美しい歯は、仕事にも好影響を与える

「欧米では『美しい歯』は教養があり、仕事でも評価される人の象徴と考えられています。いい仕事に就ける・就けないが『歯』で変わってしまうんです」。

 

欧米の歯科事情に詳しく、『世界の一流はなぜ歯に気をつかうのか』の著書もある森下真紀先生。「歯の美しさ」はエリート層だけではなく、一般の社会人にとっても重要だといいます。

欧米で評判の悪い「日本人の歯並び」

「日本人って歯並びが悪い人が多いよね?」

 

イギリスに留学し、プライベートでも欧米人との交流が多い森下先生。留学時代からしばしばそういわれたといいます。

 

「欧米では子どもの頃から矯正治療し、ホワイトニングも一般的。一方、日本ではそれなりの役職に就く人にも、歯科矯正は普及していません。欧米人は『そんな高い地位に就いているのに、歯をケアするお金がないの?』と驚いてしまうんです」

 

「歯並びが悪い」と自己管理できない人扱い

日本でも仕事で身だしなみや言葉づかいが大切なのは、広く理解されています。欧米では、歯並びもこれらの要素のひとつだそう。

 

「肥満、喫煙と並んで、歯並びの悪さは欧米ではネガティブにとらえられます。どれも自分でコントロールできるからです。できていないと『自己管理できない、自分に甘い人』と見なされ、評価が落ちることもあります」

 

仕事の契約、新規事業、採用試験…あらゆるビジネスシーンにおいて、この判断が適用されると森下先生。

 

「日本でも採用試験にTシャツで行ったり、乱暴な言葉遣いをする人はいませんよね。歯並びも同じ。歯並びがよいだけで選ばれることはありませんが、歯並びが悪いと、それだけでその程度の人との評価が下されます。だから欧米のビジネスパーソンは、歯のケアに力を入れています」

コロナ禍で大人の歯科矯正が増えてきた

「美しい歯」に対する意識が欧米よりも低いといわれる日本ですが、最近になって少しずつ歯への意識が高まりつつあると森下先生はいいます。

 

「『歯科矯正は子どもがするもの』と思われがちですが、年齢に関係なく治療できます。30〜40代、さらには50代のビジネスパーソンでも、マスク着用で口を隠すようになったのを機に、矯正治療を始める方が増えました」

性格まで変わる?歯科矯正の効果

歯科矯正をした患者さんの中には、「『最近、明るくなったね』といわれることが増えました」という人が多いそうです。

 

「歯並びに自信がないと、無意識に歯を隠そうとします。そのため心からの笑顔にならないようです。でも歯がきれいになると自信がつき、自然と笑顔が出るようになります」

 

社内外の会議など、仕事ではさまざまな相手とコミュニケーションをとる場面があります。笑顔の有無は、コミュニケーションの質を大きく変えると森下先生。

 

「笑顔には相手の警戒心をとき、共感を生み出す力があります。同時に、話し手の自信と能力を伝え、よい印象をつける効果も。結果として周囲の評価も変わっていくんです」

自然な笑顔が与える影響と効果とは?

森下先生は笑顔が周囲に与える影響以上に、内面に及ぼす効果に注目してほしいと考えています。

 

「日本人は欧米人に比べて自己肯定感が目立って低く、結果が見えにくいことに意欲をもって取り組むのを避ける傾向にあります。お隣の韓国と比較してもそうです

(※1)

。笑顔には、消極性を変える力があると思います」

 

笑顔には、快感や多幸感をもたらすドーパミンなどの“幸せ物質”を増やす効果があるといわれています。幸福感が増えれば自己肯定感も高まり、おのずと自分の判断や行動にも、自信が持てると森下先生。

 

「歯並びがきれいになると、笑顔、さらには自信を手に入れられる。それが仕事に好影響を与えるのは自然なこと。誰だって自信がなさそうな人より、笑顔が素敵で自信にあふれた人を信頼します。実際、患者さんからも、『最近、仕事がうまく回るようになりました』『新しい契約が取れました』といった方が多いんですよ」

“おじさん病”ではない 歯周病は女性の病気

「『美しい歯』を手に入れて仕事を好転させてほしい」と話す森下先生。特に働く女性の方々に、歯科矯正を考えてほしいといいます。その理由は、歯科矯正は歯周病予防にも効果的だからです。

 

「『歯周病はおじさんの病気』だと考えている方はいませんか?でも実態は違います。女性のほうが体質的に、歯周病になりやすい。歯周病患者数では女性が男性の約1.5倍。女性のほうが圧倒的に多いんです

(※2)

 

女性のほうが歯周病になりやすい理由は、女性ホルモンにあります。排卵期の前後、そして特に妊娠期では、女性ホルモンが急激に増加。なかでもエストロゲン

(女性ホルモンの一つ)

は、ある種の歯周病菌を増殖させ、歯周病の進行を促進させます。

 

妊娠期では、つわりや体調不良で歯のケアが行き届かなくなり、より歯周病が悪化やすいのです。また更年期には、ホルモンバランスの乱れや骨密度の低下が進んで、歯周病が進行しやすくなります。

 

「『思春期性歯肉炎』『妊娠性歯肉炎』『更年期性歯肉炎』ともいわれ、女性は生涯にわたって歯周病リスクが高いんです」

忙しく働く女性こそ、歯科矯正を

森下先生が働く女性に歯科矯正をすすめるもうひとつの理由は、歯のケアにかかる手間を減らせるからです。歯周病の原因はプラーク(歯垢)の磨き残し。歯並びが悪いと、どんなに注意しても磨き残しが多くなるといいます。

 

「歯並びを治して口内をケアしやすくなると、日々のブラッシングの手間はもちろん、治療時間も費用も大きく下げられます。30、40代でも歯科矯正は遅くありませんよ」

PROFILE 森下真紀さん

森下真紀先生
歯科医師・歯学博士・歯科総合研究所代表取締役社長(https://www.shikasouken.co.jp/)。東京医科歯科大学卒業。英国キングスカレッジ・ロンドン歯学部に留学後、東京医科歯科大学大学院にて博士号を取得。著書『世界の一流はなぜ歯に気をつかうのか』(ダイヤモンド社/2020年)
歯の健康が思っている以上に大事な訳
取材・文/長根典子

(※1)内閣府「今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~」平成26年版 
(※2)厚生労働省『患者調査の概況』2017年