小限にし、生産性高く働いてもらいたいという想いで、自由な働き方を推奨しています。

 

野田さん:

自由に、自分なりのスタイルで会社と関わることができるということが、エンゲージメント的にも会社への帰属意識につながると思っているので、基本的なスタンスは今後も変わらないと思います。自由な働き方ができるというのがだんだん文化になっていくのかなと思いますね。

 

 

今回の取材を通して、オフィスは単に仕事をする場所ではなく、「象徴的な場所」という言葉が印象的でした。リモートワークの広がりでリアルに会う機会が減っても、企業で働く人にとって心の拠りどころになるオフィスの存在は重要なのだと感じました。

 

また家庭の事情で仕事を辞めざるを得なかった人が、キャリアをあきらめなくてもいい環境を整えるピクスタのような取り組みがもっと世の中に広がるといいと思いました。

 

取材・文/田川志乃 画像提供/ピクスタ株式会社